「あったあった」
車上荒らしさながら、ボロボロになったパトカーの中から、わたしは私服を探しだした。バンパーもひしゃげて開いているし、タイヤもパンクしているこの車は、もう走ることはないだろう。わたしと万事屋と副長をここまで運んで、立派に真選組を守った、立役者だ。
人は、いつか死ぬ。
もしも、死に方を選べるとしたら、どのように死にたいのだろうか。
ふと、そんなことを考えた。
この車のように、仲間の役に立って死にたいのか。
それとも、辺りに倒れている攘夷浪士のように、夢を志して死にたいのか。
それとも、伊東のように――。
わたしは、頭を振って、車から這い出る。
わたしは、伊東の最期を見届けなかった。見届けられなかったと言ったほうが正しいかもしれない。
伊東はあのあと、土方と決闘という形で、処刑されたようだ。
「ありがとうなんて言っておきながらさー、わたしも薄情な女よねー。最期見てあげずに、そそくさ自分の荷物回収しにくるなんてさー」
山の向こうに月が沈み、反対側からは朝日が昇り始めていた。川面が黄金にキラキラ輝いている。
ちらほらと、役人たちが集まり始めていた。白い制服の人たちや、着物を着たいかにもな人たちが状況検分というやつだろうか。死体の確認や列車事故の確認を始めている。
今のうちに回収しなければ、わたしの浴衣も何かの証拠品扱いになってしまうかもしれない。
――わたしも狙われていたんだしね。
どこまで近藤たちが報告するのか。お国の調査が及ぶのか。それは流れに任せるほかないけれど。
「誰もアンタが薄情だなんて思っちゃいねェさ」
背後から声をかけられ、首に何かを巻かれる。首に触れる手が、温かかった。わたしは振り向かず、代わりに軽口を返す。
「隊長さんがこんな所で油売ってていいのかな? 事件の後の調査や報告ってのも、大事なお仕事なんじゃないの?」
「泣いてる女ほっといて仕事するほど、野暮な男じゃねェさ」
「……いっちょまえに、カッコつけちゃって」
わたしは浴衣を抱きしめた。そこに、ぽたぽたと涙が落ちていく。
「あの場で泣いている奴がいたら、それこそ場に合わねェから、あえて居合わせねェようにしたんだろ? 俺たちのために気をつかってくれたことにゃ、感謝するが、一人で出歩くの禁止なことを忘れてもらっちゃ困るんだよ」
「あのねー、こんな時にまでお説教?」
振り向くと、首に付いた鈴がチリンと可愛らしく鳴る。
沖田が優しい顔で微笑んでいた。まるで愛猫を撫でるかのような手つきで、わたしの頭を撫でてくる。
ゆっくりと、静かに。
わたしを撫でる手は案外大きくて、ごつごつとしている、しっかりとした男の手。
わたしを見守るその顔も、わたしよりも高い位置にある。この近距離で顔を合わせようとするならば、それなりに顔を上げなくてはならない。
「……あんまり見ないで」
わたしは、そっと沖田の手を払って、俯いた。涙が止まり、代わりに顔が熱い。
沖田はくつくつと笑って、
「俺のやったモンをそんなに大事にするなんざ、殊勝なもんじゃねェか。褒美にパフェでも食わせてやるよ」
そう言うと、見覚えのあるバイクにまたがり、後ろのシートを乗れとばかりにトントンと叩く。
確か、万斉が乗っていたバイクだ。
「……あの、沖田さん?」
「なんだ?」
「それ、ものすごーく大事な証拠品とかじゃないのでしょうか?」
「しょーがねェじゃねーか。これしかちゃんと動きそうにないんだから」
「そういうもの?」
顔をしかめると、沖田が舌打ちした。
「いいんだよ、アンタは何も気にしないで。見廻り組やらにアンタを遭わすと面倒なことになるんだ。さっさと帰るぞ」
わたしは嘆息する。
見廻り組がなんなのかは知らないが、確かに余計な役人たちと話して面倒になるのは目に見えている。
わたしは大人しく、彼の後ろに乗った。沖田はエンジンを噴かすと、手なれた様子で発進させる。