「桜ちゃん、廃刀令って知ってる? 基本的にね、俺らみたいな軍人以外は、刀持っちゃいけないんだよ」
「……そなの?」
鼻をすする。
山崎はへらーっと笑っていた。
「そうそう。ずっと俺らみたいな奴らに囲まれていると、ついつい忘れちゃうかもしれないけど……攘夷戦争後、そんな法令が発せられててね。だから、沖田隊長も、桜ちゃんには刀を持たせられないんだよ」
「ふーん……」
廃刀令。それは初耳だった。確かに、江戸の平和を望むなら、悪くない法案なのかもしれない。よくよく思い返せば、桂は攘夷浪士だから例外だとして、銀時は木刀を持っていた。彼のことだから、他にもいろいろと思惑がありそうだが、市民として条例を守ることにも繋がっているのだろう。
ならば、わたしも刀を腰に下げてたら、より一層街で浮いてしまうことになる。
それに第一、治安を守る真選組内で、条例違反を見逃すわけにはいかないだろう。
わたしは刀を持てない。持たせられない。
けど、理解はできても、納得するわけにはいかない。
「じゃあさ、わたしはどうやって、総悟くんを守ればいいわけ?」
「へ?」
わたしの質問に、山崎は目を丸くした。他の隊士たちも同じような顔をしている。
「刀の扱いだったら、けっこう自信はあるのだけど、素手の格闘戦って、体格的な問題もあって、あまり得意じゃないのよね。今から鍛えたら、それそこ何年って時間かかっちゃうだろうし……あ、わたしも木刀使えってこと? でも、木刀だと切れ味がない分、腕力で補わなきゃいけないから、こないだ使ってみたけど、やっぱりキツイものがあるのよね。あのあと、ジンジン手が痺れちゃったし、一振りが限界だったかな」
「あー……あの、桜ちゃん」
「なに?」
山崎がおろおろして訊いてくる。
「桜ちゃんが沖田隊長を守るって……本気で言ってる?」
わたしは躊躇いもなく、頷いた。
すると、隊士たちが一斉に笑いだす。山崎なんて、泣いているくらいだ。
「え、ちょっと……何がそんなにおかしいのよ?」
顔をしかめると、山崎が涙をぬぐって言ってくる。
「さ、桜ちゃん……沖田隊長、一番隊隊長って知ってる?」
「そのくらいは知ってるわよ? 自分で散々名乗ってるしね」
「うん。一番隊隊長って、ようは、特攻隊隊長なんだ。敵陣を斬り込んでいく役目なの。その隊長には、どんな人がなると思う?」
そんなの、決まっているじゃないか。
「一番強い人でしょ?」
山崎は大きく頷いた。
「そう、沖田隊長は、この真選組で一番の剣の達人と呼ばれているからね。桜ちゃんが守らなくても、隊長はそう簡単に倒れたりはしないよ」
「けど、まだ十代でしょ? 剣の腕がたつだけで、強いとは限らないじゃない? やっぱり、大人のフォローが必要よ」
「……桜ちゃんも、同じくらいじゃなかったっけ?」
わたしはむくれて、首を振った。
「わたしはこう見えても二十三です。見た目で判断しないでください」
「はは……ごめんよ」
まぁ、ずっと眠っていたし、身体は確かに十代のままなのだが、それでも成人しているのだ。一緒にされるのは心外である。
「それなのに、どうして総悟くんはあんなに怒るんだろう……」
わたしはぼそっと呟く。子供は大人に守られて当然なのだ。別に、恥ずかしいことではないのだ。
それをあんなに拒絶するというのは、背伸びしているということ。そんなコ、余計に危ないし、ほっとけないじゃないか。
「まったく、人の気も知らないで……」
頬を膨らませてそう言うと、隊士たちはくつくつと笑っていた。わたしはそれを目だけで見上げる。
すると、山崎はまた涙をぬぐいながら言った。
「いや、隊長も報われないなぁーって思ってさ」
その時、玄関の方から大声が聴こえてきた。
「たいへんだー! 副長が……攘夷浪士にやられたらしいぞー!」
その声に、わたしを囲んでいた隊士たちが玄関へと走り出す。わたしも、顔を手で拭って、そのあとを追うことにした。