「土方さんっ!」
てっきり軒先で煙草を吸っているのかと思って探したのだが、なかなか見つからず。
二十分くらいしてようやく発見した場所は、屋根の上だった。
「よっと」
わたしは屋根の端にぶら下がっていたのだが、反動をつけてよじ登る。
土方は煙草も吸わずに、体育座りをしていた。そして、手のひらより少し背が高いくらいの人形を握りしめている。
「んーと……」
――怯むな、わたし!
喝を入れて、土方の隣に座る。そして、空を見上げてみた。
満天の星空――を、遠くのビル群から上がる煙が雲のようにうっすら覆っている。若干残念な感じがするが、そんな感じもこの江戸らしくて、いいかと思う。宇宙船が発着陸しているようだ。
――こんな夜遅くに、珍しいわね。
しかし、そんなことより珍しいのが、土方である。珍しいというより、意外と言うべきなのかもしれない。
それを、素直に口にしてみることにする。
「土方さん、案外ロマンチストなのね」
「
恐る恐るといった様子でこちらを向いてくる土方に、わたしは笑顔を向けた。
「屋根の上で夜空を見上げるような趣向がある人とは、思ってなかったから」
「そうで……ござるか?」
頷いて、わたしは身体を伸ばす。
「土方さんはもっと冷徹で、情緒とか全然気にしなさそうで……あ、そうでもないか。お祭りのとき、ちょっとマヨネーズ自重してたね」
土方は俯いて、じっと人形を見つめている。
その人形は、昼間に見た一枚絵と同じ少女のものだった。前に人差し指を出している様は、いかにも勝気である。
そんな少女を、じっと見つめて。心で何かを語りかけているのか、相談しているのか。とにかくじっと見つめて。
「わたしはどっちでもいいんだけどね」
そんな土方に前置きして、一方的に言ってみることにする。
「普段一生懸命働いている土方さんにね、そういった趣味があるのも、いいと思う。人間ストレス発散ってのも必要だし、まぁ……土方さん男だもの。女にはわからない趣味趣向があったって、おかしくないだろうし」
そして一呼吸して、言った。
「あるいはね、あなたが、実は土方さんじゃないっていう可能性があったって、世の中あると思うよ? わたしも似たような経験あるし」
すると、土方が再びこちらを向いた。目を見開いて、
「ホントでござるか! 桜氏も憑依したことあるでござるか!」
――やぁ、後者かぁ。
自分で言っておきながらあれだが、前者だといいなと思っていたのが事実である。
いや、だってさ。前者なら、あーあ土方さんも可愛いとこあるのねー、で、終わる話じゃないか。ネタとして面白いかな、とか、弱み握ってお小遣い貰うのも無きにしも非ず? みたいな。
けどさ、どうやら後者確定らしく。なんか土方さん、変なのに取り憑かれちゃったらしく。聞いちゃったからには、知らなーい、あとは頑張ってねー、で終わらすわけにはいかず。土方には焼きそば時の恩もあるし、なんか不器用ながらも色々気を使ってもらってた感はあったし、恩返しするには何も異論はないんだけど。
いやー、除霊か。わたしも身体乗っ取られたというか、洗脳にあったことはあるけど、そんな類いか。
ほっとけないけど、参ったな――そんな胸中を笑顔で隠して、
「まぁ、わたしは乗っ取られた側だけどね」
そう返答する。
土方(仮)の目は輝いていた。
「いやぁ、やっぱり桜氏は他の人とは一味違うと思っていたでござる! 拙者、桜氏だったら全身を預けてもよいでござる!」
「や……それはわたしが困るけどね」
その人形ごと、彼はわたしの両手をまた握ってきた。
「実は拙者は――」
そして彼が語り続けて六時間。宴会もとっくにお開きになっていて、もう少ししたら朝日が昇って来る頃まで、わたしは彼の話を聞く羽目になった。
どのみち、数日土方と行動を共にしなければならなかったのだ。これも仕事である。お金を稼ぐのは甘くないのだ!
そう自分に気合をいれて六時間を乗り切ったのだが、部屋に戻ろう屋根から降りた時、わたしは誰かが立ち去るような足音を聴いた。
「……総悟くん?」
なんとなくそんな気がして後を追ったが、わたしは誰の姿も見つけることが出来なかった。