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「なぁ、桜」
「ん?」
「これのどこが、
「あ、気づいちゃった?」
わたしはペロリと、舌を出す。
「わたしさ、こういった恋の話なんてしたことがなくってさ。何をどう話していいのか、わかんなくって」
「可愛くねェー」
「えー」
糸を針にくるくるっと巻きつけ、針を引き抜く。そして、根元を口で挟んで、八重歯で糸を切った。
「さて、チョーカーも無事に直ったし、ちょいとわたしも出かけてこようかな」
膝を叩いて立ち上がると、沖田が座ったまま、ぽけっとわたしのことを見上げていた。
「ん、どうした?」
「い……いや、なんでもねェよ」
顔を背ける沖田の耳が赤い。
「……はめて?」
わたしは再びしゃがみ、沖田に首輪を渡す。
「あぁ……自らはめてもらおうなんて、殊勝なことじゃねェーか」
そういつも通りカッコつけながらも、視線はわたしを捕えていない。
「それ、こないだも聞いたね」
「そだっけか?」
――可愛いなぁ。
口に出したら怒られるだろうから、言わないけれど。
代わりに小さく笑って、わたしは後ろを向き、少し伸びた髪を掻きあげた。
カチッと小さな音がする、今日は彼の手が首に触れることはなかった。
「ありがと――じゃあ、行ってくるね」
飛び上るように立つと、チリンと軽やかな音がする。
「オイ。どこ行くんだよ!」
慌てて立ち上がる沖田に、わたしは大きく手を広げた。
「総悟くん、ここは森よ!」
「それがなんだっつーんだ?」
「そして、蜂蜜がたくさんあるのよ!」
「そりゃ、近藤さんが身体に塗りたくれるくれェ、たくさんあるわな」
わたしはスラリと、刀を抜く。
そして、単語を三つ唱える。
「森で、蜂蜜、そして熊」
「……」
沖田の顔が青くなった。
「アンタ……まさか……」
「ちょいと修行の一環として、狩ってくる」
構えた刀身が、木々の木漏れ日でキラリと濡れたように光った。
「やめろ! 待て、さすがにヤバい! 著作権的にあの夢の国の黄色いクマさんを狩るのはヤバい!」
「だいじょーぶ! 今まで何体も狩ってきたから! 美味しいよ? 蜂蜜食べさせるとお肉が柔らかくなるの、知ってる?」
「だーかーら、待て! いいから待て! ヒロインが夢の国の住人殺害するとか、アンチすぎるから! 世の男の夢を壊すなっ!」
珍しく本気で慌てている沖田に、ニコリと微笑んで。
――こんなやりとりも、いつか誰かに話す時が、来るのかな?
そんなことを考える。
初めて話した昔話。
今まで、誰にも話したことがなかった昔話。話す必要がなかった思い出。
「ねぇ、また夜にでも、話の続き聞いてくれるかな?」
「あぁ? 聞くよ! むしろ今、聞くよ! だから、やめろ! 世界一有名なあのクマを狩るのはやめろ!」
ふふ、と笑って、刀を掲げた。
「森、蜂蜜、くまーっ!」
高々と宣言するわたしの声が木霊する。自分で聞いても、とても楽しそうな声だ。