夜になると、一気に寒くなって来る。
――さすがに、浴衣一枚じゃツライなぁ……。
と、チラリと沖田を見ると、
「着るか?」
差しだされるカブトムシの着ぐるみ。
「……いや、うん、大丈夫。心配ありがとう」
わたしは乾いた笑顔を返した。
そして、言われる前に言っておく。
「んでもって、
「ンだよォ……けっこう重いんだぜェ、これ」
「うん、総悟くんカッコいい!」
「嬉しくねェーなァ」
そんなことを話しながら、暗い森の中を歩いていると、木の上の方が小さく明かりが灯っている。
わたしは目を細めた。
「あれは……土方さんと山崎かな?」
「夜目効くなァ。俺にはさっぱりでサァ」
「うん、隠密行動とか、得意よ。これでも」
「でも、行動が派手ですぐにバレそうだな」
「それはどうだろうね」
沖田がカブトムシの着ぐるみを渡してくる。
「ちょいと行ってくらァ」
「おー、行ってらっしゃい」
片手でそれを受け取ると、ずしっとけっこうな重さがある。もう一方の手で持っている大量の肉と合わせると、とても歩ける重量ではない。
沖田は持っていたもう一つの
「うわぁぁぁぁぁああああああああ」
野太い絶叫が、森中に響く。
そして、体制を崩した土方が落ちた。
「あーもうっ!」
わたしは着ぐるみと肉を置いて、その場へと駆け寄る。
土方はひっくり返ったカブトムシのように、手足をバタバタしていた。
「で……出た……熊……熊の幽霊が……俺の名を呼んで……」
あまりに間抜けな鬼の副長に、わたしはくつくつと笑いながら、手を差しだした。
「土方さーん。アレ、総悟くんだよ?」
「は? 総悟?」
目を丸くしながらも手を掴んでくる土方を引き上げると、後ろでガサっと誰かが飛び下りた。
振り返るまでもない。
「土方さァん、うらめしやァー。とっとと三途の川渡ってこいコノヤロー」
「そそそ総悟いい加減にしろやこのヤロー!」
土方も落ち着きを取り戻したのか、熊の皮を纏った沖田に、罵声を浴びせた。
「土方さん、唾飛んでるんだけどー」
眉をしかめながら顔を拭うと、土方が一歩後ずさる。
「あ、すまねぇ……てか、お前ら今まで何してたんだ?」
「熊狩り」
「なに熊なんか狩って遊んで……て、熊狩り?」
唖然とする土方に、わたしは「うん」と頷いて、
「熊狩り。ほら、修行でよく狩るでしょ、熊。わたし頑張って一人で狩ったんだから。熊肉パーティしようよ。皮は売って、わたしのおこずかいにしていいかなぁ? やっぱり、真選組に徴収されちゃう?」
「いや、てめぇが狩ったんなら好きにしていいが……熊、倒してきたの? 刀で?」
「うん。刀で。早く手入れしなきゃいけなんだけど、お腹空いちゃったから、先にご飯食べたいな。お肉あっちにあるよ。手、疲れちゃったから運んでくれたら嬉しいな。もうバーベキュー始まってる? 火起こしてあるかな?」
「てめぇらホント、何してんの?」
土方は顔を上げて沖田に問いだす。沖田は頭に被った熊の顔の部分を少し上げた。
「いやぁ、ホント黄色いクマがこの森にいなくって良かったでサァ。著作権侵害だけじゃなく、キャラクターイメージの侵害かなんかでウォルトさんに訴えられるところだったぜ……」
「だからホントに何やってんのォォォオオ!」
「そーゆー土方さんは、何してたんでサァ?」
沖田が首を傾げると、土方が木々の先の灯りを指差した。
「あいつらを追い返そうと思ってな」