女ならば一度は可愛い弟が欲しいと思うもの①
それは、唐突なことだった。
――近藤さんが美人を連れ込んでいる!
白昼堂々、色白でショートカットが似合う細身の女性を横にはびらせ、近藤は意気揚々と屯所内を歩いていた。後ろ姿でその顔面を拝めないのが、残念なような、にやついた顔を見ないで済んで、よかったような。
――いや、待てよ?
わたしはちょっと再考する。
隣の女性だって、後ろ姿が美人なだけであって、顔が人ですらない可能性がある。だって、連れているのが、あの近藤なのだ。人面魚ならぬ、ゴリラ顔人間という
その二人だが一人と一匹だかが、客間へと入っていく。
「ふむ」
その後の行動で、悩むことは何もなかった。
わたしは足音をひそませながら、その部屋へと近づく。静かに膝をついて、ふすまを少しだけ開けた。
そして、驚愕する。
――ちゃんと人間だ!
近藤が連れていた女性は、ちゃんと人間の顔をしていた。しかも、美女だった。慎ましく、大人しいといった印象の顔つきだが、まつげが長いのか、地味な印象は受けなかった。肌や髪の色素の薄さから薄幸な感じがするが、それがまた彼女の美しさを引き立てているようだ。
そんな美女を前にして、近藤は嬉しそうに笑っていた。
「いやはやミツバ殿、相変わらず美しい! いや、さらに綺麗になったと言ったほうが良かったかな?」
「あらあら、近藤さんは口が上手になったみたいですね」
ミツバというらしい、その美女は、口に手で隠して笑う。
その気品のある素振りに、わたしは小首を傾げた。
なぜか、違和感を覚えるのだ。
――美人に気品があって、当然のはずなのに……。
そんな時、後ろから声かけてくるのは、やっぱり彼だった。
「コソコソと何してるんでィ?」
「あ、総悟くん」
振り返って、ハッとする。
違和感の正体は、彼が原因なのだ。
「美少年が残念ドSなことに慣れちゃうと、テンプレ通りの美女を受け入れられない時ってない?」
「何を言ってんのかサッパリわからねェが、頼みがある」
そう言う沖田の顔が、いつになく真剣だった。
「覗くのは構わねェ。どうせやめろ言っても、聞かないことぐれェ、わかってる」
言われた通りなのだが、どうにも釈然としないことに眉をしかめるが、
「その代わり、今だけは笑わないでくれ」
そう真面目に言われると、とりあえずコクリと頷くしかなかった。
沖田がふすまを開けようとするので、少し退く。
すると、
「姉上ぇ!」
甘ったれた声音だった。
発声源を一瞬疑ったが、その声は紛れもなく、沖田であり、
「姉上、お久しぶりです! 遠路はるばる長旅、お疲れ様でした!」
いつになくハキハキと、いつになく礼儀正しく。
「総ちゃん、久しぶりね」
「はい、ずっとこの日を、楽しみにしてました!」
美女の前で膝をついて、深々と頭を下げる。その頭を、美女は穏やかな表情で撫でていた。
普段なら、すぐにその手を振り払っていそうである。
しかし、いつまでも、いつまでも、そのまま撫でられ続けているのだ。
そして、そんな様子を嬉しそうに眺めて、近藤は言う。
「総悟、今日は休みにしてやるから、ミツバ殿に江戸を案内してやってくれ」
「いいんですかィ?」
顔を上げた沖田の表情が、キラキラしていた。
「あぁ。姉孝行、存分にして来い!」
「ありがとうございます! 姉上、行きましょう!」
すぐさま立ち上がると、沖田は美女の手を引いて、客間を飛び出していく。
「姉上、行きたいところはありますか? 姉上の行きたいところどこだって案内しますよ!」
嬉しそうなその顔は、わたしのことなんか一視もくれず。
わたしはそろりとふすまを開けると、腕を組んでいる近藤に一言、こう聞いた。
「あれ、なに?」