マヨネーズの量は半分くらい。使いかけである。
わたしはそのマヨネーズを取り、赤いふたを開ける。口の部分は予想通りのプリティ星マーク。
それをばくっとくわえた。持つ手に力を入れると、ぶちゅうっとマヨネーズが飛び出してくる。
口中に広がるまろやかな甘み。鼻に抜ける爽やかな酸味。喉を通るねっとり感がそのまま身体全体に広がっていく。次第に酸味は甘みに負け、甘みはねっとり感に負け。これ以上ないくらい贅沢に油を堪能する。
ずずずっと口をすぼめて吸って、吸って、吸って。
ぶふあぁっと、わたしはそれを完飲する。
「ご馳走様でしたぁっ!」
わたしは空になったマヨネーズの容器を、土方に投げつける。それを彼は、片手で受け取った。隣の近藤はあんぐりと口を開いて間抜けな面をしている。
身体がだるい。重い。すべての関節にねっとりと油がまとわりついている気さえする。胃の中には油しかなく、消化酵素は間違いなく死滅したことだろう。
それらを全て受け止めて、立ち上がった。
「さぁ、土方。表へ出なさい!」
わたしは、土方に指を突きつけた。
若干松やら植えられているシンプルな庭には、刀を持って立ち回るには充分な広さがあった。
軒下に集まるギャラリー多数。みんな真選組の黒い制服を着た男たちが、好奇心やら心配やらの目でわたしを見つめていた。
「おいおい、副長が女の子とやりあうなんてマジかよ」
「あんなひょろっちぃ子、刀なんて振れるのか?」
「しかも、すごくひもじそうな子じゃないか」
「まさか鬼の副長にこんな趣味があるとはなぁ、弱い者いじめはしない人かと思ってたんだけど」
「なぁ。ちょっと幻滅だよなぁ」
「う、る、さ、い、ぞ、おまえらぁー!」
野次を土方が一喝して。
土方は木刀を構え直す。
「本当に、いいんだな?」
「もちろん」
正直言えば、男用の木刀がちょっと重い。ずっと寝ていたから、筋肉の衰えがあるみたいだ。
あんまり長い間打ち合えないな、と覚悟を決めつつ、わたしも構える。
立ち会いは近藤だ。
「では、刀を相手の身体に当てた段階で、勝利とする。トシ、わかってるな?」
「あぁ、もちろん手加減するさ」
――舐められたものねぇ。
人の話を聞いていなかったのだろうか。わたしは奈落に必要とされている殺人兵器だったことを――
「よーいっ、はじめっ!」
近藤が手を振りおろしたと同時に。
わたしは駆けた。一瞬で土方の胸元に近づき、下から木刀を振り上げる。
「おっと」
土方が後ろに跳躍しながら、口角をあげたのが見えた。
わたしはもう一歩踏み込みながら、木刀を下す。が、それは相手の刃で流された。
「へぇ、お前さんけっこうやるじゃねぇか」
「喋ってると、舌噛むわよ」
わたしはまた一歩。木刀の柄をみぞおちに打ち込もうと踏み込む。
土方は高く跳躍した。わたしの頭上を飛び越え、振り向きざまに一閃してくる。
木刀同士が、ばしんっと打ち合った。反動を利用して回転しながら蹴りを出すも、かわされる。
土方の切っ先が目の前にあった。顔を逸らすと、びゅんっとした音が鼓膜を揺るがす。
わたしは木刀を手放した。
「なっ」
土方が目を見開くも、わたしは気にせず刀を手放した手を握り、そのこぶしをみぞおちに打ち込む。
土方は若干身を引いたのか、手ごたえはない。しかし、わたしは地面をはねる木刀を踵で蹴りあげ、頭上でそれを受け取り、そのまま打ちおろ――そうとした。
が、わたしはそのまま、うずくまる。
「き……ぎもちわるい……」
胃の中からこみあげてくるものに耐え切れず、わたしは吐いた。