偽訳・銀魂 白夜叉の妹と真選組   作:由比レギナ

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この気持ちが恋でないならきっと世界に恋はない⑧

「おい、そこのバイク止まりなさい!」

 

 白い制服を着た眼鏡のおじさんから制止の声がかかるも、それを聞くわけもなく。

 

「しっかり掴まっとけよ」

 

 と、沖田は少し楽しそうに言って、縫うように走らせた。

 

 ――掴まる……ねぇ。

 

 片手は浴衣を持っている。開いた手で彼のジャケットの裾を掴んでいると、その手をぐいっと前へ引っ張られた。

 

「おっと」

 

 強制的にお腹の前を掴むことになり、わたしは首の鈴を鳴らしながら、前傾姿勢で、顔を沖田の背中に預ける体制になった。

 

 ――あ、あったかい。

 

 もう夏も終わりである。木々が赤く染まるのはもう少し先だろうが、それでも朝は少し肌寒く、風が冷たい。

 

 けれど、沖田の体温は温かくて。

 

 ――子供なのかなぁ。

 

 と、少し笑う。口にすると怒られそうだから、言わないけれど。

 

 現場を抜けるのはあっという間だった。

 

 山と川に挟まれた公道で、すれ違う車もいない。まぁ、行く先は通行止めになっているだろうから、当たり前なのかもしれないけど。

 

 それでも、走る車やバイクが自分たちのみというのは、気持ちがいいものだ。

 

 キラキラ輝く水面が美しく、山の空気も清々しい。

 

「そういえばさ」

 

 そんな中で、こういうことを訊くのは適しているのか、野暮なのか。どちらに転ぶのかわからないけれど。

 

「返答訊いてないんだけど?」

「それって、俺がアンタのこと好きかどうかってやつか?」

「そう、それ」

 

 答えを、求めてみる。

 

 正直、今更それを知って、どうだという気もするけれど。

 

 ――なんか、もう怒っていないみたいだしね。

 

 沖田は言う。

 

「近々、姉ちゃんが江戸に来るんだ」

「ん? お姉ちゃんいたの?」

 

 いきなりの話題に驚きつつ、訊き返すと、

 

「あぁ、唯一の俺の家族でサァ……出来たら、アンタにも会ってもらいてェ」

 

 そんなことを言われて、わたしは背中から顔を上げる。

 

「……うん、いいよ」

 

 すると、沖田が急にバイクを止めて、振り返ってくる。

 

「本当か? アンタ、ちゃんと意味わかって返事してるのか?」

 

 わたしは笑った。

 

「いつもお世話になっている人のご家族なら、きちんとご挨拶しないとね」

「……わかってねェだろ、絶対」

 

 わたしは微笑んだまま、首を傾げる。

 

 沖田は項垂れるように、ため息を吐いて、

 

「まぁ……今日はアレだ。色々なことがあったしな、勘弁してやる」

 

 そう言って前を向いて、バイクを走らせた。

 

 わたしは、彼には聴こえないほど、小さな声で呟く。

 

「……わかってるよ、ちゃんと。でも、ごめんね」

 

 

 

 

 それから、一週間後。

 

 あの事件も色々と片付き、ようやく真選組も日常を取り戻していた。

 

 しかし、あれから変わったことがある。

 

 わたしに、朝の日課が出来た。

 

「コラぁ! 腰がぶれてる! あと素振り百回追加ァ!」

 

 沖田が道場の床を竹刀で叩く音が響く。

 

 その音に顔をしかめつつも、

 

「はいっ!」

 

 わたしは威勢よく返事をして、足を前後に動かしながら、素振りを続けた。

 

 あの事件で自分の弱体化を痛感したわたしは、沖田に手合わせしてほしいと頼んだ。

 

 そうしたら、その前に出された条件が、毎朝の稽古に付き合えというもの。

 

 ランニング三十分。腕立て百回。腹筋百回。素振り百回。さらに、沖田にダメだしされれば、追加分。

 

 そして、剣道の試合形式で一試合して――という約束なのだが、まだ一試合も出来ていない。

 

「はぁ、もうダメ……」

 

 わたしは素振りを終えると、道場に寝転んだ。

 

 全身の筋肉痛と疲労で、とうぶん動けそうもない。

 

 すると、道場の扉が開いた。顔を向けると、土方が睨んでいる。

 

「おい、総悟! いつまで油売ってるん――」

 

 朝日差し込む凛とした空気の道場に、響き渡る携帯音。

 

 それは、立ち向かう先に乾いた風が激しく吹き荒れるようなリズム。

 

 呪文の一つも唱えたならあたしのペースになるようなメロディ。

 

 土方はその携帯を当たり前のように取り出しては、

 

「あ、もしもし。えー! スレイニャーズの限定ラジオドラマCDの発売が延期っ! それはショックでござるな……」

 

 と、喋りながらとぼとぼとどこかへ歩きだす。

 

 そんなトッシーと上手く共存している土方を生暖かい目で見守っていると、沖田はにやりと笑って覗きこんできた。

 

「今日もこれでギブアップかィ? じゃあ、俺は仕事行ってくるから、大人しく待ってろよ、痴女猫」

「あーもーハイハイ。お仕事がんばってね、総悟くん」

 

 寝転んだまま、わたしはひらひらと手を振って、沖田を送り出す。

 

 変わったような、変わってないような。

 

 そんな朝、道場に一人になって、わたしは身体を伸ばした。

 

「よーし、今日もお昼まで寝よーっと」




動乱篇、これにて終了です!
いかがでしたでしょうか? 
なんか中盤無駄な部分も多かったかなーとか思いながら、気づいたら50話もあっという間に超えて、こんな話数になってました。
お楽しみいただけたでしょうか?

もちろん、偽訳銀魂、まだ終わらせません。
次は前に宣言した通り、カブトムシの話をしようと思います。
作中でも夏は終わってますけどね。
時期に合わないことを敢えてする楽しさって、現実にもありますよね。
冬に海に行きたくなったり、しませんか?
けど、巨大カブトムシと闘うのがメインではなく、主人公の昔語りをメインに書いていこうかと思ってます。

これからも、どうぞ偽訳銀魂をよろしくお願いいたします。
皆様の有意義な暇つぶしになりますように。
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