木々の隙間から覗き見て、
「何してるんだろうね」
簡単な感想を漏らした。
銀髪天パー坂田銀時率いる万事屋銀ちゃんの面々が、焚火のまわりでなにやら騒いでいるようだ。
神楽が銀時を殴った。負けじと銀時も殴りかえそうとするものの、新八が止めようとして、代わりに殴られる。罵られる。そして、新八もキレる。
「あーあー、喧嘩しちゃって……」
「いいんだ。もっと揉めろ。そして帰れ。とっとと諦めて帰れ」
隣で喧嘩の応援をしている土方に、わたしは首を傾げる。
「諦めるって、万事屋も瑠璃丸狙ってるの?」
土方は頷いた。
「瑠璃丸のことは知らないようだがな……どうしてだかは知らんが、ここらでカブトムシを探し回っているようだ。万が一にも、瑠璃丸を捕まえられてみろ。転売されるなら、まだいい方。もしも傷でも付けられようモンなら、真選組の存続にも関わる……」
――たかだかカブトムシ一匹で壮大な話ねぇ……。
口に出したら、怒られそうだけど。
その時、喧嘩している万事屋に、熊の毛皮を脱いだ沖田が、トコトコと近づいて行った。
――仲裁にでも入るのかしら?
一瞬でもそう考えたわたしが愚かである。
沖田は彼らの足もとに何かを転がした。
肉片である。
「よォ、万事屋。これァ、餞別でサァ。食いなよ」
「クソサド……なんアルか、これは」
警戒しながらも、神楽の口からは涎が垂れているようである。
そんな神楽を、沖田は明らかに見下していた。
「見りゃあ、分かるだろ。肉だよ、肉。デケーだろ。ちょいと食い切れねェーくれェの肉が手に入ってな。日頃世話になっているテメェらにも、遅いお歳暮というわけサ。遠慮せず、食ってくれよ」
そう言って、沖田はその肉を踏む。
「ほら、どーした? 鍋をひっくり返しちまって、腹減ってんだろ? 早く拾えよ。俺からの有り難いお恵みを拾わねェーのかィ? せっかくのバーベキュー楽しまないのかィ? あぁ?」
ぐりぐりと、ぐりぐりと。沖田は蔑みながら、肉を踏む。
そんな楽しそうな沖田の姿を見ながら、わたしは問う。
「ねー土方さん。どうして万事屋はお腹空かせてるの?」
「それは俺らがちょいと奴らに刺客を仕向けてだな。そいつが奴らをかき乱してくれたのさ」
「刺客?」
「蚊」
「か?」
「蚊。ちなみに準備は今も木の上で震えている山崎だ」
「蚊ねぇ……」
「あんな短時間でこんなに集めるなんざ、蚊取り名人だな、あいつは」
「……なかなかないスキルよね」
「あぁ、もう二度と使うことがないかもしれないスキルだな」
――馬鹿馬鹿しい。
淡々と話しながらも、わたしはゆっくりと山崎がいる木へと向かう。
見上げると、山崎が声を震わせながらも、
「さささ桜ちゃん! ダメだ、来ちゃダメだ! お化けがでるから! 熊のお化けが出て土方さん呪い殺されちゃったから!」
「死んでねーよ」
万事屋の様子を引き続き観察しながらも、ちゃんと否定する土方は置いておいて。
「山崎はやっぱり、山崎よねぇ」
苦笑しながら、わたしは刀を抜く。
血汚れが付いている。刃こぼれはしていないものの、出来れば早めに手入れしたい。
――もう一頑張りよろしく!
息を整える。どんなに太く、丈夫なものであっても、必ず筋と支点というものがある。その二つがどこにあるのかさえ見極めれば、あとは正確に刃を滑らすだけだ。
わたしは息を吐くと同時に、一閃した。
傾いて行く大樹は、メキメキと音を響かせて、狙い通りの方向へと倒れる。
悲鳴と、罵声と。
土煙のあとに、わたしはこう声をかけた。
「どいつもこいつも、食べ物を粗末にするんじゃありません」
わたしのお腹が可愛い悲鳴をあげる。