「おー、いらっしゃいアル」
糖分。
応接間というのか、居間というのか――『万屋銀ちゃん』の職場件自室の一番奥の部屋に通されて、まず目に入ったのは、そう書かれた掛け軸だった。
――糖分が社風って、どんな仕事なのよ……。
胸中でそう突っ込みつつ、わたしはチャイナ服の少女、神楽に促されて、ソファに座った。
「飲み物は、いちご牛乳でいいアルか? お茶受けは酢昆布ネ」
と、五百ミリリットルのピンクの紙パックと、赤く懐かしい風貌の小さな箱を目の前に置かれた。
「銀ちゃん、ストローどこアルか?」
「神楽ちゃん、お客様にパックごと出すってどういうことよ? あれよ? 従業員にどういう教育してるんだって俺が恥ずかしい思いしちゃうんだから、きちんとしてくれるー?」
「銀ちゃん、妹に怒られるアルか? それはいいことネ。存分に再教育してもらうがヨロシ」
神楽は銀時を軽くあしらうと、そそくさのテレビの前に座った。
「さて、そろそろ新八の番組が始まるアル」
るんるんと横に揺れる赤い背中を見て、銀時はわたしと机を挟んで対面するソファに腰を下しては、嘆息する。
「あー、すまねぇな。ろくな歓迎もできねぇで」
「いや、別に問題ないよ」
わたしは紙パックの口を開き、そこからいちご牛乳を直飲みする。僅かな酸味と、安い甘さ。この不健康そうな感じが堪らない。
「あー美味しい」
「相変わらず豪快なこって」
銀時は頬杖をついて、くつくつと笑った。
――さて、改めてなんでこんな思いがけない招待受けたのか、訊こうかな。
と、酢昆布の箱を開けた時だ。
「始まったアルヨ!」
神楽が声を張り上げたので、わたしと銀時もテレビに顔を向けた。
番組は『朝まで討論会』という一風真面目なタイトルで、司会者一人と、大勢の素人らしき人たちが壇上に並んで映っていた。今日の議題は、社会問題となっているニートの予備軍であるオタクについてだという。
「神楽ちゃん、この番組と新八くんに何の関係があるの?」
「新八はアイドルオタクアル。昨日は、今日こそ僕のお通ちゃん愛を全国に知らしめるんだと息巻いてたアル」
「へぇ……あの真面目そうな少年がねぇ……」
オタクってけっこうどこにでもいるんだなぁ、なんて考えていると、テレビではその新八が日の丸印の鉢巻きに、はっぴを着て、堂々と主張していた。胸には五十三と書かれたバッジを付けている。
『そもそも、オタクはオタクでも一括りにしてもらうのは困るんですよ! 僕らが愛しているアイドルはこの世に実在する人物だからいいのですが、アニメオタクって二次元に恋してどうするんですか! 実在しない想像上のものに人生かけるような人たちがこうして堂々としているから、僕たちも同じようだと世間から勘違いされてしまうんです!』
――うわぁ……なかなか痛い意見言ってる……。全国に愛を知らしめる前に、恥を知らしめてる……。
鼻で笑いつつ、わたしは再びいちご牛乳を口にした――が、次に画面に映った人物を見て、ぶふーっと噴き出してしまう。
「うわぁっ、ちょっと桜ちゃん汚いよ! あの痛い新八見て思わず噴き出したくなる気持ちもわかるけど、ちょっと我慢してあげて! 帰ってきて恥ずかしくて後悔するあいつのために、ちょっとは寛大な心で我慢してあげて!」
と、飛び退く銀時。わたしは口を拭い、息を整えながらテレビを指差した。
「あれ……あれ見て……土方さんが……トッシーが……」
「土方ぁ?」
その時、テレビには赤いバンダナを髪に巻いて、腕のないデニムジャケットを着ている土方及びトッシーの姿があった。