偽訳・銀魂 白夜叉の妹と真選組   作:由比レギナ

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この気持ちが恋でないならきっと世界に恋はない③

 ――さて、どうしようかな。

 

 今になって考える。無事に逃げられた。真下は列車だ。あの高杉がわたしに当ててまでマシンガンは撃たないだろう。実際、銃撃も止んだ。

 

 あとは、着地だけ。

 

 生きて、着地すればいいのだが。

 

 流れる光景は一瞬。

 

 浮遊感を抱く間もなく、頭から落ちていく。

 

 ――そういえば、こないだも落ちたな。

 

 天守閣で、沖田を抱えて落ちた時。あのときは壁があったから勢いも抑えられたが、この空の中、刀が刺さるものなんかあるわけがなくて。

 

 月が、どんどん小さくなる。

 

 ――死ぬのか。

 

 覚悟して、目を瞑る。

 

 死を覚悟したのは、何度目だろうか。

 

 家が潰れた時。先生が捕まってしまった時。戦争が始まってからは、何回あったか数えきれない。

 

 だけど、わたしは生き延びてきた。

 

 それは、いつも助けてくれるから。

 

「さくらぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ」

 

 それはただの雄たけびか。わたしの名を呼んでいるのか。

 

 どちらにしろ、それは関係がなくて。

 

 列車に当たる瞬間、わたしは誰かに受け止められた。

 

「ふんがぁぁあああああああ」

 

 だんっと何かが大きく凹んだ音がした。

 

 受け止められた腕や、胸は温かくて。そして、少し血生臭い。

 

 目を開けると、血走った目でふんばる男の顔があった。鼻の穴を大きく膨らませているその顔は、とてもカッコいいものではない。

 

 ぼさぼさ白髪頭は変わらなくて、図体だけが大きくなった彼は、昔よりも必死な顔をしていた。

 

「桜! テメーなにしてんだバカヤロー」

「お兄ちゃん、唾飛んでる……」

「るせーっ! 唾くれー、舐めまわしてから飲み干しやがれっ!」

「それヤダなぁ」

 

 わたしは銀時に苦笑を返して、彼の腕からひょいと跳び下りた。が、少しよろけて、その場に尻もちをついてしまう。列車がべこりと凹んでいた。きっと、わたしを受けた衝撃で凹んだのだろう。

 

 わたしはぺたりと座り込んだまま、へらっと笑う。

 

「ありゃー、さすがに死ぬとこだったわ」

「ったく……簡単にアイキャンフライはやめてくれ……」

 

 嘆息して、銀時もその場にどすんと胡坐を掻いた。

 

「はは、ごめんねぇ。ストーカーから逃げるのに命がけだったよー」

「……それ言われたら、何にも言えねーじゃねーか」

「じゃあ、言わないで?」

 

 わたしが片目を閉じると、銀時は再び大きなため息をつく。

 

「はぁー……俺も面倒な妹持っちまったもんだ……」

 

 そう愚痴を言う銀時は、身体に無数に傷を負っていた。細い何かに斬り裂かれたような傷からは血が滲み出ており、頭も切ったのだろうか、顔にも血が滴っている。

 

 そんな銀時に、斬りかかろうとする一人の男がいた。

 

「お兄ちゃんっ!」

 

 わたしは銀時を押しのけて、上段からのその刀を受ける。

 

 サングラスにヘッドフォン、短髪を逆立てている男は、片手に刀、もう一方には何故か三味線を持っていた。バイクの後ろに伊東を乗せていた男だ。

 

「あなた……鬼兵隊の人……?」

「起きている時に会うのは初めてでござるな、桜殿。拙者は河上万斉(かわかみばんさい)と申す」

「律儀にどーもっ!」

 

 わたしは刀を払い、後ろに下がる――が、何かに足を取られ、再び転んでしまった。足には細い糸のようなものが絡まっている。刀で即座に斬ろうとするが、右手も同じように糸が絡まり、動かない。

 

「手足の一本は、問題なかったでござるな」

 

 その時、視界が暗くなった。

 

 目の前で、血が飛び散る。

 

「……たく、本当に世話がかかる妹だよ、オメーは」

 

 そして、後ろから肩をばっさり斬られた銀時は、わたしの頭をぽんぽんと撫でた。

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