簡単に言えば、いかがわしい雑誌である。
男の人が女の人に覆い被っているような絵が全面に描かれている雑誌を広げて、銀時は席を立ち、教室の前に出る。
「ほらー、先生もよく見てくれよー。なぁー、これってナニしてるのー?」
「ちょっと銀時、授業中になんてものを……」
「なんてものってなんだよー。悪いことなの? こいつら悪いことしてんの?」
先生にその雑誌を見せようと、雑誌を高く掲げる銀時。
そんなやりとりをしていれば、子供の集団が騒ぎにならないわけもなく。
「おい、なにが書かれてるんだよー」
「僕にも見せてー」
「なんだよ、あ! おれこんなの父ちゃんが持ってるの見たことあるー」
先生と銀時のまわりに、わらわらと生徒が集まって騒ぎたてる。
わたしも、ごく自然にその輪の中に加わった。
「見せてー、わたしにも見せてー」
と、桃色髪の少女が手を伸ばした時である。
この集団の中での、唯一の女の子。こんなものを一番見せてはいけない子に注意が向いたのだろう。
先生はその子の顔を見て――目を見開いた。
その瞬間に、わたしは銀時の脇の下から、枝を突きだした。
音もなく、枝の先が先生の帯に当たる。
「や……やったぁぁぁぁああああああ!」
わたしは枝を放り投げて、歓喜の声をあげた。
「やったな、桜!」
銀時がわたしの
「ぎんときー、手染まっちゃうよ!」
「あ、ほんとだ」
黒く汚れた手を見て、顔をしかめる銀時を、わたしは指差してけらけらと笑う。
そんなわたしたちの姿を、先生は丸い目で見下ろして、
「ななな……何してるんですか、銀時、桜、そして……晋助?」
そして、視線を向けた先には、赤面している高杉が、桃色のカツラを投げ捨てていた。
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「それで、そのあと先生に呼び出されて説教食らうんだけど……」
「……桜」
しゃがんで薪を片付けながら、続きを話そうとするわたしの前に手を出して、沖田がわたしを制止させる。しかし、彼はわたしを見ずに、森の奥を見据えていた。
「ん、何かいるね」
小さな声でそう言って、わたしは腰の刀に手をかけた。
殺気。
紛れもないそれは、人の放つものよりも、もっと直接的に思えた。
わたしたちを食べようとするような気迫は、まさに弱肉強食。
「アンタはここにいろ」
沖田が刀を抜き、走りだそうと一歩前に出る。が、わたしは彼を手を掴んだ。
「一人で行くの? それはないんじゃない?」
勢いをつけて立ち上がると、チリンと首の鈴が鳴る。
「ペットはどこまでもご一緒しますよ、ご主人様」
「けっ、可愛いこと言ってくれるぜィ」
沖田はニヤリと笑い、唇を舐める。
「じゃあ、一緒に熱い夜といこうじゃねェかィ!」
月明かりが照らす道なき道を、二人で駆ける。
あの頃は、こんな日が来るなんて、想像もしていなかった。
ただ、強くなることに必死だった。
ただ、毎日を生きるのに必死だった。
なぜ、わたしが生きているのか――そんなことを考えないようにすることに、必死だった。
そんなわたしが、こんな日を過ごすことが出来るだなんて。
――夢みたいだな。夢じゃないといいな。
わたしは走りながら、くすりと笑った。