わたしはスルメを奪い取ろうと手を伸ばした。すると、少年は立ち上がってしまい、するめが遠ざかる。そして、その少年はにたりと笑う。
――こんちくしょぉぉぉおおおお!
わたしも立ち上がろうと足に力を入れた。しかし、中腰になった段階で力尽きてしまい、またこつんと座り込んでしまう。地面が堅く、お尻が痛い。
――くそぉ……なんでわたしがこんな目に合わなきゃいけないのよ。
お尻をさすりながら、ふと気づく。
ここはどこかの道場の前のようだ。大きな門構えに立派な表札が掲げられているようだが、横からだとなんて書いてあるか見えない。さびれた道場なのか、繁華街から遠いのかはわからないが、この少年以外に人通りはない。
これは不幸中の幸いである。人通りの多い通りにこんなあられもない姿で捨て置かれた際には、間違えなく切腹もんである。
わたしの裸を前にして、全く興味を抱かないこの少年若干腹立つものの、これも幸いのうちの一つだろうか。
ご飯も食べたいが、いい加減この状況を打破しなくてはならない。そろそろ上着を貸すよう頼んでみるか。
「ほれ、どした。餌はいらないので? ん?」
しかしこの少年はわたしの心中など無視するかのように、ただただ人をおちょくるのに全力のようである。
――にゃろぉぉぉぉおおおおおお!
一息気合いを入れて、わたしはまた天高く掲げられたするめに挑もうとした。
そんな時。少年の背後に突如、笠をかぶった背の高い男が現れる。
笠からちらりと見える白髪と、その下に覗く冷たすぎる眼光。古ぼけた黒い装束はまさに御徒士おかち組。錫杖のシャンとした音か晴天に響く。
その姿に、背筋が凍る。息が詰まる。
夢を思い出す。
夢であってほしかったことを思い出す。
自分が仲間を裏切ったこと。自分が兄を斬ったこと。
そんな悪夢が脳裏に浮かび、わたしは唇を噛みしめる。鉄の味が、妙に悔しい。
御徒士は少年の首に錫杖をまわす。
「オレァ誰だかわかってんのかい?
少年は目を細めて、低い声を出した。
殺気――冷徹で残虐な気配に、空気がびりっと震える感覚。
御徒士が言う。
「
沖田と呼ばれた少年が抜刀しようとわずかに身を屈めた瞬間。御徒士も少しだけ動いた。
何をしたのか、わたしには見えない。だけど、膝から崩れるのは沖田少年である。
そんな少年を抱え、御徒士は言う。
「こいつの命が惜しければ、我等の元に戻ってこい。さもなくば、またお前は白夜叉を斬ることになる」