それでも、やっぱり隊士――敵は次々と現れて。
「くそ……」
沖田は舌を打って、すり足で一歩踏み出る。
――すり足?
違和感を覚えて下を見れば、後ろ脚に裂傷を見つけて、
「総悟く――」
「
わたしは横のシートに吹き飛ばされた。手すりが腰に当たって痛いと感じる間に、沖田はわたしがいた位置の隊士を斬っていた。
――後ろから?
見れば、列車の進行方向からも隊士が四人、入ってきている。車両のない前方から敵が来たということは、おそらく列車の上に登り、回ってきたのだろうが。
「そこまでしますか……」
わたしは思わず、鼻で笑ってしまう。
そこまで、沖田を殺したいのかと。
あるいは、そこまで、わたしを捕えたいのかと。
「死にてェのか、アンタは」
沖田が狭い通路の間で、わたしを背に左右の敵を捌こうと刀を一閃する。左の敵の腕を薙ぎ、右の敵には避けられて。右の敵がすぐさま重心を変え、沖田の脇腹に刀を振るが、沖田はそれを手首を返して受け止めた。キンと耳に響く音がしたと思えば、左の敵が刀を振り下ろそうとしていて。
「――それでも、悪くはないと思うんだけどね」
わたしは、沖田の腕の下から、その敵の腹に刀で貫いた。
「ここまで守ってもらっといて、死んだら総悟くんに失礼でしょ」
刀を引き抜く。吹きあがる鮮血に反して、倒れる敵。わたしはその鮮血を浴びに向かうかのように沖田を押しのけて、通路に出る。自然と、沖田と背を向け合う形となった。
わたしより少し高い彼の肩が、大きく上下しているのを感じる。呼吸も荒い。
「アンタ、人殺していいのかい?」
「そりゃ、殺さないで済むものを、無駄に殺す趣味はないけどさ」
赤い光の中で見る、血に汚れた刀は黒い。わたしはその刀を両手で構えた。
「でも、大事な人が殺されようとしているのに、敵も助けようなんて思うほど、お人好しでもなくってね。わたしも大概馬鹿だから、大事なモノ守るためなら、他のモノは簡単に斬り捨てるよ。いいヒト気取って大事なモノ守れるほど、世の中綺麗じゃないもの」
「……泣いてたくせに」
「え?」
振り返る暇はなかった。
迫る刀を刀で払い、即座に突く。抜いてそいつを踏みつけて、さらに奥の敵を斬った。血を顔に浴びて、わたしは顔をしかめつつ、一歩後ろに下がって体制を整える。
顔を腕で拭うと、沖田が言う。
「その刀、使い心地はどうだい?」
「とても良好」
「そりゃ、良かった……なぁ、桜?」
「ん?」
「すまねェな」
その時、爆音と共に、列車が大きく揺れた。
一回。二回。
その衝撃が遠くから少し、近づいてきていて。
「爆発だ!」
誰の叫びだがわからないが、それを聴くと同時に、わたしは沖田に抱きかかえられた。
そして、彼は窓ガラスを突き破り、車外へと身を投げる。土手の斜面を転がる時も、わたしの頭は彼にしっかりと押さえられて。
彼の身体が、燃えるように熱い。
そう感じた時には、さっきまでいた車両が、爆発した。爆風に押されて、跳ねるように飛ばされる。耳がつんざく感じは、爆音にやられたか。
川べりに止まると、沖田の手が緩んだ。
「総悟くん!」
わたしは慌ててその腕から離れ、横向きに倒れる彼に呼びかける。しかし、彼は動かない。それに、目の前が白くなるような錯覚を覚えて、
「総悟っ!」
彼の肩をがしがし揺さぶると、沖田が仰向けに転がった。その顔は、なぜか少し綻んでいて。
沖田が、にやりと笑った。
「ようやく、まともに呼びやがったか。痴女猫」
「今そんなこと言っている場合じゃないでしょ!」
「俺が死んだと思ったかい?」
ゆっくりと起きながら言う沖田を、わたしは軽く叩く。
「死んでだら、恨んでいたところだわ」
わたしは上着のポケットから、首輪を取り出した。月明かりで、金色の鈴が輝く。
「ここに向かう最中に急いで直したんだからね!」
わたしがそれを差し出すと、沖田はますますにやりと笑う。
「へぇ、自ら首輪を付けてほしいとは、なかなか殊勝なことじゃねェかい」
受け取ろうとする彼の手を、わたしは反対の手で掴んで訊く。
「ねぇ、わたしのこと、好き?」