その問いにも、先生は首を振った。
「私が君に剣を持たせない理由は、性別ではないよ。君が復讐を考えているからだ。復讐からは、悲しみしか生まないよ? 君の人生はこれからだ。そんな人生を、君には歩んでほしくない」
「そんな、ありきたりな言葉、求めてないです」
この先生の瞳は、どうしても思い出すことができない。
いつも、笑っているか、髪で隠れているのだ。
わたしは、まっすぐに先生の顔を見ていたものの、先生がどのような顔をしていたのか、思い出せない。
「これから、わたしがどんな風になるのかなんて、わたしにはわかりません。でも――殺したい相手がいるなら、殺したい」
「それが――」
「守りたい相手がいるなら、守りたいし、やりたいことがあるなら、やりたいの――でも、そのためには、力がいる。お金はもう、ない。権力もない。なら、わたしが今、一番持てる可能性があるのは、力だと思う」
わたしは、先生の帯を掴んだ。
「どうじょーがある。そして、こんなに強いせんせーがいる。一緒に競う仲間がいる。この機会を逃すほど、愚かなことはしたくない!」
「……それが、子供の言うことですか……」
先生はそう呟いて、小さく笑った。
「そこまで言うのなら、チャンスをあげます。三か月以内に、私に一太刀でも浴びせてみなさい。いつ、どんな手を使っても構いません。それが出来たのなら、きちんと、あなたに稽古をつけましょう」
☆★☆★☆★☆
「なぁ、オイ。旦那は出てこねェのかィ」
「えへへ。これから」
わたしは肩をすくめて笑う。すると、また沖田の半眼が返ってきた。
「さっさとその話をしてほしーんだが? こちとらだって、暇じゃねェーんだ」
「だったら、木に掴まりながらでもいいよ? ミンミン鳴きたいのなら」
すると、沖田がいそいそと動きだした。どうやら、カブトムシの着ぐるみを脱ごうとしているらしい。
――おや、ようやく恥ずかしい自覚が出たかしら?
背中のファスナーを下そうと、手を後ろに回して――バタバタしている。
上からまわして、バタバタ。
下からまわして、バタバタ。
いったん休んで、バタバタ。
わたしはジーとそのファスナーを下した。
「……余計なことすんじゃねェーよ」
赤面しながら口を尖らせる沖田に、わたしはこう言いかえした。
「総悟くんが山崎に用意させたその着ぐるみ、山崎に泣きつかれて、わたしが作ったものだから。余計だったかしら?」
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次の日から、わたしは先生のあとを付いてまわった。
武器はやっぱり枝だ。
寝起きを攻めてみた。
食事中に襲ってみた。
トイレから出た瞬間を狙ってみた。
もちろん、寝ている時にも殴ってみた。
しかし、すべての攻撃を、
「ぜんぜんですね」
と笑顔でかわされてしまった。
そんなことをしていると、一か月なんてあっという間に過ぎてしまった。
――どうしよう……。
先生が道場で、他の生徒の稽古をつけている姿を、わたしは隅に座ってじっと見ていた。
武器の持ち方も、真似てみた。
すり足も、真似てみた。
「小太郎は、いつも回りが見えてないですね。見えるものが全てではないことを、理解しなさい」
そういう、先生が生徒の指導することだって、全て覚える覚悟で耳を澄ませている。
それなのに、なぜ一回も当てられないのだろうか。
その時、わたしの頭にコツンと何かが当たる。
見上げると、銀髪の少年が、つまらなそうに枝でわたしの頭を叩いていた。