偽訳・銀魂 白夜叉の妹と真選組   作:由比レギナ

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信頼はこぶしで掴みとれ②

「奈落の一員だったのか?」

 

 土方の驚きの声に、わたしは少し顔をあげた。

 

「わかってんのか? 天照院奈落っつーと、幕府の裏組織の天導衆(てんどうしゅう)のうちの暗殺部隊だぞ?」

「天導衆って、けっきょく幕府の政権握ったんだ?」

 

 土方が眉間にしわを寄せる。

 

「お前、そんなことも知らないのか?」

「攘夷戦争直後から、記憶にないから……」

「鬼兵隊にさらわれてたからか?」

「いつ、どんな風にそうなったか、さっぱり記憶にないんだけどね……」

 

 情けない。

 

 そう思う。怪しまれても仕方ない。もしも逆の立場なら、すぐに斬り捨てているかもしれない。

 

 しかし、言うしかないのだ。 

 

「我ながらよくできた話だと思うけど……洗脳ってやつみたい。特定の笛の音を聞いてしまうと、もう自分の意志ではなにもできなくなって……でも、さっき沖田少年がさらわれたときに、その笛を聞いたけど、大丈夫だった。それを、高杉が治してくれてたんだと思う」

「高杉って、あの高杉晋助(たかすぎしんすけ)か?」

「えぇ。あの……幼馴染です。高杉も、桂も……」

「幼馴染ぃ?」

 

 土方は煙草をぽろっと口から落とす。

 

「じゃああれか。もしかして白夜叉(しろやしゃ)坂本辰馬(さかもとたつま)と……」

「知り合いです。てか、仲間でした。その……戦争の時、奈落のせいで彼らを斬ったのもわたしだけど……」

「あ……」

 

 土方は落ちた煙草を拾い、頭をぼりぼりと掻く。

 

 嗚咽が聴こえた。見ると隣の近藤が目を真っ赤にして、鼻をすすっている。

 

「可哀想に……可哀想になぁ、お嬢さん! 今まで苦労してきたんだなぁ!」

「えと……どうも……」

 

 いざ同情されても、こめかみを掻くことくらいしか出来ないが。

 

 土方が再び、ため息を吐く。

 

「……総悟の行方、わかるか?」

 

 わたしはばっと頭を上げる。

 

「奈落は、わたしに天守閣に来いと言ったわ」

「ちっ、ずいぶんと大層な場所に招待されたもんだな」

 

 土方はくわえていた煙草を、胸から出した携帯灰皿らしきものにしまう。

 

「しかしちょうどいい――近藤さん、今晩、例の事件の報告で登城を命じられたよな」

 

 いまだにずっとすすり泣いていた近藤は、思いっきり鼻をすすった。

 

「あぁ。松平のとっつぁんにも相談して、総悟を助け出す――トシ、一緒に来てくれるよな?」

「あぁ、とうぜ――」

「わたしも連れて行ってくださいっ!」

 

 声を張った。二人とも何回か目をぱちくりした後、土方が喋り出す。

 

「それは出来ない」

「どうして?」

「今の嘘みたいな話を信じるとして、お前はまだ証拠の揃っていない重要参考人だ。上に報告するにもまだ早い。監視をつけて、今日は屯所で軟禁させてもらう」

「けど、彼がさらわれたのは、わたしのせいよ!」

「だとしてもだ! 戦えない奴を連れていけない」

 

 わたしは土方を睨む。

 

「誰が、戦えないですって?」

 

 腰を少し上げる。そして、一歩踏み出そうとした。一足で土方の元に着くだろう。彼の刀を奪い、それを首に突きつける――つもりだった。

 

 しかし、その一歩の力が入らない。

 

 ぐぅぅぅっと、間抜けな音がする。

 

「…………」

 

「なんだ、どうしたんだ?」

 

 冷たい土方の声。完全に、わたしを見下している声。

 

 わたしは、我ながらか細い声で言う。

 

「……何か、食べ物をください……」

「あぁ?」

 

 そして、大きく息を吸った。

 

「おなかが空いて動けない! だから何か食べさせて! それからわたしと決闘しなさい!」

「はぁっ?」

 

 二人して素っ頓狂な声をあげる。

 

 わたしは自分の胸をばんっと叩いた。

 

「土方! わたしがあなたより強いこと、証明してみせるわ。けど、今おなかが空きすぎて動けないの! だから何か食べさせなさいっ!」

「こいっつ……」

 

 土方のこめかみがぴくぴく動く。どうやら、短気な奴らしい。

 

 そんな土方が、また懐から何かを取り出す。それをばしっと投げてきた。

 

 畳の上に転がるのは、マヨネーズだ。

 

「……は?」

 

 マヨネーズ。楕円の先端をすぼめたようなフォルム。先端のキャップは赤い。そんな、どの家庭にも一本常備しているような、マヨネーズ。

 

「マヨネーズ……だけ?」

「とっとと吸え。高カロリー、高たんぱく、高脂質。これほどバランスのいい非常食はほかにないだろう! しかも美味い!」

 

 苛めか。

 

 わたしはそう判断する。

 

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