わたしは走りながら、枝を大きく振りかぶる。
が、
「いーち、にー、さーん……」
カウントを口ぐさみながら、ひょいを身を逸らして避けられた。
「やぁ! やぁ!」
同じように、二回、三回と枝を振るも、ひょい、ひょいっとかわされて。
「なんで当たらないのー!」
「嘆いてるとあっという間だぞー、にじゅうにー、にじゅうさーん……」
「もー!」
ヤケクソ気味に、わたしは枝を腰に構えて突進し、そのまま枝を突き刺そうとした。
その時、ふと視界に入った銀時の目が、ぎらりと光ったように見えた。
――殺される!
家族が殺され、自分も殺されかけた時と同じような気迫を感じ、わたしは反射的に足を止める。と、勢いを相殺できず、前のめりにずべーっと転んでしまう。
「おい、大丈夫か?」
声をかけられ、顔をあげようとした時、気がついた。
少年の足もとには、枝で書いたような線が引かれていた。その線は、少年のまわりで円を作っている。その円の中では、少年は半歩しか動けないだろう、そんな広さで。
――ぎんとき、動いてないっ!
カァっと頭が熱くなる。
「あと何秒!」
怒鳴るように訊くと、少年は一瞬たじろいだ。
「お前、鼻すりむけて痛そう……」
「何秒っ!」
怒気を強めると、少年はまた髪を掻きむしって、
「あー、二十秒くらい?」
「わかった! 数えて!」
「でも……」
「数えなさいっ!」
渋々、二十からどんどん数を減らしている少年を確認して、わたしは立ち上がる。
あと、一撃が限度だろう。
わたしは深呼吸した。枝を振っても、半歩でも動かれれば、避けられてしまう。しかし、突進して突こうとしたら、あの気迫――つまりは、その攻撃手段だと、彼は本気を出すのだ。つまりは、本気を出さないと避けられないということ。
円の中から動く気がないのは、今更どうしようもない。
しかし、そこまで手加減されて負けるのは嫌だ!
狙うは相手の胸。小細工出来るほど、頭も、技術も足りない。
わたしは身を低く構え――走った。
「八、七……」
ギリギリまで武器は自分の近くで構えたまま、相手にぶつかる勢いで走る。
「六、五、四……」
「やぁぁぁぁあああああ!」
あと一歩、というとこで、腕を突きだした。
「三、二……」
ふと、手が軽くなる。なぜか、わたしの腕が上がっていた。
「一……」
枝が、わたしの持っていた枝が、空をくるくると飛んでいる。
銀時は枝を持って上げていた腕を下した。
「俺の勝ちだな」
どうやら、わたしの枝が、少年の手によって弾かれたらしい。
呆気なく、負けてしまったのだ。カランと、枝が転がり落ちる。
わたしは膝を付いた。
「負け……ちゃった……」
どうしよう。頭の中がその言葉でいっぱいになる。
先生に敵わない銀時にすら、敵わないのだ。あと経った二カ月で、わたしが先生に勝てる可能性なんて、どのくらいあるのだろうか。果たして、あるのだろうか。
途方に暮れていると、銀時がわたしに手を差し出す。
「じゃあ、俺のお願い、聞いてほしいんだけど?」
太陽を背中に浴びて、少年の天然パーマがキラキラ輝いてみえた。
「あと二カ月、俺の言うとおりに訓練してくれ。んで、一緒にアイツをぎゃふんと言わせてやろーぜ」
涙を目に浮かべているわたしに対して、銀時は意地悪くにやりと笑っていた。