ずずずとお白湯を啜る。お茶碗にそそがれた乳白色の緩いおかゆからは、お出汁のいい匂いがしていた。木のスプーンで、それを一口。身体に沁みわたる優しい栄養。
これよ、これ。わたしはこういうのを求めていたのよ。長い眠りについていた奴が、いきなり固いスルメだマヨネーズだわ、食べちゃいけないよね。普通。
色々なもので汚れた身体も、洗わせてもらった。肌も髪も艶がもどった気がする。身も心もほかほかだ。
そして、今この部屋にはわたし一人。はしたないとわかっていながらも、足を伸ばす。外から差し込む光も橙色で風情がある。
まぁ、ふすまの向こうには監視がおり、その会話がまる聴こえなのだけど。
「どうやら、決闘の直前に副長がマヨネーズ一本まるまる飲ませたらしいぜ」
「まじで? 副長そこまでして勝ちたかったの?」
「てか、そういうプレイがしたかったんじゃね? けっこうコアそうじゃん、副長」
「あーわかるわかる。妙なこだわり強いもんなぁ」
「て、め、え、ら……そんなに腹ぁ切りたいなら今すぐ介錯してやろうか、え?」
「ふ、ふくちょぉー!」
「ったく」
舌打ちとともに、ふすまが開いた。
副長こと、土方が黒い服のようなものを持って入ってくる。わたしはとりあえず、足を戻した。
土方は斜めを向いて、
「あの……すまなかったな」
そう謝ってくる。
わたしはお白湯をすすった。何について謝っているのだろうと考えてると、土方は続ける。
「近藤さんにも謝ってこい言われてな……なんだ、その……仮にも病み上がり……でいいのか? そんな女にいきなりマヨネーズ飲んだ後運動させるのは……その、年上としても止めなきゃいけなかったかと。まぁ、言い出したのはお前さんだが……」
そうか。人前で口からきらきらしたものを出してしまったことで、わたしが心を痛ませているのではないかと心配しているのか。
「わたしさ、いくつに見える?」
訊いてから、おかゆをまた一口。すぐに喉を通って行くけれど、それなりによく噛んでいると、土方はいきなりなんだと言いたそうな顔で答える。
「十七、八くらいだろ?」
「残念。二十三。たぶん」
「多分?」
「何年寝てたか、いまひとつわかんないからね。けど、攘夷戦争終わったの、五年くらい前なんでしょ? さっき食事持ってきてくれたおばさんに聞いたんだけどさ。戦争のときが十八だったから、だから今は二十三歳くらい。けど、年取ってなく見えるから、まぁ高杉がなんかしてくれちゃったみたいね」
わたしはお茶碗を置いて、土方を見る。
「だからね、ちゃんと成人してるのよ。もういい大人がさ、勝手にマヨネーズ飲んで動いてってだけなんだから、あなたが気にすることじゃないわよ。自業自得」
「お……おう」
「そういうわけでね、自分で責任取りたいから、あの少年も助けに行きたいのだけど?」
呆気にとられたような土方は、仕切りなおすかのように咳払いをした。
そして、持っていたものを投げてくる。わたしはそれを広げてみた。彼らと着ているものと同じ、真選組の制服である。
「それ着て、近藤さんと一緒に城に行って来い。俺らは城の外で待機しておくから、何かあれば、すぐに逃げて来い。自分の身くらい、守れるだろう?」
問われて、わたしは首を縦に振る。制服はちゃんと少し小さめで、わたしが着てもぶかぶかにはならないだろう。しかし、ボタンの重ねが男性用だ。
「真選組に、女はいないの?」
「当たり前だろうが。だから、胸にはさらしでも巻いて、男の振り……総悟のふりしてもらう。役職もない奴を連れていくわけにはいかないしな。出来るか?」
あの少年の姿を思い返す。白い肌。大きな目。細い髪。たしかに彼も女の子のようだった。身長もわたしより彼の方が若干高いものの、彼も線が細かったから、なんとか誤魔化せるだろう。
あと、一番ちがうところは――
「土方さん、なんか切るものない?」
「あぁ? これしかねぇが……」
土方が腰にさげた刀をくいっと動かす。わたしは立ち上がり、何も言わず、その刀を抜かせてもらった。
「おいっ!」
土方が制止しようとするが、それよりも早く。
わたしは自分の長い髪を持ち上げ、逆手で持ったその刀でなるべく根元のあたりで髪を切る。
さくっとした切れ味が、気持ちがよかった。薄桃色の毛束を、放り投げる。
夕陽の橙に反射して、きらきらと黄金に輝いて見えた。
「改めて、わたしは桜と言います。よろしくね、副長」
わたしは土方に向かって、笑みを向けた。
ようやく沖田救出に向かいます。将軍も登場予定。
ひと段落つくまではオリジナル話が続きますが、そのあとは原作に沿った話も入れていく予定です。
話のテンポが遅いでしょうか?
色々悩みながら書いていますが、お楽しみいただけたら幸いです。