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どんなに栄えたお家でも、潰れるのはあっという間だ。
死ねば、それで終わりなのだ。
家族みんなが死ねば、それで終わり。
どうして、こうなったのか――子供だったわたしは、知るよしもなかったが、栄えれば栄えるほど、恨みを買うのは簡単である。
一家暗殺。
そんなものは、よくある話だ。
商家が武芸に長けているわけもなく、十数人の侍に夜、襲われたら、悲鳴をあげることしかできない。
初めに死んだのは母だった。見せしめのように、首が飛んでいた。血が吹き上がる様が、思いの外鮮やかで、こうも派手に死ぬことが出来るのかと、幼い頃のわたしは薄情な感銘を受けていた。
次に、召使いたちがあっという間に息絶えた。
そして、逃げていた父が情けない姿で殺された。失禁し、色々なものを垂れ流した姿は、今まで偉そうにしていた父親の記憶の中で、一番情けない姿だった。
押し入れに隠れていた弟が殺された。最期まで泣いていて、ぱたりと声が聴こえなくなった。
そして、全てを強制的に見せられたわたしの番。どうして悲鳴をあげないのかと、何回も殴られ、蹴られた後の結末。
目に入る光景全てが赤かった。
血は乾けば黒くなるが、量が多すぎたのか、錯覚だったのかはわからないが、すべてが赤く見えた。
侍が、刀を構え、にたりと嗤う。
――あ、死ぬんだ。
残虐な光景の中で、わたしは安堵を覚えた。
ようやく、わたしの番が来たのだ。
ある侍の悪趣味で一番最後になったが、ようやく、この光景を見ないで済むのだ。
一番最初に殺された母を妬んでいたくらいだ。
とっくに、生き延びることを諦め、死ぬことに喜びすら感じたのに。
わたしを斬ろうとした侍が、血を噴き出して倒れた。
代わりに現れたのは、白く小さな少年だった。
ぼさぼさの銀髪が所々赤く染まっていた。質素な服を着た少年が不釣り合いな刀を構えていた。
その刀にも、もちろん血がついていて。
少年が言う。
「大丈夫か?」
わたしは言う。
「どうして、死なせてくれなかったの?」
少年がぼりぼりと頭を掻く。
そして、その少年は困った顔のまま、わたしの頭をぽんぽんと撫でた。
「助けられる奴を助けて何が悪い」
撫でてくる手が思いの外温かくて、心地好かった。
「じゃあ、どうしてみんなを助けてくれなかったの!」
目から、何かが溢れてくる。
「どうして、もっと早くに来てくれなかったの! どうして、わたしだけ助けたの! どうして……」
わたしは彼の手を両手で掴んだ。
「どうして、わたしを独りにするの……」
彼は、一瞬顔をしかめ、少しだけ笑った。
「じゃあ、お前が一緒にいたい人が出来るまで、俺が一緒にいてやるよ。大したことは出来ないけれど……それが、この償いでいいか?」
不器用な笑顔がへらーっとしていて、正直頼りなかったが。
わたしは、この顔を絶対に忘れない。
不条理に自分を戒めた、彼の愚かな償いを忘れない。
不器用な優しさを、忘れない。
わたしを助けてくれた白夜叉に抱いた想いを、わたしは絶対に忘れない。
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