――さて、どうしようかな。
今になって考える。無事に逃げられた。真下は列車だ。あの高杉がわたしに当ててまでマシンガンは撃たないだろう。実際、銃撃も止んだ。
あとは、着地だけ。
生きて、着地すればいいのだが。
流れる光景は一瞬。
浮遊感を抱く間もなく、頭から落ちていく。
――そういえば、こないだも落ちたな。
天守閣で、沖田を抱えて落ちた時。あのときは壁があったから勢いも抑えられたが、この空の中、刀が刺さるものなんかあるわけがなくて。
月が、どんどん小さくなる。
――死ぬのか。
覚悟して、目を瞑る。
死を覚悟したのは、何度目だろうか。
家が潰れた時。先生が捕まってしまった時。戦争が始まってからは、何回あったか数えきれない。
だけど、わたしは生き延びてきた。
それは、いつも助けてくれるから。
「さくらぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ」
それはただの雄たけびか。わたしの名を呼んでいるのか。
どちらにしろ、それは関係がなくて。
列車に当たる瞬間、わたしは誰かに受け止められた。
「ふんがぁぁあああああああ」
だんっと何かが大きく凹んだ音がした。
受け止められた腕や、胸は温かくて。そして、少し血生臭い。
目を開けると、血走った目でふんばる男の顔があった。鼻の穴を大きく膨らませているその顔は、とてもカッコいいものではない。
ぼさぼさ白髪頭は変わらなくて、図体だけが大きくなった彼は、昔よりも必死な顔をしていた。
「桜! テメーなにしてんだバカヤロー」
「お兄ちゃん、唾飛んでる……」
「るせーっ! 唾くれー、舐めまわしてから飲み干しやがれっ!」
「それヤダなぁ」
わたしは銀時に苦笑を返して、彼の腕からひょいと跳び下りた。が、少しよろけて、その場に尻もちをついてしまう。列車がべこりと凹んでいた。きっと、わたしを受けた衝撃で凹んだのだろう。
わたしはぺたりと座り込んだまま、へらっと笑う。
「ありゃー、さすがに死ぬとこだったわ」
「ったく……簡単にアイキャンフライはやめてくれ……」
嘆息して、銀時もその場にどすんと胡坐を掻いた。
「はは、ごめんねぇ。ストーカーから逃げるのに命がけだったよー」
「……それ言われたら、何にも言えねーじゃねーか」
「じゃあ、言わないで?」
わたしが片目を閉じると、銀時は再び大きなため息をつく。
「はぁー……俺も面倒な妹持っちまったもんだ……」
そう愚痴を言う銀時は、身体に無数に傷を負っていた。細い何かに斬り裂かれたような傷からは血が滲み出ており、頭も切ったのだろうか、顔にも血が滴っている。
そんな銀時に、斬りかかろうとする一人の男がいた。
「お兄ちゃんっ!」
わたしは銀時を押しのけて、上段からのその刀を受ける。
サングラスにヘッドフォン、短髪を逆立てている男は、片手に刀、もう一方には何故か三味線を持っていた。バイクの後ろに伊東を乗せていた男だ。
「あなた……鬼兵隊の人……?」
「起きている時に会うのは初めてでござるな、桜殿。拙者は
「律儀にどーもっ!」
わたしは刀を払い、後ろに下がる――が、何かに足を取られ、再び転んでしまった。足には細い糸のようなものが絡まっている。刀で即座に斬ろうとするが、右手も同じように糸が絡まり、動かない。
「手足の一本は、問題なかったでござるな」
その時、視界が暗くなった。
目の前で、血が飛び散る。
「……たく、本当に世話がかかる妹だよ、オメーは」
そして、後ろから肩をばっさり斬られた銀時は、わたしの頭をぽんぽんと撫でた。