「さくらは、いつも回りが見えてないですねー。見えるものが全てではないことを、理解しなさーい」
「あーもーぎんときー、せんせーの真似してー」
わたしはぷすーと頬を膨らませた。
「おまえ、まだ諦めねェーの?」
頭を枝でぺしぺし叩かれながら、銀時に言われる。
特に、自分から銀時にこの試練のことを話してはいなかった。
一緒に暮らしてはいるものの、友達と呼ぶほど心は開けず、たいてい同じ敷地内にはいるものの、どこか距離のある関係のこの少年に、報告も、相談もするという考えがなかった。
むしろ、わたしにはこの少年が妬ましくも思えた。
先生から剣の手ほどきを、一番受けているのがこの少年である。
そして、この道場で一番強いのも、銀時である。
一度、道場破りに来た高杉晋助に負けたことがあったが、あれはドジを踏んだというか、まぐれに近かった。
わたしを助けてくれたゆえの憧れと、わたしの欲しいものを持っているゆえ嫉妬。
その両者でわたしの心を大きく揺るがす少年を、当時のわたしが受け止めるための感情は、苦手と認識してしまうことだった。
「知ってっか? 俺も、アイツには一太刀も入れられたことないんだぜ?」
そんな少年に、そう言われて。
茫然とするわたしに、彼は言う。
「表出よーぜ」
外を親指で差したと思えば、一人でとことこ歩いていく。わたしは先生を見た。高杉が先生に挑みに行き、足をひっかけられ転んでいた。
高杉でも、あの少年でも出来ないことを、あと二カ月で自分ができるのか。
自問自答し、わたしは唇を噛みしめながら、道場を後にした。
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「読めた」
「ほぅ」
「アンタは旦那と決闘するだろ」
「ほぅ! なんでそう思う?」
「基本的に、アンタは喧嘩早い!」
「……総悟くんは、わたしのことをなんだと思っているのかな……?」
「考えてもダメな時はとりあえず力ずくで黙らせればなんとかなると思っている短絡思考痴女猫」
無事にカブトムシの着ぐるみから脱皮した沖田は、一息にそう言いのける。ずんぐりむっくりした着ぐるみは秋には暑かったのだろう。白いシャツから肌が透けていた。
直視してはいけないかと、わたしは顔を背ける。
「……わたし、そんな暴力的なことしてないつもりだったけど」
「アレだな。無自覚はもう取り返しがつかないとこまで来てるってこった。諦めろ」
「えー」
非難の声をあげると、沖田はわたしの唇を手でつまんで、強制的に向かい合わせになる。
「で? 当たりなのかィ?」
わたしは半眼で彼のことを見ながらも、こくりと頷いた。
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「じゃあ、ゲームな。俺はこの円から出ない。お前が一分以内に、俺に一太刀入れたら、お前の勝ち。おーけぃ?」
「おーけしないっ!」
わたしは怒鳴った。
「そんなのふこーへーだ! わたしが勝つに決まってる!」
「そーでもないと思うけど……? でも、いいの? 俺に勝てたら、アイツに勝てる裏技教えてやるけど?」
「ほんとー?」
そういうわたしの目は、きっと輝いていたのだろう。銀時がくつくつと笑った。
「あぁ……じゃあ、やろっか」
「でも、おーけしてないっ!」
「裏技、知りたくねェーの?」
「知りたい!」
「じゃあ――」
「あなたも普通に動いて! それで当てるから!」
わたしは枝を構えた。ぶんぶんと素振りをして、
「さぁーこいっ!」
じっと、銀時を見据える。
銀時はくるくるの短髪をわしゃわしゃと掻き毟った。
「しゃーねーなー」
ため息を吐いて、彼も枝を構える。
「じゃあ――来い!」