「おにい……」
声にならなかった。
そんな間に、銀時は木刀で糸を斬ってくれる。
――あぁ……。
わたしは、出そうになる涙をぐっと堪える。
――わたしは、なんて無力なんだろう。
いつも、守ってもらってばかりで。
いつも、助けてもらってばかりで。
わたしは、この人に何かを返せたことがあるだろうか。
わたしは、この人の助けになれたことがあるだろうか。
少なくても、今泣くことは、この人に面倒だと思われるに違いなくて。
――なら、今のわたしがすべきことはなんだ!
「……どいて」
わたしは立ち上がり、銀時の傷のない肩を叩く。
「あとは、わたしがやるから」
――そもそも、わたしがここに来て、何をした?
沖田を助けようと思ったら、むしろ助けられて。
高杉には、捕まって。
逃げても、結局銀時に助けてもらって。
――ただ、足を引っ張っただけじゃないか。
それが、ただただ、悔しくて。
――ここで、何もできないでどうする!
わたしは刀を片手で構える。
ここへ来て、構えたのは何度目だろう。
何度構えて、何度役に立ったのか。
――ここで何もできないなら、それこそ総悟の言うとおりだ。
武器なんて、持つべきではないのだ。
わたしは息を吸って、吐いた。
重いだなんて言っていられない。体力がないなんて言っていられない。
言い訳すれば、弱くていい理由にはならない。
わたしは駆ける。万斉の前で刀を振り下ろしたと見せかけ、前宙で跳び越える。糸のようなものは、三味線の弦のようだ。その中から四方に伸びているのが、月灯りの反射で見えた。わたしは空中でそれを刀で絡め取り、着地と同時に振り返りしゃがむ。振り向く相手の死角で、わたしは脛を斬った。一瞬、よろめく隙に、わたしは万斉の股の下から向こうへ刀を滑らせた。
「よしっ!」
その刀を、銀時が受け取る。
「なっ」
銀時が刀を引くと、万斉は弦に絡め取られた。腕も身体も、三味線ごと束ねられ、苦悶の表情を浮かべる。
銀時は木刀を放り投げてくる。そして、わたしがそれを受け取った時には、両手で刀を持って、
「おりゃぁあああああああ」
思いっきり、振りかぶった。弧を描くように持ち上げられて、列車の下へと振り落とされる万斉。
わたしは、その後を追って、列車から飛び降りた。万斉のみぞおちに全体重を乗せて、木刀を突き刺す。
万斉は、声なく透明な何かを吐き出しては、力をなくしていた。
息を吐く間もなく、わたしは空を見上げる。三日月の下には、旋回するヘリコプター。そこから身を乗り出している、派手な着物の男が、心なしか笑っているようにも見える。
わたしは、木刀を向けた。
「今度会う時は、もうこんな無様な姿は見せないから! あなたの首は、わたしが取ってみせるわ!」
その男は、ますます笑みを強めて。
ヘリコプターが、山の向こうへと遠ざかっていく。
その姿を睨んでいると、
「桜!」
呼ばれて、振り返ると、沖田が列車の破れた窓から、跳び下りて来ていた。
血だらけの彼は、明らかに安堵の表情を見せていて。
――お、これは抱きついてくるかな。
と、身を固くした時である。
「テメェ、この俺様にどんだけ迷惑かけりや、気が済むんでェ」
パシン。
急に無表情でそう言っては、わたしの頬にビンタをしてきた。