「こい……ばな……?」
わたしが訊き返すと、妙は伸ばした腕にぱしゃっとお湯をかけた。
「近藤さんが、桜さんが悩んでる様子だから、話を聞いてやってほしいって。内容までは聞いていないのだけど、女同士の方がいいだろうってことだから、恋の悩みなのかなって思ったのだけど……違うのかしら?」
「あぁ……ゴリラ的に気を使ってくれたのね……」
俯いて、髪を掻き上げる。いつもよりも、髪のするっと指の間を通って行く。
上目で妙の様子を見ると、穏やかにわたしの様子を窺っているようだ。
――話して、みるか……。
決して、恋の相談などではないが、悩んでいるのは事実だ。実際にこの妙という女性は十代後半だろう。わたしよりも年下なのだが、普通よりも大人びた雰囲気がある。もしかしたら、何か解決の糸口が掴めるかもしれない。
「恋とかじゃなくて、友達とケンカしちゃってるって話なんだけど、いい?」
「もちろん」
淡い期待を込めて、わたしは口を開く。
「その友達っていうのが、わたしの面倒を看てくれている年下の男の子なんだけど……」
「あら、ずいぶんしっかりしたコなのね」
「しっかりしてるっていうか、背伸びしてる感じかな?」
苦笑しながら、話を続ける。
「恥ずかしい話なんだけど、わたし今お金がなくて。でも、どうしても欲しいものがあったの。服とかはいくらでも買ってくれてたんだけど、それだけはどうしても買ってくれないし、不要になったものすら、くれなくって」
「何が欲しかったの?」
「武器」
少し、妙が眉をしかめる。
「それは、危ないからじゃなくて?」
わたしは首を振った。
「自分で言うのもあれだけど、わたしこれでもけっこう強い方でね。そのことは、彼も知っているんだけど……」
「どうして、そんなに武器が欲しかったの?」
「彼のこと、守ってあげたくて。わたしのせいで危ない目に遭うこともあるから」
「そう……ケンカの原因はそれだけ?」
わたしは膝を抱えて、再び首を振る。
「そのあと、ちょっとしたきっかけがあって、彼が苦手な人と、一緒に行動する機会が増えたの。他の人の話だと、それもどうやら原因のひとつらしいんだけど、どうしてわたしがその人と一緒にいたら機嫌悪くなるのか、わからなくて」
「……その、彼が苦手な人も、男の人?」
「まぁ、一応」
――極度のオタクだけど。
話がややこしくなるから、それは言わないけれど。
とりあえず、話終えたかなと、妙の顔を見る。妙はわかったとばかりに、手を叩いた。
「桜さん、それは、嫉妬してるんじゃないかしら」
「嫉妬?」
訊き返すと、妙は大きく頷く。
「そう。男の子って、好きな人が他の男と仲良くしていると、それを口にすることは絶対にしないけど、すごく機嫌悪くなるものなのよ。素っ気なくしたり、冷たく当たってきたりするの。逆効果なのにね」
「ふむ……」
「それと、女の子のほうが守ってあげたいとか言うと、男のプライドが許さないものみたいだわ。たとえそれが年齢どうこう関わらず、どんな小さな男の子だって、女の人は守ってあげたいと思うものなのよ」
「でも、実際にわたしの方が強いと思うよ?」
「そんなの、関係ないのよ。気持ちの問題よ!」
「そうなんだ……」
今の意見を踏まえて考えれば、近頃の沖田の機嫌の悪さは、プライドを損なわれ、嫉妬しているからということになる。
わたしは顎を手に置いた。
「なるほど、なかなか的を得た意見だわ――けど」
真面目な顔で、わたしは言い返す。
「だとしたら、彼はわたしのことが好きだということ?」
すると、妙はくすくすと笑いだした。目から零れそうになる涙を拭っている。
「……なんか、そんなに変なこと訊いたかな?」
不安になって訊くと、妙は首を振る。
「いえ――でも、好きかどうかは、本人に直接訊いてみたほうが、いいかもね」
「そっか」
わたしはバシャっと顔にお湯をかけた。ちょっとスッキリした気がする。
「ありがとう! 今度会ったら、訊いてみることにする! あーちょっと安心したら、早くアイスが食べたくなってきたなぁ」
「そうね、上がりましょうか」
妙はなぜか、堪えたような笑みを浮かべていたが、特にわたしは気にしなかった。