すると、沖田の目がすっと細まる。
「聞きてェのか?」
わたしは頷いた。
「この数日、色々考えたの。なぜ、君があんなにわたしに怒って。なぜ、君がこんなにわたしを大切にするのか。もしも、君がわたしのことを好いているのなら、辻褄が合うのよ」
「アンタ、今まで恋人とかいたことねェだろ?」
沖田が鼻で笑い、わたしも口角を上げる。
「
「まったく――冷たいこと言ってくれるねぇ。俺はこんなにも愛しているというのに」
気配は、全くなかった。
横には、夜でもわかる派手な着物を黒髪の男。くわえた
わたしは首輪を沖田に渡して、立ち上がる。
「あんな子供の頃の話を覚えてあげてるだけ、感謝してほしいわね」
「こいつァ……」
身を起そうとする沖田に手を差し出すと、彼が素直に手を掴んだ。引き上げながら、わたしは高杉を顎で差す。
「ただのわたしのストーカーよ」
その時、掠れたスピーカー音が聴こえた。その後に、少し怯えたような、必死な声が風に乗って辺りに広がる。
『あーあー大和の諸君。我らが局長、近藤勇は無事に救出した。勝機は我らが手にあり。局長の顔に泥を塗り、受けた恩を仇で返す不貞の輩――敢えて言おう。カスであると!』
その声は、とにかく必死で。子供が大人に歯向かうように、拙くて。
『今こそ奴らを、月に代わってお仕置きするのだ!』
でも、間抜けだけど、絶対の覚悟があった。
『……俺が誰だと? 土方十四郎なりーっ!』
ガシャッと、スピーカーの途切れる音。
それに、わたしは笑いを堪えることが出来なかった。
「トッシー、カッコいいじゃん」
「こんなのが副長だなんて、俺ァ情けなくて殺したくなるね」
「じゃあ、殺しておいで」
わたしは沖田の背中を押す。
近藤が乗っていたであろう先頭車両は、坂の上の林に入って行った。緩やかに曲がっているような林の先に、鉄橋が見える。
「どうせ、あっちにも爆弾仕掛けてるんでしょう?」
高杉に向かって問うと、彼はせせら笑う。
「俺は、もとから秘密裏に仕掛けてあった爆薬に、ちょいとサービスしてやっただけだぜ? なぁ、坊主」
「けっ、誰もンなサービス、頼んじゃいねェけどな」
沖田がそう答えるということは、元から沖田が列車に爆薬をしかけていたということか。
一見、伊東についていたようにも見えたが、わたしを同行させないようにしたり、伊東も乗っていた列車に爆薬しかけたり。色々一人で戦っていたということか。
――まぁ、後で訊けばいいか。
今すぐ、訊きたいことではある。
そもそも、先の質問にも答えてもらっていない。
訊きたいこと、話したいこと、たくさんあるのだ。
「総悟……」
わたしが沖田を見ると、彼は不満げな顔をしていた。
「いいんかィ? ストーカー捕まえるのも、お巡りの仕事ですぜ?」
「こんな奴、被害届出すまでもないわよ」
わたしは、砂利の上に転がっていた刀を拾う。こびりついた血を振り落とし、切っ先を高杉に向けた。
「こいつの相手はわたしがするわ。さっきの答え、ちゃんと後で聞かせてね」
「あぁ……アンタがとろけるくれェ、存分に聞かせてやる」
沖田の足取りが、思ったよりも早い。そのことに安堵しつつ、わたしは深呼吸した。