偽訳・銀魂 白夜叉の妹と真選組   作:由比レギナ

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ブームの時期を逃すからこそ楽しいことがある④

 そして力を入れて、赤い革に針を一刺し。予想通り、かなり固い。

 

 ――これは時間かかりそうね。

 

 唇を一舐めして、一針、一針、丁寧に手を動かす。

 

 すると、ズルズルと、巨大なカブトムシ――もとい、沖田が木から降りてきた。

 

「へぇ、本当に縫ってやらァ」

 

 覗きこんでは、感心の声をあげる少年に、わたしは不服を返した。

 

「なによー、わたしが裁縫できるの、そんなに意外はわけ?」

「いやァ、生活態度を見る限り、ズボラはイメージがどうしても拭えなくてサ」

 

 ――確かに、規則正しい生活を送るのは、苦手ですがね。

 

 わたしは手を進めながら、口を尖らせた。

 

「小さい頃に、それなりのことは教わってるのよ。裁縫だけでなくて、料理や琴に舞いに歌に、一通りの教育は受けていたわ」

「琴や舞いって……それじゃあ、お嬢様みたいじゃねェか」

 

 わたしは周りを見渡した。誰もいないことを確認して、視線をまた手元に戻す。

 

「お嬢様……だったのよ。許婚がいたって、言ったでしょ」

「許婚って、高す――」

 

 言いかけた彼の口元に、針を近づける。赤い糸が、彼の口から滴る血のように見えた。

 

「あいつの名前は、出さないで。好きでもなんでもない男にあんなに迫られて、思い出すだけでも気が重くなるのよ」

「そーゆー問題かィ」

「それ以外に何の問題でも?」

 

 肩をすくめて、わたしはまた首輪に針を一刺し。沖田は立てた膝に肘を付き、わたしの手元をじっと見ていた。

 

 ちく、ちく、と。

 

 遠くからぎゃーぎゃー騒ぐ声が聴こえること以外には、心地よい風に髪をなびかせながら、ゆっくりと時間を感じる。

 

「伸びたな、髪」

 

 春色の流れる髪の後を目で追いながら、沖田がそんなことを言ってくる。

 

「寝癖が付きやすい長さになっちゃってね。切ろうか、悩んでるとこ」

「……そのまま伸ばせばいいじゃねェか」

「ん? 長い方が好き?」

「いんや、そーゆーわけじゃ――」

 

 向こうから一際大声が、沖田の声を掻き消した。男の声の中に、女の子の声も怒声も聴こえる。

 

「何かトラブルかな?」

「どうせ、ロクなことじゃねェーさ」

「いいの? そんなんで」

 

 首を傾げると、沖田が嘆息した。

 

「どうもアイツらが来ているみてェでな……またいい所持って行かれちゃたまんねーよ」

 

 愚痴るようにそう言うと、わたしが口を開く前に、

 

「桜、旦那のこと、どー思ってるんだ?」

 

 そう、訊いてくる。

 

 わたしは、手を止めた。

 

「旦那って、お兄ちゃんのことよね?」

「あぁ、お兄ちゃん呼んでも、ホントの兄貴じゃねェんだろ?」

「うん……」

 

 そういえば、遠くからの罵声は銀時の声に似ていなくもない。

 

 馬鹿で、適当で、カッコいい義理の兄のやる気のない顔を思い浮かべて、わたしは苦笑した。

 

 横目で沖田の顔を見れば、照れているような、真剣のような、少し瞳が揺らいでいる。

 

 ――いい、頃合いかもしれないわね。

 

 チクリと痛む胸に目を背けて、わたしは口を開く。

 

「銀時のこと、好きよ。初恋なんだ」

 

 地面に置いていた水筒を一口飲み、それを沖田に手渡す。目を見開きながら受け取る彼に、わたしは微笑みかけた。

 

「昔話、聞く?」

 

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