偽訳・銀魂 白夜叉の妹と真選組   作:由比レギナ

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捨て猫にはむやみに餌を与えてはいけない③

 その言葉に固唾を飲んだ。

 

 またお前が白夜叉を斬る――その言葉の意味を、考えたくもなかった。

 

「だったら……」

 

 わたしは小さく口を開く。

 

「だったら、ここでわたしを殺してくれないかな?」

「そんな勿体ない真似をするわけなかろう」

「なに、わたしは道具かなんかなわけ?」

 

 

 御徒士(おかち)は懐から笛を取り出す。木でできている、なんてことない小さな笛。

 

 それが、わたしはこの世で一番怖い。

 

 御徒士がその笛をくわえた。

 

 わたしは耳を塞ぐ。そんなんじゃだめなことは百も承知だが、それでも――

 

 頭の奥のほうで、甲高い音が鳴り響く。

 

 ――聞くな聴くな訊くな効くなっ!

 

 視界がまわる。右と左と、天と地が逆になる。頭の中から金槌で殴られ続けるような衝撃。鼓膜は甲高い音を受け切れずひび割れそうだ。胃が沸騰しそうなほど熱い。

 

 気持ち悪い。苦しい。痛い。死にそう。

 

 だけど、わたしはそうした感覚を認識できていた。

 

 目の前に、少年を抱えた御徒士がいることがわかる。そして、少年を助けなければいけないことがわかる。

 

 わかるのだ。考えることができるのだ。

 

 御徒士は目を見開きながらも、笛を吹き続けている。

 

 そのことが、とても嬉しくて。

 

 目から、熱い涙が零れた。

 

 そして、わたしは口角を上げる。

 

「もう一度訊くわ――わたしは、道具?」

「ちっ、高杉め」

 

 笛の音が止む。舌打ちを聞いた時だ。戻ってくる聴覚で、遠くから男の声が聴こえる。

 

「しかし、さすがに今回は俺ら役たたずすぎて……あとで近藤さん怒られやしないか?」

「まぁ、松平のとっつぁんには馬鹿にされるこたぁ間違えないが、いいんじゃないか! たまにはこーゆーのも!」

 

 御徒士は足を一歩引く。

 

「月が昇りきるまえに、天守閣へ来い。さもなくば――」

 

 末尾を聞くよりも早く、わたしが顔を前に向けたときには、御徒士と少年の姿がなくて。

 

「おい、あれを見ろよ、トシ……いや、見るな! 見ちゃだめだ!」

「あぁ? なんだよ……て、なんだあれ。痴女か?」

 

 ――どうしよう。

 

 はっきりとしてきた頭で考える。体力さえ回復すれば、戦える。あの笛を吹かれたら動けないけれど、それでもあの時みたいなことにはならない。

 

『高杉め』

 

 そう毒づいていたことを思い出す。

 

「高杉が、わたしを助けてくれた……?」

 

 その時、目の前に一閃の光が見えた。目の前に、刃先がある。

 

「おい、そこの痴女。公然わいせつ罪で逮捕する」

「痴女?」

 

 その失礼な物言いに、わたしは刀のもとを見る。

 

 先ほど聴こえた声の持ち主が、わたしに刃を突きつけているようだ。黒髪短髪の目つきが鋭い男である。着ている黒服に、見覚えがあった

。沖田少年の服と同じである。

 

 その隣にいる同じ格好の、男はもっと大柄だった。その体格に似合わない勢いで、慌てふためいている。

 

「おおおおおいトシ! い、いきなり女の子に刀向けるなんて、乱暴にもほどがあるじゃないか!」

「何言ってんだ近藤さん。段ボールに入って下着もつけずにいる怪しい女をしょっぴかずに、何が江戸を守る真選組だ。しかも、真選組屯所の前でだ。名誉棄損、業務妨害いろいろあんぜ」

 

 そう言うトシと呼ばれた男は、刀を向けながらも、わたしの方は横目でちらちら見るだけで。耳が真っ赤になっている。

 

 しかし、下着もつけずに……?

 

 わたしは自分の姿を確認し、

 

「ひぇっ」

 

 段ボールの中で膝を思いっきり抱える。

 

 裸だった。そういえば裸だった。空腹とかするめとかとにかくいろいろですっかりそれどころではなかったが、わたしはまっぱだった。

 

 けれど、それよりも今大事なことがある。わたしは顔を上げた。

 

「あなたたち、沖田総悟って知ってる?」

「あぁ? うちの一番隊隊長がどうしたって?」

 

 二人の目が、まっすぐわたしを見る。

 

「彼が、誘拐された」

 

 




編集してばかりで申し訳ございません。

しばらくオリジナル展開が続きます。どれくらいの方がしおりをはさんでくれているのかわかりませんが、少しでも楽しんでいただけるよう精進しますので、なにとぞよろしくお願いいたします。
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