――あ、どーでもいい。
着地すると、その侍と目が合う。
「あの……どうしよ、桜ちゃん」
「知らないわよ」
とりあえず、うるさそうなその兄を、刀の腹で殴っておく。やはり、打ちどころが悪かったようで、伸びたようにその場に倒れた。
振り返ると、神楽が怯えた眼差しでこちらを見ている。
――どうでもいいな。
そう判断して、わたしはその場に倒れ込んだ。
そよぐ風が心地よく、草の香りが懐かしい。
ふと、巨大カブトムシと目が合ったような気がするので、睨みを飛ばしてから。
わたしは、自然と目を閉じていた。
☆★☆★☆★☆
先生の私室に呼び出されたわたしたちに、反省の色はなかった。
それはそうである。ちょっと授業妨害したくらいの罪が、この快感に勝るわけがない。
「あぁ……銀時と桜が近頃よく一緒にいたのは、わかっていたのですが……まさか晋助まで一緒だったとは、思ってもいませんでしたよ」
ずっと顔が綻んでいるわたしと銀時とは違い、高杉はずっと唇を噛みしめていた。
そんな高杉の肩を抱き、銀時がにたりと笑う。
「そーでもねぇーだろ。好きな女のためなら、いくらでも恥を掻くのが男ってもんさ」
「銀時……初恋もまだな人が、どの口を叩いてるんですか」
ため息混じりにそう言われても、銀時は不敵に笑っていて。
――初恋か。
わたしは隣で、そんな銀時の顔を見る。
この人は、どうしてわたしのためにここまでしてくれたのだろうか。
先生に目に物を見せてやるため、もあるかもしれない。
けど、かれこれ一カ月以上、わたしに付きっきりになるほどのことだったろうか。
そんなことを考えていると、
「桜」
「は、はい!」
先生に名を呼ばれて、わたしは慌てて前を向いた。先生は真面目な顔で訊いてくる。
「そこまでして、剣の道を歩みたいですか?」
真剣な顔で、わかりきったことを訊いてきて。
「……はい」
わたしは表情を引き締めて、静かに頷く。
すると、先生は大きくため息をつき、「やれやれ」と頭を掻いた。
「仕方ないですね……では、今まで通り、朝の基礎訓練は続けなさい。午後の稽古も一緒にやるのはもちろんですが、皆に追いつくために、その後も補習を行いますが、銀時も、異論はないですね?」
「はいっ!」
わたしは嬉々として返事をするが、銀時は不服気に唇を尖らせた。
「どーして俺も一緒なんだよ?」
「兄として、責任を取るのは当然のことでしょう?」
「は? 俺、こいつと血の繋がりも何にもねぇーけど……」
顔をしかめながら、銀時はこちらを向いてくる。
きっと、同意を求めているのだろう。
けれど、
――寂しい。
胸のどこかにそう突っかかり、すぐに返事が出来ないでいると、
「ここのところのあなたたちは、仲睦まじい兄妹のようでしたが? いいと思いますよ。実際二人とも、私の子供みたいなものなんですから。世間の兄妹だって、血の繋がりなんて、あってないようなものです。血が繋がっているから兄妹なのではなく、一緒に育ってきたから兄妹になるのではないですか?」
「はぁ……そーゆーもんかね……」
「そういうものです」
銀時はぼりぼりと頭を掻いて、
「ま、いっか」
興味なさげに、小さくそう認めた。
――きょうだい?
わたしはその実感のないまま、呼んでみる。
「おにい……ちゃん?」
すると、銀時の顔が渋くなった。
「なんか変な感じだな」
「じきに慣れますよ」
くすくすと先生はそう笑うと、今度は高杉の方を向いた。
「ところで、晋助のそのカツラは、どこで仕入れたんですか? こんな田舎町じゃ売っていないし、そもそも、あなたたちにそんなお金は、ないですよね?」
それに、銀時が即答する。
「桂のヤツが、今までの小遣いでネット通販したんだ。ちなみに、その雑誌もそれで買ったんだぜ」