偽訳・銀魂 白夜叉の妹と真選組   作:由比レギナ

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ほんとの男は惚れてる女に弱いもの⑦

「了解」

 

 銀時は低い声でそう応え、無線を置いた。

 

「さ、く、ら、ちゃーん?」

 

 ゆっくりと振り返って来る銀時に、わたしは顔を背ける。

 

「お兄ちゃん……前見ないと危ないよ?」

「ねぇ、鬼兵隊ってなに? さっきもそんなこと言ってたよね? なにやったの、なにやっちゃったの桜ちゃん?」

「いやー期待に添えず申し訳ないけど、特に何もしてないんだよね。さっき鍛冶屋の前でちょっと高杉に会ったくらいだよね」

「ほー。桜ちゃんはストーカーに遭っても、お兄ちゃんに何も相談しないわけだ? 何も報告しないわけだ? あれ系? 何も過去を反省してない系?」

「いい年して系とか使わないで!」

 

 わたしは流れる景色を見ながら、髪を掻きあげた。

 

「今回は、ほんとに言いタイミング損ねただけだったんだけど……ごめん。すぐに言うべきだったね」

 

 高速道路に乗ったようだ。アクセルを全力で踏んでいるのか、ガタガタと揺れる車で、車間を縫うように抜けていく。

 

「あのー」

 

 入りずらそうに、隣の新八が片手をあげて訊いてくる。

 

「桜さんと、その高杉って人、どういう関係なんですか? 高杉って、紅桜の時の鬼兵隊の隊長ですよね?」

「あー……」

 

 わたしが言葉を詰まらせていると、前を向いた銀時が端的に答えた。

 

「簡単にいやぁ、こいつの元婚約者で現ストーカーだ。あれだよ、男女のもつれってやつ」

「それって、高杉ってヤローが桜ちゃんの尻を手段を問わず追いかけてるってやつアルか? 昼ドラみたいなやつアルか?」

 

 目を輝かせて振り返る神楽に、わたしは苦笑した。

 

「そう……ね。言われてみたら、そんな感じだね。わたしが悲劇のヒロインで、高杉ってやつが悪者かな?」

「悲劇じゃなくて、喜劇だろ――大人しく、誘拐されてやるつもりなのか?」

 

 サイドミラー越しに、銀時が鼻で笑っている顔が見える。

 

「全然!」

 

 わたしは身を乗り出して、前の無線機を取り上げる。わかりやすく『屯所』と書かれたボタンを押して、

 

「あー聴こえますかー? 真選組ヒロインの桜でーす」

 

 そう喋ると、ざわざわとした男たちの声と、失笑苦笑の声が入り混じる音が聴こえる。この時間なら、残っている隊士たちは夕飯時だろう。

 

「みんな食事中だろうけど、ちょっと手を止めて聞きなさい――あなたたちの大事な局長が、今、暗殺されようとしています。伊東が列車内でと企てた模様。わたしは土方さんと一緒に列車を追っているから、みんなもすぐに準備して列車を追いなさい!」

『おいおい桜ちゃん、いきなりそんな冗談言われても……』

「冗談なんかじゃないっ! あー、もうどう言ったら信じてくれるかなぁ……」

 

 見栄張って言ってみたはいいものの、説得力のある言葉が思い浮かばず、わたしは奥歯を噛みしめた。

 

 ――土方さんが言ってくれればな……。

 

 そう土方の方を見ても、トッシーはただただ、ぶるぶると震えているだけで。

 

 すると、運転している銀時が、勢いよく無線機を奪った。

 

「副長命令だ! テメーらの大事なもん守りたきゃ、考える前にさっさと動きやがれ!」

『お前誰だ……?』

 

 銀時は大きく息を吸った。

 

「土方十四郎だバカヤロー!」

 

 そして、銀時はバシンと無線機を置き場へと叩きつける。

 

 わたしは、思わず鼻で笑ってしまった。

 

「ありがとね」

「お前に感謝される筋合いはないさ」

「……そうだね」

 

 そして、覗き込むように、彼に言う。

 

「ねぇ、本当にうじうじしているだけでいいの? 厄介なもの、人に――わたしたちなんかに押し付けて、本当にそれでいいの? それで、ちゃんとあなたは死ねるの?」

「桜さん……死ぬってそんな言い方……」

 

 新八が訂正を促すように言ってくるが、わたしはそれに、何も答えない。

 

 隅で、頭を抱えて、

 

「知らないもん、僕は知らないもん。関係ないもん……」

 

 そう、震えている男に言っているのだ。

 

「どっちがいいか、選べばいいわ。そうやってまた怯えていながら、消えるのか。大事なもの守るために、死ぬのか」

「僕は知らない僕は知らない関係ないんだ僕は――」

「ごちゃごちゃうるせーな!」

 

 車がガタンと大きく揺れた。銀時がハンドルから手を離したのだ。ガードレールにぶつかる直前に、助手席の神楽が慌ててハンドルを元に戻す。しかし、車は不用意に揺れ続ける。その中で、銀時は身を乗り出して、土方の襟首を掴み上げていた。

 

「さっきからうだうだしつけーんだよ。いつまで人様に醜態さらして引きこもっているつもりだぁ? あぁ?」

「僕は……僕は……」

「テメーに言ってんじゃねーんだ! 聞いてんのか、土方ぁ! 頼まれたからにゃ、墓場までは連れてってやる! だがな、真選組が潰れようがなんだろうが、こちとらの方が知ったこっちゃないんだ! テメーの大事なもんはテメーが剣を振りまわして心中でもなんでも勝手にしやがれっ!」

 

 啖呵を切り、銀時が土方をどんっと座席に投げる。

 

 その時、土方が舌打ちした。

 

「てめぇこそ、勝手にごたごた抜けしてんじゃねぇぇぇえええええ!」

 

 土方が立ち上がり、銀時の顔を思いっきりステレオ部分に押し付けた。

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