偽訳・銀魂 白夜叉の妹と真選組   作:由比レギナ

67 / 134
この気持ちが恋でないならきっと世界に恋はない④

「おにい……」

 

 声にならなかった。

 

 そんな間に、銀時は木刀で糸を斬ってくれる。

 

 ――あぁ……。

 

 わたしは、出そうになる涙をぐっと堪える。

 

 ――わたしは、なんて無力なんだろう。

 

 いつも、守ってもらってばかりで。

 

 いつも、助けてもらってばかりで。

 

 わたしは、この人に何かを返せたことがあるだろうか。

 

 わたしは、この人の助けになれたことがあるだろうか。

 

 少なくても、今泣くことは、この人に面倒だと思われるに違いなくて。

 

 ――なら、今のわたしがすべきことはなんだ!

 

「……どいて」

 

 わたしは立ち上がり、銀時の傷のない肩を叩く。

 

「あとは、わたしがやるから」

 

 ――そもそも、わたしがここに来て、何をした?

 

 沖田を助けようと思ったら、むしろ助けられて。

 

 高杉には、捕まって。

 

 逃げても、結局銀時に助けてもらって。

 

 ――ただ、足を引っ張っただけじゃないか。

 

 それが、ただただ、悔しくて。

 

 ――ここで、何もできないでどうする!

 

 わたしは刀を片手で構える。

 

 ここへ来て、構えたのは何度目だろう。

 

 何度構えて、何度役に立ったのか。

 

 ――ここで何もできないなら、それこそ総悟の言うとおりだ。

 

 武器なんて、持つべきではないのだ。

 

 わたしは息を吸って、吐いた。

 

 重いだなんて言っていられない。体力がないなんて言っていられない。

 

 言い訳すれば、弱くていい理由にはならない。

 

 わたしは駆ける。万斉の前で刀を振り下ろしたと見せかけ、前宙で跳び越える。糸のようなものは、三味線の弦のようだ。その中から四方に伸びているのが、月灯りの反射で見えた。わたしは空中でそれを刀で絡め取り、着地と同時に振り返りしゃがむ。振り向く相手の死角で、わたしは脛を斬った。一瞬、よろめく隙に、わたしは万斉の股の下から向こうへ刀を滑らせた。

 

「よしっ!」

 

 その刀を、銀時が受け取る。

 

「なっ」

 

 銀時が刀を引くと、万斉は弦に絡め取られた。腕も身体も、三味線ごと束ねられ、苦悶の表情を浮かべる。

 

 銀時は木刀を放り投げてくる。そして、わたしがそれを受け取った時には、両手で刀を持って、

 

「おりゃぁあああああああ」

 

 思いっきり、振りかぶった。弧を描くように持ち上げられて、列車の下へと振り落とされる万斉。

 

 わたしは、その後を追って、列車から飛び降りた。万斉のみぞおちに全体重を乗せて、木刀を突き刺す。

 

 万斉は、声なく透明な何かを吐き出しては、力をなくしていた。

 

 息を吐く間もなく、わたしは空を見上げる。三日月の下には、旋回するヘリコプター。そこから身を乗り出している、派手な着物の男が、心なしか笑っているようにも見える。

 

 わたしは、木刀を向けた。

 

「今度会う時は、もうこんな無様な姿は見せないから! あなたの首は、わたしが取ってみせるわ!」

 

 その男は、ますます笑みを強めて。

 

 ヘリコプターが、山の向こうへと遠ざかっていく。

 

 その姿を睨んでいると、

 

「桜!」

 

 呼ばれて、振り返ると、沖田が列車の破れた窓から、跳び下りて来ていた。

 

 血だらけの彼は、明らかに安堵の表情を見せていて。

 

 ――お、これは抱きついてくるかな。

 

 と、身を固くした時である。

 

「テメェ、この俺様にどんだけ迷惑かけりや、気が済むんでェ」

 

 パシン。

 

 急に無表情でそう言っては、わたしの頬にビンタをしてきた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。