喫茶店に行ったら、必ず食べたいものがある。
パフェだ。百歩譲ってもサンデー。
逆三角錐のガラスの容器に詰められたケロッグやスポンジ。その間を埋めるように溶けたアイスや生クリームが染みわたり、上にはカラフルなフルーツが彩られる。
芸術だ。これを芸術と呼ばずして、何を芸術と呼べばいいのか。
人生初めてこれを食べたときには、幸せすぎて死ぬのではないかと思った。こんな美しく美味しいものを目の前にして、自分の存在に悩み、生きていてごめんなさいと涙したものだ。
そんな苺パフェを目の前にして、わたしは目に涙を浮かべてお預けをくらっていた。
どうにもこうにも、食べていい雰囲気ではないのだ。
「それじゃあ、なんですかィ土方さん。あんたはその妖刀
対面に座る沖田が、あざ笑うかのように訊き返してくる。
それに、わたしの隣にいる土方は頷いた。
「あぁ、なんとも情けねぇ話だが……この刀を手にしてから、急に意識が途絶えちまって、気づけばさっきみたく
そう話しながら、土方はテーブルの上に置かれた剣を握った。
「何度も手放そうとしているが、どうしてもそれが出来ねぇ。ゴミ箱に捨てても、折ろうとしても、呪われたように手から離すことが出来ないんだ……」
「呪いねェ……」
そう呟く沖田に、妙な雰囲気を感じていた。
ピリピリしているというか。冷たいような。
――仮にも、先輩の相談じゃないの?
その雰囲気の中、どうしたらわたし一人意気揚々とパフェを楽しむことが出来るのだ。ちなみに、この男二人は、何を気取ってか、珈琲を頼んでいる。あんな苦いもののどこがいいのだろう。
「あんたもそのことを知ってたのかィ?」
沖田に訊かれて、わたしはこくんと頷いた。
「宴会のとき、トッシーからね。その妖刀の前の持ち主の怨念のせいで土方さんがこんなになっているらしいんだけど、その前の持ち主が重度の魔法少女オタクの引きこもりだったみたい。まぁ、その持ち主の死因は、修学旅行先がとあるアニメの聖地だって理由で修学旅行にだけは行きたいと言い出したことで、お母さんが怒ってうっかり投げたこの刀が男の急所に刺さったショック死なんだって」
「へぇ、ずいぶんと土方さんと仲良くなったようだなァ」
――だから、なんでそう棘のある言い方しかしないのよ。
そう言い返すのを、ぐっと堪えて、わたしは答えた。
「なんかわたしが魔法猫娘だかにそっくりらしくって。懐かれちゃったみたいね」
「さすが痴女猫、男なら誰でもいいんだな」
「はぁ? それってどういうことよっ!」
わたしが机を叩いて立ちあげると、隣の土方がビクッと肩を震わせる。
――もしや……?
わたしが確認するよりも早く、沖田は机越しに土方の襟首を掴んでいた。
「おい、土方。とっとと先週号のジャンプとちぃちゃんの林檎味を買ってきやがれ――五分以内に屯所まで持ってこないと……わかってんだろうな」
「あぃぃぃぃいい! わかりやしたぁぁぁぁあああ!」
沖田の凄みに、トッシーは即座に席を立ち、喫茶店を駆けだしていく。きちんと、刀も持って行って。
「ちょっと、トッシ……」
わたしも後を追おうと立ち上がるも、沖田がバンと机を叩く。
「どこ行くつもりだ痴女猫。あんな土方にテメェの監視が務まるわけねェだろ」
それに、わたしも机に手をついて、言いかえす。
「でも、わたしは土方さんのフォローの仕事を――」
「さっきも言っただろうが。テメェはしょせん捕虜だ。中止に決まってんだろ」
「でも……」
わたしが言葉を詰まらせると、沖田は嘆息して言った。
「パフェ食ったら帰るぞ」
沖田を睨んでも、彼はわたしと目を合わせようとはしなかった。
嘆息して座り、わたしはスプーンを持つ。
パフェは既に、溶けてかたちが崩れていた。