偽訳・銀魂 白夜叉の妹と真選組   作:由比レギナ

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バイトのきっかけは大抵似たようなものである③

 玄関には隊士たちがたくさん集まっていた。井戸端会議というのはこんな感じなのかな、と一瞬思ったが、そんなことよりも噂の内容が興味ありすぎた。

 

「マジかよ、副長が負けたってマジ?」

「負けた以前に、やりあう前から土下座したって話だぜ」

「副長が土下座ぁ? 鬼の副長だぞ? 死ぬとわかってたって、刀一本で挑んでいくような副長だぜ」

「なぁ。むしろ、おれらがそんな真似した際には切腹しろー局中法度破りやがってーて言ってくるくらいだぞ」

 

 非番だろうが業務中だろうが関係なく、隊士たちはみんな同じようなことを言っていた。

 

 いやはや。

 

 それを遠くの陰から除くように見て、聞いていたのだが、付き合いの短いわたしでもびっくりである。

 

 あの土方十四郎(ひじかたとうしろう)が。

 

 あの鬼の副長が。

 

 敵に対して、「見逃してください」と土下座したとのこと。

 

 しかも、どうやら敵と言っても、雑魚にも等しい名も知られていない浪士だったとのこと。

 

 ――別に、あの人そんな弱くはないでしょうに。

 

 体調が絶頂に悪かったときだったが、一度手合わせした、あの土方である。最後まで試合はできなかったけれど、剣士として十分に強者には違いないだろう。

 

 なんでまた――と、話を聴きながら考えていた時である。

 

「そんなに興味があるのなら、桜さんも話に加わってみたらいかがですか?」

 

 後ろから、優雅に声を掛けられた。

 

 真選組の制服を着ているが、見たことのない顔だった。細い眼鏡をかけた、背の高い短髪の男である。良く言えば、育ちがいいのか。ただのインテリか。他の隊士たちのような荒くれた雰囲気ではなく、知的さや優雅さを感じさせる男だった。まぁ、ちゃんと腰には刀を下げているので、やることはやっているのだろうが。

 

 礼には礼を。そういう態度の相手ならば、わたしもそういう態度を取らなければ、である。

 

「ごめんなさい。以前、どこかでお会いしましたか?」

 

 わたしが首を傾げると、その男は謝罪した。

 

「申し訳ございません。あなたの噂はかねがね聞いていたのですが、お会いするのは初めてです。いきなり声をかけてしまい、驚くのも当然ですよね」

 

 男はにこりと笑う。

 

「僕は伊東鴨太郎(いとうかもたろう)と申します。まだ真選組に所属して一年程度の若輩者ではございますが、最近まで京都に出張してまして、つい先ほど帰ってきたところなんです」

 

 京都――その単語に、わたしは思い当たる節があった。

 

「あ、武器を仕入れてきた人?」

 

 伊東は、笑顔のまま頷いた。

 

「はい。政府や行商人など色々掛け合いまして、頑張って取引してきました。みんな喜んでいたらいいけれど」

「みんな凄い勢いで買ってましたよ。わたしも本当は欲しかったんだけど、なにぶんお金がなくて」

「おや、珍しいですね。女性なのに、武器が好きなんですか?」

 

 目を見開く伊東に、わたしは困った笑顔を返した。

 

「好きってわけでもないんですけど……必要な時に、ないと困っちゃいますよね」

「必要な時……ありますか? そんな美しいのだから、守ってくれる男の一人や二人、いるでしょうに」

 

 その時だ。玄関の扉がガラッと開く。

 

 全身汗だくの副長が、雪崩れ込むように入ってきた。

 

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