この江戸、歌舞伎町という町には、あまり喫茶店がないということが最近知ったことである。
お団子屋や、あんみつ屋ならちょこちょこあるものの、パフェやサンデーが置いてあるような場所は、ここしかないようである。攘夷戦争以降、文化の移り変わりが激しいらしいが、こういったお店が出来たことは、
そんなお店の中で、
「ねーねー山崎。どうしてアフロなの?」
わたしはソファ席に身をひそめながら、小声で隣の山崎に訊いた。
山崎はいつもの黒い制服姿で、頭に巨大アフロのカツラを被っていた。夏もとうに終わり、木々が黄色や赤く染めている時期なのだが、見た感じは暑苦しい。
なぜ暑いのか。それは、わたしも今頭が蒸れて暑いのだ。認めたくないものの、尾行するなら必需品と山崎に言われて、わたしも同じアフロを被っているからだ。
「尾行は身バレしないことが一番大事だからね。この姿見たら、アフロに目がいって顔まで覚えられないものなんだよ」
――尾行がバレないように地味な格好するのが一番だと思うけどね。
得意げに説明する山崎の顔を立ててやるために、それは口に出さないでおく。
ともあれ、わたしたちは尾行をしていた。
ターゲットは、美男美女のカップル――のようにも見える、姉弟。
真選組一番隊隊長、沖田総悟の姉である、沖田ミツバが婚約を期に上京したというのだ。
両親を早くに亡くした姉弟は、手と手を取り合い仲睦まじく、助けあって生きてきたのだという。母親代わりでもあったミツバに対する沖田総悟の姉愛は、近藤らと上京してから顔を合わせていなかったことも併せて、尋常ではないようである。
と、胸中、解説してみるものの、
「あれが、総悟くんねぇ……」
呟いて、仕切りの上からちょこっと目を覗かせる。
少年の目じりは、気の抜けたように垂れ下がっていて。口の締まりもなく、へらへらと笑っていた。
とろけたように、嬉しそうで。
まるで、甘いパフェのように幸せそうで。
「お待たせしました! チョコバナナパルフェでございます」
「あ、どーも」
「どーもじゃないよ! なに一人パフェなんか頼んでるの!」
半分に切られたバナナがにょきっと乗っているパフェを持ってきたウエイトレスに会釈したわたしを、山崎が怒鳴って来る。
わたしは首を傾げた。
「え? だって喫茶店に入ったら、何か注文しないとでしょ?」
「そーだけどね! けど、目立たないコーヒーとか、もっと地味なメニューあるよね?」
何か無駄に説得してこようとしているが、わたしはきっぱりと断言した。
「やだ。パフェ食べたい!」
「桜ちゃーんっ!」
その時だ。横から殺気がした。
振り向けば、バズーカを構えてくる一番隊隊長。
「アフロは永遠にパフェ地獄にでも落ちてろ」
冷徹にそう言いのけて、容赦なく弾丸が飛んできた。
「嘘でしょ?」
隣で慌てふためく山崎は置いておいて、わたしは呟きやいた。考える前に、わたしの手は刀に掛けられていた。
抜刀し、そのまま弾丸を真っ二つに斬る。
――嘘でしょ?
誰かに訊きたかった。だけど、答えてくれるのは、背後の爆音だけだった。
店内に硝煙が充満し、その向こうで女の声が聴こえる。
「総ちゃん、いきなりどうしたの?」
「すいません、姉上。ちょっとアフロの害虫がいたもので」
「あらあら。都会でも虫はいるのねぇ」
「むしろ、江戸の方が変な虫が多いですよ。姉上も気を付けてくださいね」
「そうね。ありがとう、総ちゃん」