偽訳・銀魂 白夜叉の妹と真選組   作:由比レギナ

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ほんとの男は惚れてる女に弱いもの⑪

 すると、沖田の目がすっと細まる。

 

「聞きてェのか?」

 

 わたしは頷いた。

 

「この数日、色々考えたの。なぜ、君があんなにわたしに怒って。なぜ、君がこんなにわたしを大切にするのか。もしも、君がわたしのことを好いているのなら、辻褄が合うのよ」

「アンタ、今まで恋人とかいたことねェだろ?」

 

 沖田が鼻で笑い、わたしも口角を上げる。

 

許婚(いいなずけ)はいたわよ。好きでもなんでもなかったけど」

「まったく――冷たいこと言ってくれるねぇ。俺はこんなにも愛しているというのに」

 

 気配は、全くなかった。

 

 横には、夜でもわかる派手な着物を黒髪の男。くわえた煙管(キセル)にぼんやりと赤い光が灯っている。口から細い煙を吐き出して、高杉晋助は悠然とわたしを見下していた。

 

 わたしは首輪を沖田に渡して、立ち上がる。

 

「あんな子供の頃の話を覚えてあげてるだけ、感謝してほしいわね」

「こいつァ……」

 

 身を起そうとする沖田に手を差し出すと、彼が素直に手を掴んだ。引き上げながら、わたしは高杉を顎で差す。

 

「ただのわたしのストーカーよ」

 

 その時、掠れたスピーカー音が聴こえた。その後に、少し怯えたような、必死な声が風に乗って辺りに広がる。

 

『あーあー大和の諸君。我らが局長、近藤勇は無事に救出した。勝機は我らが手にあり。局長の顔に泥を塗り、受けた恩を仇で返す不貞の輩――敢えて言おう。カスであると!』

 

 その声は、とにかく必死で。子供が大人に歯向かうように、拙くて。

 

『今こそ奴らを、月に代わってお仕置きするのだ!』

 

 でも、間抜けだけど、絶対の覚悟があった。

 

『……俺が誰だと? 土方十四郎なりーっ!』

 

 ガシャッと、スピーカーの途切れる音。

 

 それに、わたしは笑いを堪えることが出来なかった。

 

「トッシー、カッコいいじゃん」

「こんなのが副長だなんて、俺ァ情けなくて殺したくなるね」

「じゃあ、殺しておいで」

 

 わたしは沖田の背中を押す。

 

 近藤が乗っていたであろう先頭車両は、坂の上の林に入って行った。緩やかに曲がっているような林の先に、鉄橋が見える。

 

「どうせ、あっちにも爆弾仕掛けてるんでしょう?」

 

 高杉に向かって問うと、彼はせせら笑う。

 

「俺は、もとから秘密裏に仕掛けてあった爆薬に、ちょいとサービスしてやっただけだぜ? なぁ、坊主」

「けっ、誰もンなサービス、頼んじゃいねェけどな」

 

 沖田がそう答えるということは、元から沖田が列車に爆薬をしかけていたということか。

 

 一見、伊東についていたようにも見えたが、わたしを同行させないようにしたり、伊東も乗っていた列車に爆薬しかけたり。色々一人で戦っていたということか。

 

 ――まぁ、後で訊けばいいか。

 

 今すぐ、訊きたいことではある。

 

 そもそも、先の質問にも答えてもらっていない。

 

 訊きたいこと、話したいこと、たくさんあるのだ。

 

「総悟……」

 

 わたしが沖田を見ると、彼は不満げな顔をしていた。

 

「いいんかィ? ストーカー捕まえるのも、お巡りの仕事ですぜ?」

「こんな奴、被害届出すまでもないわよ」

 

 わたしは、砂利の上に転がっていた刀を拾う。こびりついた血を振り落とし、切っ先を高杉に向けた。

 

「こいつの相手はわたしがするわ。さっきの答え、ちゃんと後で聞かせてね」

「あぁ……アンタがとろけるくれェ、存分に聞かせてやる」

 

 沖田の足取りが、思ったよりも早い。そのことに安堵しつつ、わたしは深呼吸した。

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