「つまり、お前は知らないうちに屯所の前に裸で段ボールに入れられていたところを、総悟に拾われたが、お前を狙う奈落にダシとして総悟が誘拐されてしまった――と、そう言いたいのか?」
屯所内の、とある一室。畳の匂いなど、どれだけぶりだろう。
わたしは簡素な着物を着せられ、その部屋の真ん中で正座をしていた。そんなわたしを、真選組副長、
「なかなか……怪しい話ですよねぇ?」
「よくわかってんじゃねぇか」
わたしが首を傾げてへらぁっと笑ってみても、吐き捨てるようにそう返されてしまって。
カチ、コチ、と古い時計の音が気まずそうに動いている。
そんな時間はないのだ。
早く、彼を助けにいかなくては。
そのためには、とりあえずご飯を食べなくては。まともに歩ける気さえしない。正直、正座しているのもつらい。土方に睨まれて曲がった背中を伸ばしてみるものの、すぐに肩が前に出てしまい、姿勢を維持することができない。
それに、土方の隣には、彼がすぐに持てるよう、刀がまっすぐに置かれている。今刀を抜かれたら、あっさり斬られてしまうことは明白である。
「トシ、そんないじめるように言わんでも……」
土方の隣に座る大柄の男、
その局長に、土方は吐き捨てるように言った。
「しかし近藤さん、山崎の調べでは、確かに沖田の行方がわからねぇってことだ。だとしたら、この女が一番怪しいのは明白だろうが」
「けど、この女の子が被害者だという可能性だって……」
「近藤さんもこの手紙見たろう?」
わたしをちらちらと見ては顔を赤らめてる近藤に、土方は一枚の紙をぴらぴらと見せる。
「もう一回読んでやる――鬼兵隊の船で拾いました。どうか育ててやってください。追伸、基本なんでも食べますが、特に甘いものが好きで一日三回あんこ丼を食べさせると喜びおいなに書いてんだこの娘は猫とは違うんだぞてかヅラなに書きこんでやがんだヅラじゃない桂だ――て完全に桂の手のものじゃねぇか! 攘夷志士だぞ、こいつ。こんな部屋で話してないで、早く拷問でもなんでもして沖田の居場所を聞きださないと――」
「桂って、
わたしが口を挟むと、近藤が言う。
「あぁ、反幕府勢力、
「おい、なにいきなり話してんだ?」
「このお嬢さん、本当に何にも知らないみてーじゃねーか。そんな浮世離れした子に、総悟がやられるわけがねぇ」
腕を組みそう言う近藤に、土方は掴みかからんとする勢いで迫る。
「それもこれも、全部奴らの罠かもしてねぇだろうが!」
「責任は全部俺が取る!」
近藤は一言、きっぱりとそう言い放った。
わたしはその二人の様子を、見てることしかできない。
彼らの喧嘩を止める言葉も、わたしの身分を証明する言葉も、何も持っていなくって。
本当に、情けないくらい、わたしは何も持っていなくって。
わたしは、両手をそろえて前に置き、頭を下げる。
「ごめんなさい」
時計の針がカチコチ響く。すると、ため息が聴こえた。
「鬼兵隊には、なんでいたんだ?」
「さらわれたんだと思います。コードに繋がれてずっと眠ってたみたいだから……治療を受けていたんだと思う」
「治療?」
「わたしは、攘夷戦争で奈落の道具として、多くの攘夷浪士を斬ってきました」