言われて、わたしは再び刀を見る。まじまじ見る。
どうして、沖田はこの刀をくれたのだろうか。
餞別に、と言っていたが、別れの挨拶に武器を送る意味は何だろうか。
しかも、おそらくこれは、彼の思い出の品というものではないだろうか。
それを、わたしにくれる意味――
「――近藤さん、なんか、わたしに危険迫ってたりする?」
「ん? そりゃあ、桜ちゃん、天導衆に狙われてたり、攘夷浪士から恨みかってたりする可能性はあるんじゃなかったっけ?」
「それは、そうだけど……なんかこう……」
――真選組内部から狙われるような。
と、言いかけて、やめる。そんなことを、その組の隊長に言ったって、本当のことを言うわけがないのだから。
果たして、この呆けているような局長に、どこまでの管理能力があるのかは、定かではないが。
そんなことを考えていると、近藤は急に鼻を摘まみ出した。
「てか! 桜ちゃん! お風呂にちゃんと入っている?」
「え……三日前には入ったけど」
「三日っ! え、なんで! 毎日お風呂に入ろうよ!」
「だって、おかげさまでわたし軟禁されっぱなしだし。部屋から出してもらえないし」
「いや、厠と浴場には、言えば行かせるよう指示してあるけど!」
「そりゃ、お手洗いには行かないと死んじゃうけど、どうせ引きこもってるならお風呂は面倒だなぁって」
「ダメだから、桜ちゃん、それ、女の子として終わっちゃってるから! 一気に幻滅されちゃってもおかしくない事案だから、それ!」
けっして、清潔感にあふれているとは言えない男に言われても、正直なんとも思わないのだが。
わたしは嘆息して、髪を耳にかけた。たしかに、しっとりしているかもしれない。
「いやさ、総悟くんと毎日いる時は、何時に風呂行けとか、何時に寝ろとか言われてたから、その通りにしてたけど……てか、しないとバズーカ撃たれちゃう勢いだったしさ」
「うん。なんだかんだ、桜ちゃんしっかりと総悟に飼われてたのね……」
呆れるような、同情されるような目で見つめられて、わたしが半眼を返すと、近藤は両手を叩いて立ちあがった。
「よし! じゃあ、明日はとっておきのお客さんを連れてきてあげよう! 楽しみにしておいてね」
そう言い残すと、近藤は軽い足取りで部屋から出ていく。もう、鼻歌なんか歌って、頭に花でも咲きそうな雰囲気で。
「ねぇ、あの……監視しに来たんじゃないの?」
けっきょく、その日は夜勤明けの山崎がドロピカーナを買ってきてくれて、夜まで全力でおはじきやらお手玉して過ごすことになった。
そして、翌日。
隊士に案内されるがまま、浴場に行ってみると、お風呂一面に花弁が浮かんでいた。
香りも少し甘い匂いが漂い、タオル一枚巻いただけの女の人が笑顔で迎えてくれる。
「こんなサービス、めったにしませんからね」
少し恥ずかしそうにそういう女の人に手招きされるがまま、椅子に座ると、優しくわたしの身体にお湯をかけてくれた。そして、そのまま泡だらけの柔らかいスポンジでわたしの身体を洗ってくれる。
もう、わたしは何も言えなかった。
なにがなんだかさっぱりすぎて、言われるがまま動く以外に、どうしたらいいのかがわからない。
この屯所には浴場が一つしかなく、隊士たちがまとめて入るために銭湯のような広い造りになっている。いつもは夜、隊士たちが入るより前に、沖田が案内してくれて、使わせてもらっていた。
しかし、今日は隊士の前以前に、お日様が真上にいるような昼間である。もちろん、こんな華々しい雰囲気や香りはないし、こんなお姉さんも見たことがない。
茶色の長い髪をルーズにお団子にしているこの人は、細身な美人さんだった。肌も健康的に白く、目鼻立ちがしっかりしながらも穏やかな顔つきを嫌う男はいないだろう。
そんな美人さんが、優しく、わたしの身体を洗っては、
「じゃあ、今度は髪を洗いますから、目を閉じててくださいね」
と、これまた落ち着いた声音で、シャワーを頭からかけてくれていた。