そして、さらに翌日――意外な人物が監視となった。
「桜さん、ご機嫌はいかがですか?」
「いいか悪いかと訊かれたら、良くない方だと思いますが、とりあえず元気です」
礼儀正しく、敬うように接するのが、むず痒い。
そんな気持ちにさせる伊東鴨太郎は、にこやかに手を広げた。
「女性は甘いものが好きだろうという先入観で申し訳ないのですが、今日はケーキをお持ちしました。好きなだけ食べてください」
と、目の前には十数種類のカラフルなケーキたち。生クリームに苺が乗った三角の王道から、固そうな生地の上にたくさんの果物が乗っているものに、黄色のとぐろを巻いているものまで。
わたしは感嘆の声をあげる。同時に、手がわなわな震えていた。
そんなわたしを見てか、伊東は困ったように眉をしかめた。
「すみません……甘いものは嫌いでしたか?」
いや――甘いものは好きだ。むしろ、大好きだ。だけど、今までこんなに綺麗なケーキは見たことがなかったので、緊張しているのだ。
「いや……ケーキなんて、すごく久しぶりなもので」
曖昧にそう答えるが、実際には一度だけしか食べたことがない。
「ありがとうございます。いただきますね」
わたしは目の前にあった滑らかな白い三角に紫のソースがかかっているケーキの皿を取り、フォークで小さく切り、口に入れる。爽やかな酸味とまろやかな甘みに、果物の香り。すべてが調和して、上品な味だ。
そんな美味しさに、わたしは苦笑する。
昔食べたケーキは、とにかく不格好で、単純な味だったのだ。パサパサのスポンジにとにかく甘い生クリームを塗りたくって、適当にすっぱい苺を埋め込んだものは、とにかく甘かった。甘くて、酸っぱくて、嬉しくて。
その思い出の味と比べるには、品がありすぎて、比べる価値すらないだろう。
「お口に合いませんでしたか?」
心配げに問われて、わたしは首を振る。
「こんなケーキ初めてだったので、びっくりしちゃいました」
肩をすくめて言うと、伊東は安堵したかのように笑った。
「そうですか――僕も一つもらっていいですか?」
「どうぞ」
全部伊東が持ってきたものなのだが、なぜかわたしが勧めるかたちで伊東もケーキを食べ始める。
畳の上で行われるお茶会の話題として、伊東はこんなことを言い出した。
「ところで桜さん、明日から、隊のほとんどが出張することはご存知ですか?」
「ひははい」
ケーキを頬張りながら、首を振ると、伊東は苦笑しながら話を続ける。
「
わたしは口の中のものを呑みこんで、
「みんな行っちゃうの?」
尋ねると、伊東は頷く。
「はい――近藤さんはもちろん、沖田くん含む隊長クラスも行きますし、僭越ながら、僕も同行させていただくことになりまして」
「土方さんは?」
わたしの直球の質問に、伊東は一瞬言葉を詰まらせた。
「……土方さんは、残念ながら謹慎中なので」
「よかったね」
「え?」
伊東のあげた疑問符に、わたしはにやりと笑って繰り返す。
「良かったね。嫌いな土方さんを出し抜くチャンスが出来て」
「……どういうことですか?」
「嫌いなんでしょう? 土方さんのこと。宴会のときも、二人が話すことなんてなかったし。先生なんて呼ばれて頼りにされている伊東さんにとって、土方さんはけっこう邪魔な存在だったりしてね」
軽くいいのけると、伊東はケーキの皿を置き、参ったと両手を上げた。
「桜さん、なかなか侮れませんね。その言いぶりですと、隊士たちの噂を聴いたというわけでもないですね」
「昔からね、あなたみたいな貴族っぽい人たちの考えることはけっこうわかるのよ――捻くれた悪ガキみたいな子のことは、全然わからないんだけどね」
自分自身に皮肉を言いつつ、わたしは片目を瞑ってみせた。
「で、わたしにもその武州とやらに行けと言いたいのかしら」
伊東は手を下して、頷いた。
「はい。桜さんを監視できるほどの人材もいなくなってしまいますし、ずっと部屋に閉じこもっているのも、気が滅入るでしょう? 観光も兼ねてぜひ同行を――」
「その必要はねェでさァ」