その後、屯所に戻ると、わたしは自室で待機しているよう命じられた。
しかも、ご丁寧に監視付きである。
「ねぇ、ちょっと山崎ぃ! やってらんないと思わなぁい?」
舌っ足らずにそう言って、わたしは山崎の肩に手を回す。
飲まなきゃやってられないのだ。わたしが一体なにをしたというのだ。
土方もといトッシーのことが心配でもあるが、
「総悟くん、なんであんなに感じ悪いわけよぉー。そんなに、そーんなにわたしが刀持っちゃいけないわけぇ? 今のご時世、男女平等じゃないの? 女が武器持って戦っちゃ悪いの? えぇ?」
「ねぇ、桜ちゃん。なんでそんな酔っ払い風なの? 飲んでるの、ちぃちゃんだよね? いつもの薄いオレンジ味の」
わたしは、そんなくだらない質問に不敵に笑う。
「今日はカクテル風に、ちぃちゃん水割りよ。いつもの何倍も薄いわよ」
「それ自慢げに言っちゃうの? 余計にみじめ感じちゃわない?」
「くっ……山崎のくせになかなか言うわね……」
山崎はげんなりと嘆息した。
「僕、もうそんなキャラとして認識されちゃったんだ……桜ちゃんの前でそんなにダメな所まだ見せてないと思ってたんだけどなぁ」
わたしは即答する。
「うん。別に山崎の何がダメなのかとか正直さっぱりだけど、なんか山崎ってだけでそう言っていい気がするわ。だって山崎だもの」
「ダメ! そーゆーこと言ったら、全国の山崎さんに怒られちゃうから! 評価0とか付けられちゃうから!」
「別に全国の山崎さんに言ってるんじゃなくて、目の前にいるわたしのくだらない話に付き合ってくれる山崎に言ってるだけよ。ありがとね」
淡々とそう言うと、山崎は顔を背けて、
「急にそういうこと言うの、ズルイよなぁ……」
と、照れているようだった。わたしは空いているグラスにちぃちゃんと入れて、山崎に差しだす。
「で、山崎は総悟くんに頼まれて、わたしの見張りしているのよね?」
「うん。勝手に桜ちゃんが出かけないように見張っとけって。今日本当は非番だったんだよー。沖田隊長も人使い荒いよなぁ」
山崎はそう愚痴を言いつつ、ちぃちゃんを飲む。
「あ、久々に飲んだけど、けっこう美味しいね」
「たまに飲むならいいんだけどね。これが毎日だと、なぜかちょびっと悲しくなるのよ。果汁が薄くって」
すると、山崎は笑った。
「じゃあ、今度果汁百パーセント買ってきてあげるよ」
「お酒でもいいのよ?」
「それはダメ」
ちぇーっと舌打つふりをして、わたしもちぃちゃんを飲む。
「あのさー、聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」
首を傾げてくる山崎の正面にまわり、わたしは正座した。
「単刀直入に訊くけど、総悟くん。なんであんなに機嫌が悪いんだと思う?」
「本気で訊いてる?」
「けっこう本気でマジで訊いてる」
「ふむ」
山崎は、何かを覚悟したかのように頷いて、
「……桜ちゃん、昨日から副長とずっと一緒にいるじゃん」
「まぁ……言われてみればそうね」
「ほら、沖田隊長、副長のこと目の敵にしてるからさ」
「ん? 総悟くんと土方さん、仲悪いの?」
わたしが首を傾げると、山崎は茫然とした顔をした。
「き……気づいてなかったの……?」
「うーん……言われてみれば、二人が一緒にいるところはあまり見なかったような気もするけど……特に違和感あったのは今日くらいかな? なんか土方さんを見る総悟くんの目が怖かったくらいで」
「……そっか。うん、そっか。俺、沖田隊長が本気で可哀想になってきたよ」
その時、廊下をばたばた誰かが走って来たかと思えば、大声が聴こえた。
「副長が……副長が謹慎処分になったぞぉぉぉぉぉおお!」
「はぁあ?」
それにわたしは立ち上がり、部屋を駆けだそうとしたが――山崎に手を掴まれた。
「ダメだよ。桜ちゃんは部屋にいないと」
「いや、だって土方さんが謹慎って、どういうことよ? ちょっと昨日から色々あったかもしれないけど、まだたったの二日よ?」
わたしはその手を振り払おうとしたが、山崎の力は案外強く、振りほどけない。
「色々思うことはあるかもしれないけど、今の俺の仕事は、桜ちゃんをこの部屋から出さないようにすることだから。手荒なことはしたくないから、大人しくしていてくれないかな?」
優しい口調だが、その視線は固く。いくらわたしが睨んでも、山崎はまったく譲るそぶりはなく。
わたしは畳の上に置いていたちぃちゃんを取り、一気に飲みほした。