しかし、それに気づいても後の祭りである。
咳が治まると、ミツバは何事もなかったかのように、またニコリと笑った。
「まぁ、確かに見た目はよくないかもしれないから……私が先に食べてみせますね」
そう言って、ミツバは自分のパフェに一際たくさんのタバスコをかけていく。そして、さも当然とばかりに、それを一口、また一口と美味しそうに食べていた。
わたしは、ごくりと生唾を呑み込む。
――やべぇ……どうやって、どうやってかわせばいい?
窮地である。「さぁ」と笑顔で次勧められたら、なんて言ってかわせばいいか、全力で頭を回転させる。
ミツバは水も飲まずに、そのパフェを半分くらい食べると、無言でわたしのパフェを手前に寄せた。
容赦なく、わたしのパフェが赤い液体に侵略されていく。
「さぁ、どうぞ。坂田さんも、早く食べないと溶けてしまいますよ?」
「あ、でも俺、パフェは甘い方が好き――」
「ぐはぁぁぁあ!」
ミツバが吐血した。
口から真っ赤なモノを吐いて、またゴホゴホとさっきよりも苦しそうな咳をする。
「ぜひに食べさせていただきまぁすっ!」
銀時は自棄とばかりにパフェを掻き込んだ時だ。
カバディかばでぃカバディかばでぃ。
淡々としたメロディが店内に響く。
銀時の顔が真っ赤に染まり、そのメロディが一旦止んだかと思えば。
カバディかばでぃカバディかばでぃ。
また同じようにカバディが響く。
銀時が口から赤いものを発射させたと同時に、
「あ、これ山崎の携帯じゃん」
わたしは華麗にソファの後ろへと跳びあがり、憐れな銀時を飛び越えて通路へ着地する。足取り軽く倒れる山崎の元へ向かい、ポケットに入っていた携帯を取り出した。
ディスプレイには、『ふくちょー』と書かれている。
――これ、土方さんに見られたら怒られるんじゃないかな?
そんなことを思いながら、迷うことなく通信ボタンを押した。
『てっめぇ山崎、どこほっつき歩いてやがるっ! 十五時に南埠頭だ言ってあっただろバカヤロー!』
「へぇ……じゃあ、山崎は赤いパルフェ吐血事件に巻き込まれて気絶しちゃったから、代わりにわたし行くね」
怒る土方に、明るい声音で返答しつつ、わたしは軽い、あくまで軽い
「ふべっ」
そんな呻き声なんて、わたしの耳には入らない。
わたしはその携帯を袖にしまいながら、神妙な面持ちで沖田たちの元へと戻る。
涙や鼻水でいっぱいの銀時と、不思議そうな顔で首を傾げているミツバと、変わらぬ無表情の沖田。
彼らに、わたしは申し訳なさそうに伝えた。
「せっかくの機会に、大変恐縮ですがぁ、副長から大事な用事を言い渡されてしまったので、今日はこれで失礼させていただきまぁーす!」
「オイ、なんでそんなに嬉しそうなんだ?」
半眼の沖田にそう問われて、わたしは肩をすくめた。
「そんなことないよぉー、すごく残念! じゃあミツバさん、またの機会に」
これ以上沖田に睨まれないために、足早に立ち去ろうとするわたしを、
「……桜さん!」
ミツバが呼びとめる。振り向くと、彼女は立ち上がっていた。
「その……副長さんは……お元気ですか……?」
俯くその顔は、恥ずかしそうに、赤く染まっていて。
――お?
内心ニヤリと笑いながらも、わたしはごく普通に笑った。
「今日もマヨネーズ啜りながら、お仕事に励んでますよ」
すると、ミツバは嬉しそうに、くすりと笑い返してきた。
「じゃあ、そのマヨラーさんに、これ差し入れてくれませんか?」