「ダメでござる! 桜氏がこの刀に触れてはダメでござる!」
「なんでよ」
「拙者は桜氏を見てたいんでござって、桜氏になりたいわけではないでござる!」
――あぁ、そういえば……。
トッシーの行動に合点がいったときには、浪士の刃が間近に迫っていた。わたしはトッシーに足をかけて転ばせる。
「あべしっ」
トッシーがおかしな呻き声を発するが、無視して振り下ろされる刃を蹴り上げた。回転して宙を舞う刀を一瞥しつつ、わたしは横から突いてくる刀を重心を逸らしてかわす。そのまま相手の手を引っ張って、浪士は前のめりに倒れてきた。その首元にわたしは踵を下ろす。その浪士はトッシーの上に倒れて、
「だべしっ」
再び呻き声が聴こえる。
そして他の隊士がまた刀を振りかぶったところで、わたしは落ちてくる刀を受け取ろうとした――が、わたしは急に誰かに引き寄せられた。顔を向けると、落ちてくる刀の持ち主だ。わたしを殴ろうとこぶしを握って。
殴られるよりも前に、反撃しようとした時である。
そいつが、膝から崩れ落ちた。
開けた視界に現れるのは、見知った顔である。
「その程度で俺を守ろうなんざ、よく言えるものでさァ」
仏頂面の沖田総悟はそれだけ言うと、すぐさまわたしの横をすり抜ける。振り返れば、浪士の一人が鮮血を散らしていた。
ぐさっと、地面に刀が突き刺さる。
「……だから、刀が欲しいって言ったんじゃない」
わたしはそれを引き抜いて、少し離れていたところでうろたえていた浪士に一足で詰め寄った。左から首を狙って一閃。刀身の中心で捕える目前で、止める。
「逃げるなら今のうちよ? わたし今機嫌が悪いから、すぐに逃げないと容赦できないけど」
足をもたつかせながらも逃げる浪士に嘆息しつつ、沖田を確認すると、すでに残る浪士は無残な姿で倒れていた。
「殺したの?」
「真選組でもねェあんたには関係ないことでさァ」
「なによ、その言い方!」
わたしは刀を捨てて、沖田に詰め寄る。
「もうちょっとモノの言い方ってものがあるんじゃないの?」
すると、沖田は冷たい目で答えた。
「俺が攘夷浪士殺して、何がいけないんでさァ?」
「何がいけないって、根本的に人を殺しちゃ――」
「俺の、真選組の仕事はこういうことでさァ。別に、あんたに理解しろとは言わねェよ。あんたはただ、真選組で預かっている捕虜みてェなもんだ。そんなあんたに、俺のやること口出しされる筋合いはねェし、ましてや心配や指図される筋合いはもっとねェ」
そして、沖田がわたしに刀を向けてくる。
「……俺は命令によっちゃ、あんたを殺すこともあるんだ。あんたは素直に俺らの言うこと聞いてるしかねェんだよ」
その言葉に、わたしは固唾を呑むことしかできなかった。
言われたことが、事実だからだ。
わたしは真選組の仲間でもなければ、彼の家族でもなんでもないのだから。
でも、何かが違うのではないかと、思えてしまって。
今までの、わずか数週間のことだが、そんな他人であるとも思えなくて。
わたしが口を開きかけた時、
「だ……だずけで……」
倒れた浪士の下でつぶれている、無様なトッシーの呻き声に、沖田が嘆息した。
「まぁ、とりあえず話だけは聞いてやろうか。土方さん」
そういう沖田が、一瞬にやりと笑うのを、わたしは見逃さなかった。