――しかし、将軍よ。そのくらいで友達は怒りも泣きもしにはせんよ。
そう伝えてやりたいが、あいにく
「そして、誰かが同じようなカブトムシを再び飼えばいいのではと、助言をしたらしいんだけど」
わたしはお味噌汁をすすった。今日はなめこの味噌汁である。このにゅるっとした触感がたまらない。汁までどろっと濃厚な感じになるのが、また贅沢の極みである。
「金色の輝くそうそう死なないカブトムシなんて、なかなかいるわけはなくて。将軍権力に物を言わせて、宇宙天然記念物に指定されている瑠璃丸って種類のカブトムシを取り寄せたらしいんだよね」
――わーい、職権乱用!
「そうしたら、今度はその瑠璃丸を、将軍みずから逃がしてしまったらしく、また塞ぎこんでしまったらしい。やっぱり、職務が手に付かなくなるほどに」
「…………」
わたしはお椀を机に置いて、近藤を見上げた。
近藤は、わかるだろうと言わんばかりに、大きく頷いて言う。
「その責任を、真選組が取れと言われた」
☆★☆★☆★☆
――目撃情報を辿ってこの森まで着いたものの……見つかるわけないじゃない。
わたしは嘆息する。
無理だろう。
真選組総出で探したところで、無理だろう。
この森でさえ、普通に歌舞伎町くらいの広さはあるのだ。
ましてや、
「ねぇねぇ、総悟くん。近藤さんのやり方で、カブトムシ掴まると思う?」
「あぁ? あの全身に蜂蜜塗るアレでかィ? 近藤さんに対してこういうのもアレだが、阿呆だろう、ありゃ」
近藤は、自ら下着一枚となり、なぜか蜂蜜を自身に塗りたくり、黄金の局長となって、この森の中を片足で立っていた。木になりきっているつもりらしい。
「じゃあさ、土方さんのやり方はどうかなぁ?」
「あぁん? あんなマヨネーズで掴まるのなんて、変態マヨラー以外いるわけねェじゃねェーか」
土方は、木にたっぷりのマヨネーズを黙々と塗りたくっている。
そして、沖田に、
――訊くのは野暮だから、やめておこう。
「……早く見つかるといいね。瑠璃丸」
「あぁ」
こう話すと、ちょっと嬉しそうな声が返って来る。
――まぁ、夢を追うのも青春の一つよね。きっと。
そういう歳なのだろう、きっと。自分がカブトムシのふりをすれば、きっと仲間だと思ってカブトムシが寄って来るだろうと思う青春なのだろう、きっと。
ならば、それを暖かく見守るのが、大人の努めではなかろうか。
わたしはそう納得して、大人しく自分の作業を開始することにする。
斬られた赤い首輪を、縫いなおすのだ。
スッパリと綺麗に切れた首輪は、丈夫な革で出来ていた。簡易的に直してはいたものの、やはりその辺で売っているものでは、またほつれてきてしまっていた。
その赤い首輪を揺らすと、チリンチリンと可愛い音がする。
「ホントに直すつもりなのかィ?」
降って来るその声に、わたしは太めの針に糸を通しながら返答する。
「もちろん。あ、ちゃんとした裁縫道具買ってくれて、ありがとね」
「いや、そりゃいいんだけど……やっぱり、買いなおした方が早いし、楽なんじゃねェか?」
「勿体ないじゃん」
「そりゃ、まぁ……」
渋る沖田に、わたしはビシッと赤い糸が通った針を向ける。
「わたしこれでも、お裁縫得意なんだから!」