それでは、本編どうぞ
突然現れたその巨大ヤツメウナギは、俺たちを見るなり、口を大きく開けた。
「いいいいいやあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
もちろんフィーネはその姿を見た瞬間、俺の後ろに隠れる、を通り越して失神してしまった。
無理もない。地球にも存在するヤツメウナギの巨大バージョンだが、あれは本当に駄目だ。
面白半分で画像を検索したことがあるが、軽い、いや、とても重大なトラウマを植えつけられたものだ。
「わ、私、これは本当に駄目、です」
なんとか意識は保てたらしいソフィも、目を手で覆い、俺の背中にはりついた。
分かる。その気持ちは本当にわかる。俺だって、隠れる場所があったら隠れたい。
「ミ、ミナト。あれ、キミにお願いできないかい……?」
どうやら女性陣は全滅らしい。
これはまずい。異常にまずい。あの怪物中の怪物と戦うにあたって、俺だけじゃ戦力もメンタリティも絶対に足りない。
逃げようと後ろを見るが、入ってきた扉は消えていて、もはや八方ふさがりだった。
「絶望しかない」
もう運命に身をゆだねようと思い、そう呟いた時だった。
『なにゆえ絶望しておるのじゃ?』
声がした。それも、絶対に目を向けたくないようなものから、知性溢れる声がした。
この怪物の声は、他のモンスターの声とは違い、クリスたちにも聞こえるようだった。
「しゃ、しゃべったね」
「え、ええ、しゃべりましたね」
なんでだよ! と叫びたくなった俺の気持ちを、どうか理解してほしい。
なぜ、カエルやサソリみたいな、まだ気持ち悪さレベルの低いあいつらじゃなくて、この化け物がしゃべれるのだろう。しかも、人間の言葉で。
ダンジョンのボスともなれば、そのくらいの事は出来て当然、的なノリなんだろうか。
そうだとしたら、この世界を作った神をぶん殴りたい。
『聞きたるや? といふか、なるでこなたを見みざるなる。我はそちに話したるなりよ』
「い、いえ。あはは」
もうあの歯は隠してくれたのだろうか?
と、淡い期待を胸に恐る恐る見上げるけれど、まだあった。例の物が、まだあった。
あぶない、めまいがした。
『質問に答へよ。それとも食われたいのか?』
「い、いや、そんな歯で食べられたいわけないだろ!」
あの歯で肉をえぐられるところを想像しただけで、鳥肌が直立不動だ。
「……う、うぅ。あれ? ここは?」
「おう、目が覚めたか?」
どう攻めるか考えあぐねていると、どうやらフィーネが目を覚ましたようだった。
「あの化け物……夢だったのかしら」
「おいフィーネ! 今振り向いちゃだめだ!」
「え? い、い、いやあああ!」
遅かった。本日二度目の気絶をしたフィーネ。
今起きた意味がない。
「ねえねえミナト。このボスモンスター、なんとか説得できないかな? あたしは目を向けれないよ」
「すみません、ミナトさん。私もあれはだめなので、お願いします」
まあ、まさか女子にあいつの相手は頼めないしなぁ。
仕方ないか。
『そち。我の話が聞こえていたのか? 何に絶望したというのだ?』
「お前を倒さないとダンジョンはクリアできないだろ? 無理な気がして絶望しただけだよ」
『ほっほっほ。なるなり。さることを気にしておったのか。我を倒さずともこの迷宮を踏破する方法ならばあり』
「マジで! 教えて!」
『簡単なり。我の作りし試練に成功しせばよきのみなり』
要するに、ゲームにクリアしたらいいってことだな。
「やってみる。いいよな、二人とも」
「もちろん。あの怪物と戦うこと以外だったら何でも手伝うよ」
「わ、私も手伝います」
うん。いい返事だ。
『では初めに、この絡まりあいし二つの輪を外したまえ』
どんな難題が提示されるかと身構えていたが、現れたのは、三つの鉄の塊。というか知恵の輪だった。
地球で暇つぶしに知恵の輪を百以上クリアした俺だからわかる。
この知恵の輪のレベルはかなりのものだ。
「よし、やってやる」
「あたし、こういうパズルゲームは苦手なんだけどな」
「頑張ります!」
知恵の輪を始めて数十分。フィーネが起きて失神してを二十回ほど繰り返した時、ついにカチャッと鉄の輪同士が外れた。
「よっしゃ、できた!」
「私もできました!」
「……う、ぐぬぬ」
どうやら盗賊さんはまだクリアできていないようだった。
「おい、代わろうか?」
「じゃ、じゃあ……」
『手伝うでないぞ』
ヤツメウナギの鋭い声に俺たちはびくっと肩を震わせた。
『試練の意味がないならざるや』
そこからクリスがクリアするまで、時間にして、もといフィーネにして五十フィーネくらいかかった。
「で、できたよ!」
息も絶え絶えになりながら、クリスが知恵の輪の終了を宣言した。
『うむ、いとよろし。次の試練は、この紙に記されし線のうち、正しき線のみをたどりて、目的地まで進む、といふものなり』
これは迷路だよな? 俺たちの前に現れたのは、一枚の大きな紙。俺の見知った迷路とは多少違うところはあるけど、それは世界の差、というものだろう。
「ていうか、レトロなゲームばっかだな」
その迷路もとても難しく、三人で協力しても約百十フィーネ程かかった。
『ふむ。では次は……』
ヤツメウナギの出すゲームを三十個くらいクリアしただろうか。
その時、急にヤツメウナギが口を開いた。
『これが最後なり。最後の試練では、我とこの盤の上で駒を、打ち合ひ、取り合ひ、最後に一番奥の駒をとりし方が勝ち、といふ遊戯を行ふ』
最後のゲームは将棋だった。
もちろん駒の名前は違うが、ルールは将棋そのものだった。
将棋は大得意だ。俺一人でもこいつに勝てる。
『では、始む』
一言で言うなら、ウナギは弱かった。
どれくらい弱かったかというと、将棋初心者でも勝てるくらいには弱かった。
というか、駒の動かし方すら覚えていないらしく、対局中、ルールが書いてある巻物的なものを何度も読み返していた。
「はい、王手」
『負けき……』
最後の試合も、無事に勝つことができた。
なんでこいつは、自分が苦手なこのゲームで最後にしたのだろう。
「そちよ。ミナト、と言ひしや? なかなかに楽しかったゆえ、また来るがよい」
いつの間にか、ヤツメウナギは人間の姿になっていた。いわゆる、擬人化というやつだろうか。擬人化したウナギは、日本の平安時代の姫のような姿だった。
かなりの変化だったが、人間の言葉を話した時よりも驚きはなかった。
どちらかというと、あの歯を見なくて良かったくらいだ。
「ああ、その姿でいてくれるなら、いつでもくる。ていうか、お前の知らないゲームもいくつか教えてやるよ」
「本当か!」
いや、別に人間の姿が好きなタイプ、とかそういう意味ではない。あの歯さえ見せなければ、こいつはなかなか楽しいやつだと思った。
それに、将棋で負けた時、とても悔しそうだった。
あれは本当にゲームが好きじゃないとできない目だ。
レトロゲーム好き仲間として、こいつとはこれからも仲良くしていきたい。
「じゃあな。またくるよ」
「あ、あたしは来るかわからない、かな?」
「わ、私もです」
「う、うぅ。もういない?」
今回全く役に立たなかったフィーネが目を覚ました。
「うむ、そちは眠ってばかりおるな」
「いやああああ!」
もはや声だけでもだめらしい。
結局フィーネは街まで担いでいかなければならなかった。
いかがでしたか?
今回のぐだぐだ加減はいつもの比じゃない気がします。
いつかきっと手直しが入ると思います。……たぶん
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