車両の間には、見張りの隊士が一人いて。
「はぁい」
わたしが笑顔で手を上げると、その見張りが目を見開いた。そして刀を抜かれる前に、わたしは刀を鞘ごと抜いて、
凄惨。
狭さも相まって、車内はすでにそんな言葉が当てはまる光景だった。
非常灯の赤暗いランプの中で、シートに飛び散っているどす黒い模様は、紛れもなく血痕だろう。その上に散らばるように倒れている隊士たちは、一目見るだけで重症だ。全員、腹や胸を斬られており、すでに息絶えている者もいるであろう。
そして、目の前で、また一人の隊士が仰向けに倒れる。
現れた少年は、片膝を付き、刀を横に掲げていた。べったりと血が付いている顔で、彼は上唇を舐める。
「――死んじまいなァ」
耳に入ってきたのは、絶望を楽しんでいるような、修羅の声。
――まずい。
そんな彼の姿を見て、背筋がゾクゾクした。
香る血生臭さに、凄惨な光景。目の前には獣のような瞳をした修羅がいる。
わたしは刀を持つ手に力を入れた。
――まずい。
思わず顔が綻びそうになり、わたしはぎゅっと両目を瞑る。
――まずい!
その瞬間――ザッと耳横を何かが通る音に、目を開ける。
目の前には、沖田の顔があった。
「これ以上、手を煩わせるなと言ったじゃねェかィ」
彼が見据えるのは、わたしの後ろ。沖田に肩を引かれ、振り返ると、彼の刀がある隊士の喉元に突き刺さっていた。沖田はわたしを背中に促してから、その刀を抜く。鮮血を、沖田は正面から浴びていた。
「けっ、どうしてこう、見られたくねェ時に限って来るかね……」
「……見られたくなかったんだ?」
口の中の何かを吐き出しながら言う沖田に、尋ねる。すると、彼は再び、刀を構えた。
「仲間を粛清している姿なんか、見られて喜ぶ奴ァ、どこにいんのサ」
わたしが入ってきた場所から、また何人もの隊士が現れる。後続の車両から前に来ているということだが、後ろにあと四つは車両があったはずだ。幸い、切れたこの車両が一番前だから、挟まれることはないだろうが、あと数十人いると見ても、間違えはないだろう。
「これ、ほんとにみんな真選組なの?」
「いや……知らねェ顔も多いからな、おそらく攘夷浪士の奴らも混じってんだろうさ」
「ふーん」
どうやら、真選組の制服を着ていても、伊東もとい、高杉率いる鬼兵隊だったりするようで。
そして、真選組で、沖田の知った顔もあるようで。
わたしはゆっくりと息を吐く。
「じゃあ、代わるよ。仲間を斬るのは、ツライでしょう?」
沖田の前に出ようとすると、後ろ手で制止されてしまう。
「馬鹿言ってんじゃねェ――いいから、テメェは何にもすんな」
ジリジリと詰めよる敵に、沖田は刀を向ける。
「ほんと……なんで来たんでサァ」
小さくそう言って、沖田は敵に斬りかかった。上段から一閃したかと思えば、すぐに隣の敵を下から斬り上げる。流れるようにもう一歩踏み込んでは、また別の敵を薙いだ。