「へい、鞭打ちと水攻めを繰り返しているのですが、なかなか口を割らずに、苦戦していたとこです」
「爪は剥いだのか?」
あっさりとそう口にする土方に、隊士は首を横に振る。それに、土方は嘆息した。
「あんだよ、全然まだやってねぇじゃねぇか……まぁいい。あとは俺がやる」
煙草に火をつけ、土方が一人、その小屋に入っていった。
戸を閉める前に、振り返る。
「桜、てめぇは何があっても覗くんじゃねぇぞ」
バタン――と扉が閉められた。
「おぉぉぉぉぉおおおおおお!」
隊士が野太い歓声をあげる。
「桜ちゃん、見やしたかい、あのクールさ! 今から冷血残酷なことをするのに、ちゃんと女の子に対する優しさを忘れないフェミニズム! いやぁ、男の中の男とは、まさに土方さんのことっす! 桜ちゃんと沖田さんより土方さんにした方がいいと思うッす!」
「なんで覗いちゃいけないのが、女の子に対する優しさなのよ? ちなみに言っておくと、フェミニストとかフェミニズムというのは男女平等という意味であって、女性を特別ちやほやするという意味はないんだからね? なんか全然聞いてくれてないようだけど」
土方万歳な勢いの隊士に一応注意しつつ、わたしは小屋を覗こうと、扉に手をかける。
すると、隊士から制止の声がかかった。
「ちょっと今の話聞いてなかったんですかいっ? 土方さんが開けるな言ったじゃないですかい!」
――いや、あなたに聞いてなかったのかは言われたくないんだけどなぁ。
そんなことを思いつつ、わたしは眉をしかめて反論した。
「覗いちゃダメと言われたら、覗いてやるのがセオリーでしょう?」
「いや、ダメっすよ! 女の子には刺激が強すぎるっす!」
そう否定されて、その隊士はわたしの目を手で覆ってくる。
めんどくさいなぁと思いつつ、さっきちょっと気になることを言われたことに気がついた。
「そういえばさ、わたしが総悟くんより土方さんにしたほうがいいって、どういうこと?」
すると、隊士が答える。
「そのまんまの意味っすよ。女にもドSな沖田さんよりも、女に優しい土方さんを選んだ方が、きっと桜ちゃんは幸せになれると思うっす」
わたしは首を傾げた。
「ん? 意味がわからないよ?」
「違うんすか! 土方さんはまだ自覚とかしてなさそうっすけど、沖田さんが桜ちゃんのこと好きだって……気づいてないんすか?」
「気づくも何も、そんな訳ないでしょ」
わたしが即答すると、その隊士が愕然とした表情をする。
「な、なんてことっすか……」
そう言って、もう何も言ってこなくなったので、わたしはそっと扉を開けた。
小屋の中には井戸があり、その上には罪人を吊り下げるためであろう滑車と紐がついている――が、そこには誰も吊るされておらず。罪人は地面の上にひかれた布団の中でくねくねしていた。
その隣では同様にひかれた布団に
「ねーえっ、ちょっと、教えなさいよぉ。す・き・な・ひと、いるんでしょ?」
わたしは即座に扉を閉めた。
確かに、わたしには刺激が強すぎたようだ。
その後、街を見回っていると、寂れた通りで攘夷浪士に襲われた。事前に聞いていた話だと、このあたりに、攘夷浪士の隠れ家があるという。その話が本当のことなのだと、この襲撃で確認できたので、あとはこいつらを絞めて、口を割らせればいいのだが。
案の定、トッシーが頑張ってくれてしまった。
「どどど……どうしよう、桜氏。拙者、逃げるにしても膝が震えて動けないでござる……」
「うん、そうみたいだね。じゃあ、その刀貸してくれるかな?」
「天才魔道猫娘なら、魔法でやっつけてほしいでござる!」
「いや、わたしキャットなんちゃらじゃないからね。さっきあなたもわたしのこと、ちゃんと桜って呼んでたからね」
そんなくだらない問答している間にも、刀を構えた攘夷浪士がどんどんと間合いを詰めてきていた。
人数は五人。武器が使えれば、トッシーを守りながらでも、なんでもない人数である。
わたしはトッシーが腰にさしている刀を無理やり抜こうとした。しかし、彼はその刀を抜かせまいと、わたしの手を押さえてしまう。