疲れ果てているわたしを余所に、神楽と沖田、二人の間では最終決戦のような緊迫感が漂う。
「来やがったな、チャイナ……来ると思ってたぜ、テメェはよォ……」
「これまでの屈辱、今ここで晴らすアル!」
ニヒルに笑う沖田に対して、神楽は勢いよく、輝く何かを構えた。
「行けっ! さだはる十八号っ!」
そして、ぺしっと地面に叩きつける。
――メンコや花札じゃあるまいし……。
それは、黄金だった。
こぶしくらいの大きさで、陽を受けてキラキラと眩しいほどに輝くそれは、まるで金の塊のようで。
神楽は、それをさだはる十八号と呼ぶ。
「ふふふ……どうアルか? この輝きに言葉も出ないアルか?」
不敵に笑っていた。
言葉も出ない。あー、言葉も出ない。
疲れているのだ。
昨日からずっと森の中。沖田の無駄なカブトムシ狩りに付き合い、訓練として熊を狩り、大樹をかち割り、巨大カブトムシ狩りを夜間もぶっ通しでこなしてきたのだ。さらに言うならば、その間にも緻密な縫物をし、熊を解体し、自分でバーベキューの準備もしているのだ。
そのあとで、カブトムシ合戦に付き合えというらしい。
正直言おう。神楽の呼ぶ、さだはる十八号は、瑠璃丸である。真選組総出で、税金の無駄遣いをして探していたカブトムシがそれである。
その、瑠璃丸対謎の巨大生物。
字面は、それこそ男のロマンがそそられる代物かもしれない。
なんか、角からビームとか、超時空転移とか、無重力核爆弾とか、そんな架空言語が飛び交う熱い物語が繰り広げられるかもしれない。
だけど。
だけど。
「なんだい、そのちぃせェーのは。そんなの、このサド丸二十七号が踏んづけて終わっちまうぜィ?」
そんな熱い物語なんて、わたしにはいらないのだ。
なにせ、わたしは眠いのだから。
なにせ、わたしは疲れているのだから。
下の方で、なんやら男たちが騒ぐ声がする。
まぁ、騒ぐだろうよ。国宝級の瑠璃丸が、謎の生物にぺひゃんこにされそうになっているんだから。
しかも、謎の生物を指揮するのは、真選組の一番隊隊長だし。瑠璃丸をこんな目に合わせているの、万事屋の看板娘だし。
瑠璃丸になにかあれば、将軍にぺひゃんこにされるのは、一体どちらの組織だろうか。
それを避けるために犬と猿が共闘しているようだが、そんなのはわたしにはどうでもいいのだ。
「桜! 頼む、瑠璃丸を――!」
崖をよじ登って来る兄に、助けを求められたって、どうでもいいのだ。
だって、わたしは眠いだから。
だって、わたしは疲れているのだから。
「……いい加減にしなさいよね」
だから、わたしは刀を抜く。同時に跳び上がって、巨大カブトムシの角の上に、着地した。
刀の切っ先を、悠然と腕を構えている沖田の顎に、ちょんちょんと当てる。
「ねぇ、ぼく? わたしもう眠いからさ、さっさとぼくも寝てくれないかな?」
「アンタ、一瞬で――」
沖田が目を見開くのと同時に、わたしは剣を薙ぐ。当然、沖田は避けようとするが、カブトムシの表面はぬめりがあるのか、バランスを崩して、カブトムシから落ちて行った。どうも頭から落ちたようで、カブトムシの足もとでぐったりと倒れている。
わたしは即座にバク宙で神楽を止めようとして――空中で逆さに見た。
何の拍子だかは知らないが、銀髪のだらしのない侍が、黄金のカブトムシを踏んでいた。