偽訳・銀魂 白夜叉の妹と真選組   作:由比レギナ

55 / 134
ほんとの男は惚れてる女に弱いもの④

 わたしが肘を打ちつけると、高杉の手が緩む。その隙に腕の下をくぐり、向き合った。そして、腰の刀に手をかけると、

 

「おっと。こんな道端でそれは抜かないほうがいいんじゃないのか?」

 

 高杉は悠然と見下すような笑みで、そう言った。変わらず派手な着物を着崩している様は、どこで見ても目立つ。

 

「騒ぎになって困るのは、どっかの犯罪人だけだと思うけど?」

「ならば試してみるか? 警察が来て、困ることになるのはどちらか」

「どういうこと?」

 

 まるで、困るのはわたしの方だと言わんばかりの口ぶりに、わたしは眉をしかめる。

 

 そんなわたしの顔を見てか、高杉はくつくつと笑った。

 

「ほぉ、まだ自分の置かれた状況を知らないか――まぁ、いい」

 

 すると、わたしに手を差し出す。

 

「一緒に帰ろう、桜。そうすれば、無駄な血が流れることを、やめてやってもいい」

「……今度は、何をやらかすつもりなの?」

 

 身構えて、わたしは低い声で問う。しかし、高杉は腕を組んで笑みを深めるだけだった。

 

「訊かれて話してやるほど、俺がいい人に見えるか?」

「まったく見えないわね」

 

 話しても、無駄である。

 

 そう結論して、やることは一つ。

 

 わたしが、刀を抜こうとすると、

 

「一般市民が俺の前で廃刀令破ってんじゃねぇよ」

 

 わたしの手を押さえつけて、代わりにその刀を抜く男の手。見上げて、わたしは驚きの声を上げる。

 

「トッシー!」

「たく……そんな腑抜けた呼び方すんな」

 

 土方(・・)は、わたしの肩を引き寄せながら、刀を高杉へと向ける。

 

「敢えて誰だが訊かねぇでやるが、これ以上こいつに絡むと、婦女暴行罪でしょっぴくぞ」

 

 高杉は、おどけるように両手を挙げた。

 

「婦女暴行って、いつ俺が、桜が嫌がることをしたんだ?」

「るせー。刀抜くほど喜ぶ女なんて、どこにいるんだよ」

 

 土方の吐き捨てるような台詞に、高杉は微笑を浮かべた。

 

「まぁ、辛そうな副長に免じて、大人しくここは引いてやるよ。すぐに、桜を渡しておけばよかったと、後悔することになると思うがな」

 

 そう言い残すと、高杉は背を向けて、路地裏へと消えていく。

 

 わたしがふと安堵の息を吐くと同時に、土方は刀を落とした。足もとに転がる短めの刀を見て、わたしは土方の顔を確認する。

 

 額が汗でびっしょりだった。わたしの肩に置かれている手も、震えている。

 

「土方……さん?」

「あぁ? 悪いな。落としちまった」

 

 ゆっくりとした動作で刀を拾い、わたしに渡してくる。それを受け取ると、土方は懐から煙草を取り出し、口にくわえた。のれんをくぐりながら、ライターに火をつける。

 

 わたしが後を追って店に入ると、土方は口から煙を吐き出していた。銀時たちは目を見開いている。

 

 新八が震える声で、彼の名を呼んだ。

 

「土方さん……?」

「最後に一服しようと戻ってみたら、面倒なとこに出くわしちまったぜ。しかも、一緒にいるのがお前らときたもんだ――まさか、てめぇらに頼みなんざする日が来るとは思わなかったけどよ……」

 

 土方が、頭を下げた。

 

「頼む! 俺の最初で最後の願いだ! 俺のかわりに、近藤さんを……真選組を、護ってくれっ!」

 

 その姿は、冷酷さも、プライドもなく。

 

 ただただ、真剣に、一人の男が、何かに縋るかのような悲壮感に満ちていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。