右から、左へ。
動いたわたしの頬に触れると、熱を帯びていた。
「ん……けっこう痛いよ?」
「殴ったんだから、当たり前でィ」
咄嗟のことで思考が追いつかないものの、ぽけっと訊く。
「なんで、殴られたの?」
「そんなのテメェで考えろ」
「わからないから、訊いているのだけど?」
即答すると、沖田は項垂れるように嘆息した。
「敵の位置を確認しようと、窓から見上げてみりゃ、アンタが落ちてきてるんでさァ……どうやったら、あんなことになるんでィ」
――あぁ、そのことか。
わたしがヘリコプターから飛び降りたことを怒っているでらしい彼に、かいつまんで説明する。
「高杉に捕まっちゃったところ、みんながマシンガンに襲われているようだったので、飛び下りてみました。どうやらあいつ、わたしに怪我させたくなかったようなので、撃つのやめるかなぁっと……」
「へぇ……」
顔を上げた沖田の目が、冷たく光っているように見えた。
「で? あの高さから生きて着地できる見込み、ちゃんとあったのかィ」
「総悟くんは、わたしの身を案じてくれていたのかな?」
「いいから答えろ」
短く言われて、わたしは一瞬顔をしかめるが、
「それは……」
顔の横で、軽く両手を握った。
「猫は着地が得意だにゃん」
そして、くいっと首を傾げる。
「――で?」
しかし、沖田の反応はますます険しくなるだけだった。
「いや……えーと……総悟くん、よくわたしのこと猫扱いするからさ……それで……あーもうごめんなさいっ! 何にも考えてませんでしたよ! でも大丈夫だったでしょ、無事にこうして、怪我ひとつしてないんだから!」
いたたまれなくなって、叫ぶわたしに、沖田も怒声を返す。
「そりゃあ、全部旦那のおかげだろうが! 旦那が近くにいなかったら、誰も助けてくれる人がいなかったらどーするつもりだったんだ? 死ぬつもりだったのか? あぁ?」
「それは……」
口ごもる。
死ぬのも、ありかもしれない。
そう一瞬でも考えたのは、事実だから。
「ちったぁ……人の気持ちも考えてくれ……」
小さく呟いたその言葉に、わたしは思わず笑みを浮かべた。
心配されることは。
助けられることは。
やっぱり、嬉しいものだ。
「ありがとう――わたしも、総悟くんが無事で、よかったよ」
そう言うと、沖田がどこか恥ずかしそうに舌打ちして。
その時、土方の声が響く。
「総員に告ぐっ! 敵の大将は討ち取った! もはや敵は統率を失った烏合の衆――一気に畳み掛けろっ!」
奥を見れば、列車の前で刀を掲げたのち、敵陣に突っ切っていく土方と近藤の姿。
大将とは、万斉のことだろう。倒れた万斉を隊士たちが取り囲んで、縄できつく縛っているようだ。
――本当の大将は、ちゃっかり逃げてるけどね。
高杉の乗っていたヘリコプターは、いつの間にか見えなくなっていた。しかし、それを今言うことが野暮だということは、さすがにわかる。士気を高めて、戦場を勝利で治めるのだ。
盛り上がる戦場を見て、沖田も歩を翻した。
「頼みがある」
腰の刀に手をかけながら、彼が言う。
「もしも、本当に俺らが無事なことを喜んでくれてるのなら……アイツに礼を言ってやってほしい。俺らは……言えねェからな」
「あいつ?」
わたしの疑問符には答えずに、そう言うだけ言って、彼は敵陣へ駆けていく。刀を抜くと同時に、倒れる敵の数は増えていった。
――怪我、大丈夫そうね。
彼の動きに安心しつつ、わたしはもう一人、わたしのために怪我をした男を探す。
銀時は列車の上で胡坐を掻いて、へらへらとこちらに手を振っていた。
わたしは、肩を押さえる動作をして、首を傾げる。
彼は大丈夫だとばかりに腕を回そうとして――やっぱり痛かったらしい。肩の怪我を押さえて、大きく顔をしかめていた。怪我はひどいようだが、命に別状はないらしい。
わたしは苦笑を返して、列車の中を見る。
すると、神楽と新八が、深刻な顔をして、誰かに話しかけているようだ。