玄関には隊士たちがたくさん集まっていた。井戸端会議というのはこんな感じなのかな、と一瞬思ったが、そんなことよりも噂の内容が興味ありすぎた。
「マジかよ、副長が負けたってマジ?」
「負けた以前に、やりあう前から土下座したって話だぜ」
「副長が土下座ぁ? 鬼の副長だぞ? 死ぬとわかってたって、刀一本で挑んでいくような副長だぜ」
「なぁ。むしろ、おれらがそんな真似した際には切腹しろー局中法度破りやがってーて言ってくるくらいだぞ」
非番だろうが業務中だろうが関係なく、隊士たちはみんな同じようなことを言っていた。
いやはや。
それを遠くの陰から除くように見て、聞いていたのだが、付き合いの短いわたしでもびっくりである。
あの
あの鬼の副長が。
敵に対して、「見逃してください」と土下座したとのこと。
しかも、どうやら敵と言っても、雑魚にも等しい名も知られていない浪士だったとのこと。
――別に、あの人そんな弱くはないでしょうに。
体調が絶頂に悪かったときだったが、一度手合わせした、あの土方である。最後まで試合はできなかったけれど、剣士として十分に強者には違いないだろう。
なんでまた――と、話を聴きながら考えていた時である。
「そんなに興味があるのなら、桜さんも話に加わってみたらいかがですか?」
後ろから、優雅に声を掛けられた。
真選組の制服を着ているが、見たことのない顔だった。細い眼鏡をかけた、背の高い短髪の男である。良く言えば、育ちがいいのか。ただのインテリか。他の隊士たちのような荒くれた雰囲気ではなく、知的さや優雅さを感じさせる男だった。まぁ、ちゃんと腰には刀を下げているので、やることはやっているのだろうが。
礼には礼を。そういう態度の相手ならば、わたしもそういう態度を取らなければ、である。
「ごめんなさい。以前、どこかでお会いしましたか?」
わたしが首を傾げると、その男は謝罪した。
「申し訳ございません。あなたの噂はかねがね聞いていたのですが、お会いするのは初めてです。いきなり声をかけてしまい、驚くのも当然ですよね」
男はにこりと笑う。
「僕は
京都――その単語に、わたしは思い当たる節があった。
「あ、武器を仕入れてきた人?」
伊東は、笑顔のまま頷いた。
「はい。政府や行商人など色々掛け合いまして、頑張って取引してきました。みんな喜んでいたらいいけれど」
「みんな凄い勢いで買ってましたよ。わたしも本当は欲しかったんだけど、なにぶんお金がなくて」
「おや、珍しいですね。女性なのに、武器が好きなんですか?」
目を見開く伊東に、わたしは困った笑顔を返した。
「好きってわけでもないんですけど……必要な時に、ないと困っちゃいますよね」
「必要な時……ありますか? そんな美しいのだから、守ってくれる男の一人や二人、いるでしょうに」
その時だ。玄関の扉がガラッと開く。
全身汗だくの副長が、雪崩れ込むように入ってきた。