偽訳・銀魂 白夜叉の妹と真選組   作:由比レギナ

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バイトのきっかけは大抵似たようなものである⑥

 

「土方さんっ!」

 

 てっきり軒先で煙草を吸っているのかと思って探したのだが、なかなか見つからず。

 

 二十分くらいしてようやく発見した場所は、屋根の上だった。

 

「よっと」

 

 わたしは屋根の端にぶら下がっていたのだが、反動をつけてよじ登る。

 

 土方は煙草も吸わずに、体育座りをしていた。そして、手のひらより少し背が高いくらいの人形を握りしめている。

 

「んーと……」

 

 ――怯むな、わたし!

 

 喝を入れて、土方の隣に座る。そして、空を見上げてみた。

 

 満天の星空――を、遠くのビル群から上がる煙が雲のようにうっすら覆っている。若干残念な感じがするが、そんな感じもこの江戸らしくて、いいかと思う。宇宙船が発着陸しているようだ。

 

 ――こんな夜遅くに、珍しいわね。

 

 しかし、そんなことより珍しいのが、土方である。珍しいというより、意外と言うべきなのかもしれない。

 

 それを、素直に口にしてみることにする。

 

「土方さん、案外ロマンチストなのね」

拙者(せっしゃ)が、ロマンチスト……?」

 

 恐る恐るといった様子でこちらを向いてくる土方に、わたしは笑顔を向けた。

 

「屋根の上で夜空を見上げるような趣向がある人とは、思ってなかったから」

「そうで……ござるか?」

 

 頷いて、わたしは身体を伸ばす。

 

「土方さんはもっと冷徹で、情緒とか全然気にしなさそうで……あ、そうでもないか。お祭りのとき、ちょっとマヨネーズ自重してたね」

 

 土方は俯いて、じっと人形を見つめている。

 

 その人形は、昼間に見た一枚絵と同じ少女のものだった。前に人差し指を出している様は、いかにも勝気である。

 

 そんな少女を、じっと見つめて。心で何かを語りかけているのか、相談しているのか。とにかくじっと見つめて。

 

「わたしはどっちでもいいんだけどね」

 

 そんな土方に前置きして、一方的に言ってみることにする。

 

「普段一生懸命働いている土方さんにね、そういった趣味があるのも、いいと思う。人間ストレス発散ってのも必要だし、まぁ……土方さん男だもの。女にはわからない趣味趣向があったって、おかしくないだろうし」

 

 そして一呼吸して、言った。

 

「あるいはね、あなたが、実は土方さんじゃないっていう可能性があったって、世の中あると思うよ? わたしも似たような経験あるし」

 

 すると、土方が再びこちらを向いた。目を見開いて、

 

「ホントでござるか! 桜氏も憑依したことあるでござるか!」

 

 ――やぁ、後者かぁ。

 

 自分で言っておきながらあれだが、前者だといいなと思っていたのが事実である。

 

 いや、だってさ。前者なら、あーあ土方さんも可愛いとこあるのねー、で、終わる話じゃないか。ネタとして面白いかな、とか、弱み握ってお小遣い貰うのも無きにしも非ず? みたいな。

 

 けどさ、どうやら後者確定らしく。なんか土方さん、変なのに取り憑かれちゃったらしく。聞いちゃったからには、知らなーい、あとは頑張ってねー、で終わらすわけにはいかず。土方には焼きそば時の恩もあるし、なんか不器用ながらも色々気を使ってもらってた感はあったし、恩返しするには何も異論はないんだけど。

 

 いやー、除霊か。わたしも身体乗っ取られたというか、洗脳にあったことはあるけど、そんな類いか。

 

 ほっとけないけど、参ったな――そんな胸中を笑顔で隠して、

 

「まぁ、わたしは乗っ取られた側だけどね」

 

 そう返答する。

 

 土方(仮)の目は輝いていた。

 

「いやぁ、やっぱり桜氏は他の人とは一味違うと思っていたでござる! 拙者、桜氏だったら全身を預けてもよいでござる!」

「や……それはわたしが困るけどね」

 

 その人形ごと、彼はわたしの両手をまた握ってきた。

 

「実は拙者は――」

 

 

 

 そして彼が語り続けて六時間。宴会もとっくにお開きになっていて、もう少ししたら朝日が昇って来る頃まで、わたしは彼の話を聞く羽目になった。

 

 どのみち、数日土方と行動を共にしなければならなかったのだ。これも仕事である。お金を稼ぐのは甘くないのだ!

 

 そう自分に気合をいれて六時間を乗り切ったのだが、部屋に戻ろう屋根から降りた時、わたしは誰かが立ち去るような足音を聴いた。

 

「……総悟くん?」

 

 なんとなくそんな気がして後を追ったが、わたしは誰の姿も見つけることが出来なかった。

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