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◇ギルガメッシュ◇
イシュタル様がキシュのものたちに3日前に連れ去られたという報告を聞いた俺はすぐさま踵を返して駆け出した。
「キシュ」とはバビロンの南にあるウルクに及ばないながらも大きな町である。
この人の少ない紀元前の世界では自分たちの力だけで生き残り、町を築いている時点でなかなかそのキシュに住む者たちの生存能力あるいは戦闘能力が優れていることが分かる。
しかし、彼らはウルクに好意的ではなかったとはいえ神々の加護が大きいウルクに攻め込み、あまつさえ女神を攫うなどという暴挙に出るとは思えなかった。しかもそれを成功させるとは........
........俺のせいか。イシュタル様の随獣であるライオンさんを連れて行った俺の........
「くそっ!どうして俺がいないときに!タイミング悪すぎだろ!」
ーーいや、待てよ........タイミングが良すぎるな。
まるで俺とライオンさんがいないのを知っていたようなタイミングだ。
なぜキシュに住む者たちが俺の不在を知っている?
それに、イシュタル様は戦いを司る女神様だが本人の戦闘能力はそこまで高くない。しかし、人間程度なら女神の権能で撃退出来ると思う。
ドラゴンに森の神フンババ、女神の誘拐........どうにも陰謀っぽい気配を感じる。あの『黒いローブの人影』の........
そんなことを考えながら疾走する俺に並ぶ気配があった。ライオンさんだ。そうかライオンさんは主人を攫われたんだ、助けに行きたいに決まっている。
というか、随分と間抜けな光景だと思う。黄金の鎧を纏ったボロボロの青年と立派な毛並みをグチャグチャに乱したライオンが大地を一心不乱に駆け抜ける。でも、本当に気がつけば勝手に身体が動き出していたんだ。
どうやら、俺は予想以上にイシュタル様のことが大事だったらしい。
ライオンさんが俺の前を走り始めた。背中に乗れってことだろう。
俺は重さを減らすために上半身の鎧をパージして「王の財宝」の中に仕舞い、その背中にまたがった。
ーーふと、考えた。イシュタル様を攫った目的は?
「っ!ライオンさん急いで!」
古代の男が女を攫う理由?そんなの決まってるじゃないか!
「くそっ!ライオンさん!空中に浮いてもらえますか?」
その光景を想像するだけで今まで感じたことのないほどの憎悪がこみ上げてきた。無意識のうちに唇を噛んでしまう。
ライオンさんの消耗は回復していないので空中を進む速度も遅い。しかし、それでも十分だ。
俺は風を呼ぶ双剣を呼び出し、全力で後方に向けて風を噴射する。
ジェット機ように飛行する俺とライオンさん。
キシュまではおよそ3日かかるがこの速度なら1日かからずに到着できるはず。
「っ!失ってから気づく大事なものとか勘弁しろよ!........」
俺は張り裂けそうな胸の痛みを感じながら双剣に魔力を流し続けた。
◇イシュタル◇
それはギルガメッシュの無事を祈りの間で祈っている時に突然現れた。
ウルクの城壁の外から聞こえる野太い声。そして、何かがぶつかる音。
急いで外に出てみると、神殿兵たちが慌ただしく動いていた。
「何事!」
近くを通った神殿兵を捕まえて尋ねると、
「それが、キシュの者たちが、イシュタル様を寄越せと訳の分からないことを叫びながらウルクに襲い掛かってきたのです。」
「なにを馬鹿なことを........」
私を寄越せ?たくましい男は嫌いじゃないが、これは流石にお断りだ。
「さっさと追い払いなさい」
威勢のいい返事をして去って行く神殿兵。私は踵を返して先程の祈りの間に戻ろうとする。
「追い払う?酷いなわざわざキシュからやって来たのだぞ?性愛を司る女神なら全員を労って相手をしてやるものだろう?」
突然後ろから声が聞こえた。驚きながらも平静を装って振り向くと、そこには端正な顔立ちに筋肉質な身体をした男がいた。
「貴方........何者?」
後ろへと下がりながら尋ねてみる。取り敢えず、時間を稼いで神殿兵を呼び出すしかない........
「キシュの長エンメバラゲシである。さぁ、来てもらうぞ、汚らわしい女神イシュタルよ........」
「断るわ!貴方たちのような無粋な輩の相手をする気にはなれない。さっさと立ち去りなさい!」
「........やれやれ仕方ないな。キシュに着くまでの間眠っていてもらうぞ。」
男は小さな短刀を取り出すと切っ先をこちらに向けた。
すると、急激に眠気が襲ってきた。女神である私にまで作用するとは、
「っ!させない」
短刀に向けて女神の権能を発動させる。此処は私の神殿だ。いかに強力な武具であろうともギルガメッシュのもつ「鈍器」でない限りはその能力を封じるもしくはその武具を破壊できる!
「よし!」
短刀の刃が砕けて喜んだのも束の間、気がつけば男が目の前まで接近していた。
「ぐっ!」
何をされたのかは分からないが落ちていく意識。
「ギル........ガ........メッシュ。」
◆???????◆
女神イシュタルの意識を奪った男エンメバラゲシの姿が一瞬で掻き消え、そこに現れたのは『黒いローブの人影』だった。
人影は自分が意識を奪った女神を横抱きにするとキシュの者たちと合流するために神殿の外へと歩き出した。
「さて、アヌ神よ。自分の娘が人間たちに乱暴されたと知ってそれでもなお人間の味方であり続けると言えるかな?」
人影は不気味な笑みを浮かべながら神殿を去って行く。
「破滅の日は近い。せいぜいそれまで何も知らずに過ごすがいい人間どもよ。そして最期の時を迎えて呪うがいい。貴様らを守れなかった無能な王『ギルガメッシュ』をな!」
◇イシュタル◇
目が覚めるとそこはどこかの寝室だった。外はうっすらと暗い。
両手は何やらよく分からない金属でできた拘束具で縛られている。服装は最近ギルガメッシュに清楚に見られるために着始めた真っ白なロングスカートのままだ。どうやら意識を失っている間に何かをされたということはないらしい。
「おぉ、お目覚めですかなイシュタル様?」
突然男が入ってきた。思わず睨み付けるが私を攫ったその男エンメバラゲシは飄々と肩を竦めただけだった。
「随分と嫌われたものですな。しかし、私は以前に一度遠目から貴方のことを見た時から貴方のことだけを思い続けていましたよ?」
そう言って私の身体を舐めるように見つめてくる。
久しく感じていなかった男の獣のような眼で........
「相変わらず美しい......やはり、貴方こそ我々キシュの妻に相応しい!」
この一方的な会話も昔はよくやったものだ.......
私は他人事のようにこの状況を把握していた。別にこれから自分に何が起こるのか分かっていないわけではない。しかし、もう少し近づいてこれないと女神の権能を使えないのだ。
「貴方にはこのキシュの者たち全員の赤子を産む母親になっていただきます。」
一瞬驚いてしまった。このキシュとやらに何人の男が住んでいるのかは知らないが、その全員の赤子を私に産ませようとするとは........
目の前の男はなかなか端正な顔立ちをしており、身体も筋肉質でたくましい。ぶっちゃけ結構好みだ。
しかし、快楽だけを求めていた昔の私ならいざ知らず、今の私は恋する乙女、それも告白の返事待ちだ。......断られる可能性が高いけれど
ーーだからこそ、このような無粋な男に身体を許すつもりは毛頭ない!
エンメバラゲシがこちらへと自分の服を脱ぎながら迫ってくる。
「さぁ、イシュタル様。共に素晴らしい夜にしましょう。」
もう少し.........今だ!
女神の権能を発動させる。取り敢えずこの男を気絶させて........
「........今、権能を発動させようとしたな?」
しかし、発動しない権能。なぜ!?
「おとなしくしてりゃ優しくしてやったのによ!」
エンメバラゲシは顔を歪めると私に平手打ちをしてきた。
「キャッ!」
痛みに耐えながらも考える。どうして?どうして権能が?
すると腕の拘束具が怪しく光っているのがわかった。
これのせいか!
「抵抗してくるとは思わなかったぜ。まぁいい。その身体、たっぷり楽しませてもらうぜ?」
「っ!来ないで!」
「おっ!いいねぇ。おとなしくされるよりそっちのほうが楽しめるってもんだ!」
引き裂かれる真っ白な服。押さえつけられる両腕。近づいてくる顔。
...........ごめんなさいギルガメッシュ。貴方の返事を貰う資格を失う私を許して下さい。
...........でも、たとえどんな返事でも貴方の私への気持ちが知りたかった。
ーー瞬間壁が吹き飛び私の上に乗っていた男も吹き飛んだ。
「イシュタル様。告白の返事をしに来ました。」
そこに立っていたのは黄金に輝く私の『王子様』だった。
◇ギルガメッシュ◇
魔力が空になるたびに回復用の容器を飲み干す作業を続けることで何とか半日かからずにキシュに着いた。
もう魔力も回復薬も空だ。ついでに俺の体力も。
町の中は何故かお祭り騒ぎなので簡単に侵入できた。
取り敢えず目立つ鎧は装着せずに近くの茂みにライオンさんと身を隠す。
すると酔っ払った男たちの声が聞こえてきた。
「綺麗な顔だったなぁ~女神様。」
「あぁ!身体つきも最高だったなぁ~」
「俺らもちゃんとあの身体にありつけるんだよな?」
「あぁ、エンメバラゲシ様は俺たち全員の赤子を産ませるって言ってたぜ」
「おいおい!それ、女神様の身体持つのかよ!?」
「大丈夫だろ、女神様だし。多少乱暴に扱っても大丈夫だろ?」
.........。取り敢えず鎧は装着せずに目の前の男2人に近づく。
「おい。」
「うん?」「なんだ?」
その顔に本気のストレートを一発ずつお見舞いする。
悲鳴を上げることもできずに倒れる2人。
その醜い顔が俺の拳でさらに陥没してもはや人の顔ではなくなってしまった。もしかしたら死んだかもしれない。
「まぁ、いいか。.........いや、イシュタル様の居場所聞き忘れた。」
また『うっかり』だ。
取り敢えず千里眼の透視で探すか。
俺は黄金の鎧を装備して千里眼を発動させると町の中央に向かって歩き出した。
さっきの会話から察するにエンメバラゲシ様とやらがこのキシュのリーダーなのだろう。ならばそいつの家はどこにあるのか。まぁ、だいたいリーダーってやつは真ん中にいるもんだ。
「おい!なんだそこの金ぴか!祭りの見世物か!?」
取り敢えず寄ってきた男の胸倉を掴み上げて聞いてみる。
「女神イシュタル様はどこだ?」
「なんだお前?まさかウルクの王子様か?ヒヒッこいつは傑作だ!おいみんな!金ぴかの王子様が女神様を助けに来たぜ!」
俺たちのもとに集まって来る人々。なるほど、自分で探したほうが早そうだな。
「最後にもう一度だけ聞く。イシュタル様はどこだ?」
「おう!答えてやるよ!エンメバラゲシ様の腕の中だ!」
..........取り敢えず目の前の男の首をへし折ると集まってきたハエどもの中に放り込む。さて、イシュタル様はこっちかな?
「てめぇ!生きて帰れると思うなよ!」
「その黄金の鎧!全部剥ぎ取って売りさばいてやるぜ!」
「死ねぇ!」
取り敢えず真正面から襲い掛かってきた男の剣を鎧の手の甲で受け止めてその剣を奪い取る。そのまま剣を貸してくれたお礼に裏拳を一発プレゼント。
大柄な男が後ろから斧を振り下ろしてくる。受け止めるのは面倒なので今手に入れた剣の切れ味を試す意味も込めて男の腰をスライスする。上半身と下半身がさようなら~
左からの槍の突きを鎧で弾き、逆にこちらの突きをお見舞いする。そのままそいつの槍もレンタルさせてもらう。
「さて........女神イシュタル様の随獣よ!現れよ!」
いくらこいつらが雑魚でもいちいち潰すのは面倒なのでライオンさんに任せることにする。
「王命を下す!............こやつらを殲滅せよ。」
男どもの悲鳴を聞きながらイシュタル様を探しに中央まで歩いていく。
ふと、前方の民家を透視で覗いた。
ーーすると、千里眼にイシュタル様に覆いかぶさる男の姿が..........
瞬間、かつてないほどの踏み込みで地面が陥没する。その勢いで突っ込んで行く。途中ですれ違った男どもの首を刈り取りながら直進する。
血糊と刃こぼれで使えなくなった剣を捨て、槍で民家に突撃する。
民家の壁と男を吹き飛ばし、槍を捨ててベッドを見るとそこには驚いた顔のイシュタル様がいた。
取り敢えず約束を果たすことにする。
「イシュタル様。告白の返事をしに来ました。」
◇イシュタル◇
突然現れたギルガメッシュはボロボロだった。黄金の鎧は血に汚れ、所々傷つき、大きくへこんでいるところもある。顔も泥だらけだ。
それでも此処にいるということは無事フンババを倒したのだろう。ほっと一安心だ。見たところ大きな怪我もないし。
すると突然ギルガメッシュは私の手を引きベッドから降ろすと私の前に立ち語り始めた。
「幼少の頃より貴方と共に過ごして来ました。貴方とのお茶会は俺には勿体ないほど楽しくいつも時を忘れて貴方との会話に夢中になっていました。貴方のことはとても大事に思っています。俺が心の内を曝け出せる数少ない人物です。しかし、俺はあの神退治の前に告白されたとき、自分の貴方への気持ちが分からなくなってしまった。俺が貴方に抱いているのは親愛か?恋慕か?」
真剣な瞳で語るギルガメッシュ。
「しかし、今なら分かります。いや、情けなくも貴方が攫われてから分かりました。.............俺は貴方のことが女性として好きであると。........いえ、愛していると。」
瞬間、時が止まった。いや時が止まるはずなどないがそれでも止まったのだ。
「自分の気持ちに気づくこともできない愚か者ですが、どうか俺と添い遂げてくれませんか?イシュタル様。.......いや、『イシュタル』」
「好き」ではなく『愛している』、「イシュタル様」ではなく『イシュタル』。
「はい。喜んで!」
私のギルガメッシュ王との「日常」は終わり、『ギルガメッシュ』との新たな『日常』が始まる。
◆エンメバラゲシ◆
くそっ!どうなってやがる!黒いローブの奴が女神を俺らにくれるっていうからそれに乗ったってのに!
取り敢えずあの黄金の男から逃れなければ!
「どこへ行く?」
ーー気がつけば目の前に『王』が立っていた。
「まっ待ってくれ、俺ぁ黒いローブの奴に頼まれただけなんだ!どうか命だけは!」
「...........実はたった今、このキシュを我が領土に加えることにした。つまり、今からここの王は俺ということになる。」
何か訳の分からないことを言っているが好きにさせておけば逃げられる!
「なるほど!あなた様なら治められるでしょう!ですので命だけは.....」
「実は貴様には借りがあってな。俺に自分の気持ちを分からせてくれた。よって慈悲をくれてやろう。」
「ありがたき幸せで『カランッ』す?」
「王命を下す。その剣でもって疾く自害せよ。」
俺の地面に向けて投げられたのは血に染まった剣だった。
「どうした?俺の慈悲だぞ?疾くその剣で腹を切り裂け。」
「ふっふっふざけるな!」
くそっ!こうなったらイチかバチかこいつを殺して生き延びてやる。
目の前の男に切りかかった俺はしかし首元に激痛を感じ、攻撃を止めるしかなかった。
首元にライオンが噛みついていた。
「そうか、慈悲はいらぬか。ならばその神獣の餌となって.............死ね。」
「ギャァァァァァァァァアァァァァ!」
ギルガメッシュ王は踵を返すと疲れた妻が眠っている民家へと歩いて行った。
ーー補足ーー
何故イシュタル様がギルガメッシュには丁寧な口調を、神殿兵にはきつい女王口調を使っているのかというと、
まぁ、皆さんも幼い子供と話す時には自然と優しい口調を意識しますよね?
そんな感じでイシュタル様は幼い頃からギルガメッシュと接しているので優しい口調を意識した結果、今でもギルガメッシュと話す時だけは丁寧な口調になっています。
今後イシュタル様の口調は........多分少しきつくなると思います。結ばれたので。
イシュタル様の口調について意見がありましたら感想欄でお願いします。
ーー追記ーー
何時からうちのギル君が綺麗なギル君だと錯覚していた?