ガタガタという揺れには、二つのパターンがある。寝心地いい揺れと、寝心地の悪い揺れ。
今は間違えなく後者であった。
ましてや、目覚めて目の前にあるのが、気障な笑みだったら尚更だ。
わたしは自然と声を張り上げていた。
「仮にも好きな人を気絶していたっていうのに、どうしてそんな顔できるわけ? もっと心配そうな顔出来ないの?」
「そりゃ、俺は無傷で気絶させたからな」
「いや、お腹痛かったから。いつかは子供を産むであろう女の子のお腹を思いっきり傷つけているから。痣できてるって、絶対」
「俺の子供を産んでくれるつもりになったのか?」
「それは絶対嫌ね。死んでもごめんよ」
「まぁ、その話は置いておいても、こんだけ喋れれば心配いらないだろう」
「……それはそうかも」
狭い場所の椅子の上で、わたしは高杉の膝を枕に倒れていたようである。
「ったく……ここはどこなのよ?」
「天国に近いところさ」
――また気障なことを……。
胸中毒づきながら、身を起こす。くらくらする頭を押さえながら、外を見ると、
「た……高っ!」
夏の終わりの冷たい風が、もう次の季節の始まりを告げる。ほどけてしまった髪を押さえながら、わたしは山々を見降ろした。
どうやら、ヘリコプターに乗せられているらしい。地上よりも、空の方が近そうだ。手を伸ばしたら月が取れるのではないかと思えてしまう。落ちたら、きっと一命はないだろう。しかし、こんな高い場所にいるのは初めてで、少し興奮してしまっていた。プロペラの回転する音が、そういえば耳障りで残念である。
「なかなか派手な誘拐をするものね!」
山の合間には、鉄橋があった。ただ、その鉄橋が途中で崩れており、引っかかるようにして列車がぶら下がっている。
その後方、鉄橋の手前では、数人が戦っているようだ。暗さと、小ささではっきりと確認することは難しいが、動きからして一人対多数のようである。そして、その一人が白っぽい。
――お兄ちゃん、だよね……。
とすれば、その一人が列車に向かおうとしているということは、列車には彼が助けたい人達がいるということで。近藤や土方、きっと神楽や新八もいるのだろう。
――総悟くんも、いるのかな?
「面白いものを見せてやろうか?」
高杉の一言に、振り返る。彼はとても狡猾な笑みを浮かべていた。
指を出しては、くいっと下に向ける。
ヘリコプターを操縦している男が、こくりと頷いた。
ヘリコプターが旋回する。
「あっ」
その勢いに負け、振り落とされそうになったところを、後ろから高杉が抱きとめてくる。
「落とさねぇよ、桜」
「落としてくれても、構わないんだけど」
わたしは高杉を振り払うと、ダダダダダと連撃音がヘリコプターを揺るがした。
装填されていたマシンガンが、列車に向けられている。
「ちょっと――」
わたしは操縦者を止めようと動くも、すぐに高杉に引き寄せられてしまった。高杉の膝の上に尻をつき、顎を持たれる。
「よーく見とけ。お前が守ろうとした奴らの最期だ。あとで下に降りてみようか。真っ赤に染まった奴らの死体を見た時のお前の顔……想像するだけでそそられるな」
わたしの刀が、床に置かれていた。武器があったところで、わたしが逃げることはできないと高杉が踏んで、拾っておいたのだろう。きっと、それを道具にまたわたしを責める手立てでもあったのかもしれない。
――舐めた真似を。
だけど、見下されていることを、今、わたしは感謝した。
足で、その刀を蹴り上げる。即座に鞘から抜いて、その刀を自分の首へ向けた。
「お前っ!」
高杉が驚く顔が滑稽だった。見開いた片目を見て、わたしは口角を上げる。
「わたしが落ちたら、マシンガン撃てないわよね?」
わたしを殺したくない高杉の、穴をついて。
うろたえる彼の、隙をついて。
わたしは、大きく後方に跳躍した。プロペラの向こうの三日月が、やけに鋭く見える。
「桜――」
高杉が身を乗り出して、手を伸ばした。必死で、下手したら泣きそうな顔にも見えて。
――誰が、取るものか。
わたしは嘲笑うように舌を出して、そのまま落ちる。