偽訳・銀魂 白夜叉の妹と真選組   作:由比レギナ

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捨て猫にはむやみに餌を与えてはいけない②

 わたしはスルメを奪い取ろうと手を伸ばした。すると、少年は立ち上がってしまい、するめが遠ざかる。そして、その少年はにたりと笑う。

 

 ――こんちくしょぉぉぉおおおお!

 

 わたしも立ち上がろうと足に力を入れた。しかし、中腰になった段階で力尽きてしまい、またこつんと座り込んでしまう。地面が堅く、お尻が痛い。

 

 ――くそぉ……なんでわたしがこんな目に合わなきゃいけないのよ。

 

 お尻をさすりながら、ふと気づく。

 

 ここはどこかの道場の前のようだ。大きな門構えに立派な表札が掲げられているようだが、横からだとなんて書いてあるか見えない。さびれた道場なのか、繁華街から遠いのかはわからないが、この少年以外に人通りはない。

 

 これは不幸中の幸いである。人通りの多い通りにこんなあられもない姿で捨て置かれた際には、間違えなく切腹もんである。

 

 わたしの裸を前にして、全く興味を抱かないこの少年若干腹立つものの、これも幸いのうちの一つだろうか。

 

 ご飯も食べたいが、いい加減この状況を打破しなくてはならない。そろそろ上着を貸すよう頼んでみるか。

 

「ほれ、どした。餌はいらないので? ん?」

 

 しかしこの少年はわたしの心中など無視するかのように、ただただ人をおちょくるのに全力のようである。

 

 ――にゃろぉぉぉぉおおおおおお!

 

 一息気合いを入れて、わたしはまた天高く掲げられたするめに挑もうとした。

 

 そんな時。少年の背後に突如、笠をかぶった背の高い男が現れる。

 

 笠からちらりと見える白髪と、その下に覗く冷たすぎる眼光。古ぼけた黒い装束はまさに御徒士おかち組。錫杖のシャンとした音か晴天に響く。

 

 その姿に、背筋が凍る。息が詰まる。

 

 夢を思い出す。

 

 夢であってほしかったことを思い出す。

 

 自分が仲間を裏切ったこと。自分が兄を斬ったこと。

 

 そんな悪夢が脳裏に浮かび、わたしは唇を噛みしめる。鉄の味が、妙に悔しい。

 

 御徒士は少年の首に錫杖をまわす。

 

「オレァ誰だかわかってんのかい? 天照院奈落(てんしょういんならく)に恨まれる筋合いなんざ、ないんだがね」

 

 少年は目を細めて、低い声を出した。

 

 殺気――冷徹で残虐な気配に、空気がびりっと震える感覚。

 

 御徒士が言う。

 

真選組(しんせんぐみ)一番隊隊長沖田総悟(おきたそうご)、……悪いが、貴様を利用させてもらう」

 

 沖田と呼ばれた少年が抜刀しようとわずかに身を屈めた瞬間。御徒士も少しだけ動いた。

 

 何をしたのか、わたしには見えない。だけど、膝から崩れるのは沖田少年である。

 

 そんな少年を抱え、御徒士は言う。

 

「こいつの命が惜しければ、我等の元に戻ってこい。さもなくば、またお前は白夜叉を斬ることになる」

 

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