ネタまとめ   作:髪様

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東方現実難
痛い子でもいいじゃない


東方projectの作品の数々をご存じの方は多いだろう、その中で有名な単語の一つが幻想入り。その名の通り、東方シリーズの中の舞台である幻想郷に何かしらの理由でまぎれこむモノだ。不幸なモノはそこに住まう妖怪に初っ端から取って食われるし、運がいい奴は外の世界に帰してもらえる。

ちなみに高確率でルーミア等に遭遇する、そしてその場合『あなたは食べても良い人間?』と聞かれるが、どんな答えを返してもある程度の確率で食われる。何か興味を持つおいしい物でも持っていれば別かもしれないが……。

幻想入りはオタク達の夢の一つであれだ、オリ主と勘違いして食われるも奴も結構存在し、能力持ちでなければほぼ確実に外の世界に強制バックという、滞在を希望するモノにとっては結構無理ゲー。

原作キャラに会えても愽麗の巫女オンリーか、喰われる間際のルーミア。お菓子でルーミアはいけるかもしれない。賽銭で愽麗の巫女はいけるかもしれない。でも、お菓子が切れたら普通に『じゃあ、次こそはあなたを食べても良い?』とか、普通にありえそうだし、賽銭あっても尽きたら普通に返されるだろう。一番安全なのは人里付近で慧音先生に拾ってもらうことか?とにかく幻想郷には美人、美少女、美幼女が大勢いるがその全てが個性的であり、独創的だ。正直良い仲になんてなれる訳がない。その前に彼の地で生き残るのは並大抵の努力では足りないだろうから、そっちに必死になる必要性がある。そしてこの幻想郷、妖怪の賢者が存在すら忘れられ、ただ消えゆくしかない妖怪と人間の共存を計った地である。人間が安全に住むにはいささか物騒だが、妖怪が住むには申し分ない。いや、既に幻想郷にしか彼らの住む場所はないのではないだろう。では忘れられるしかない存在が外に居たらどうなるか、もちろん幻想入りする。そう、妖怪なんか危なくなったら勝手に幻想郷に引っ張り込まれるのだ。

 

 

 

▲▽

 

 

「な~んて言ってみたりする。でもな、一言、一言だけ言わせて欲しい。

 幻想郷自体がなけりゃ幻想入り出来ない訳、そこのとこわかるぅ〜?」

 

一見少女に見える彼女は左手に持った瓢箪を傾け口元へ運び大きく傾ける。瓢箪を元の位置に戻し、何度目かになるか分からないおくびをくりだす。すでに顔は真っ赤、目も焦点があわずとろんとしている。

 

「仮装した嬢ちゃん、コスプレだっけか。嬢ちゃんの話は全く分からんその程度で酒はやめとけや。いい加減にしとかなきゃ死ぬぞ」

 

彼も本気で心配している訳ではない。彼が彼女を拾って早一日近く経つが彼女が意識を失うどころか、彼女の呂律が会話に支障を切らすほど回らなくなる事もなかったからである。

いや、当初は彼も本気で心配をしていた。それどころか、彼女の容姿的に絶対に未成年と決めつけ補導しようとすらした。しかし腕をつかもうとして一瞬で地に伏せられた後、彼女の頭に付いている物が本物であることを確かめさせられたうえに、偶々道端に落ちていた鉄パイプを引きちぎるところまで見せられたのである。実際、本人(ほんおに)?から戸籍もないと告げられた時、本気で増援を呼ぼうとしたが、彼女が霧状に霧散したり、彼女自身がデフォルメされて小さく分裂するところを間近で目撃、さらに巨大化までできると聞いた時、本気で彼は頭を抱えた。普通に考えて自衛隊を呼んでも彼女にはおそらく勝てないであう。

むしろ彼自身の頭の中身を同僚達に疑われる。

 

苦節35年、駐在所勤務。

 

交通事故もあまり起こらないのどかな場所で初めて彼は大事件に遭遇した。

 

「はぁ〜。しかし、頼むから嘘だけは付いてくれるなよ。

 お前さんは傍からどう見ても未成年なんだから」

 

瓢箪に入っている物が酒と聞いた時もちろん取り上げようとしたのも、わずかな時間しか経っていないが良い思い出である。遠い目をした彼は彼女と会話をするうちにそう思うようになった。

 

「嘘付くのは人間の方だろうに。

 我ら鬼は嘘は付かないさ、そういうことにしておこう。

 気を付けな人間、私じゃなかったら勝負を仕掛けられても文句は言えないよ。

 ま、少しぐらいは私ゃ嘘をつくかもしれないが、少なくとも意識して相手を騙そうと嘘を付く事はないからね。

 もしついたとしても過程においてはその気はなかったが、結果的に嘘になってしまった、とかせめてそんなところだろうさ

 でもさ、なんで鬼って嘘つかないの?…………まいっか」

 

と言うが、彼女はつい最近まで普通に人間をやっていた。

ちなみに嘘ついても気持ち悪くなって吐き気がするぐらいである、なりきり乙。

では、なぜ彼女はこのような姿になったのだろうか?それは彼女にも理由は分かるが意味が分からなかった。

 

「……ホントかよ。流石に酒臭いぞ。もしかしてやけに度数が高いんじゃねぇか?

 頼むから交番で酒飲んで死にました、なんて洒落にも出来ん事はやらんでくれよ」

 

「大ジョブ、大ジョブ。酔う事はあっても一定以上は酒も回らないから……多分。

 鬼が酒で死ぬなんて永遠の笑い草になるわ、我ら鬼にとって酒は水と同じなの……多分。

 おっちゃん、飲む?人で下戸なら一口で死ぬかもしれないけどねぇ〜

 酒で落ちるで洒落ってか、おっちゃんうまいね〜」

 

「はぁ、そんなモノ勧めんなよ。何処が上手いのか俺には分からん」

 

彼は再び本気で頭を抱えた、いつの場所時代でも酔っぱらいの相手は得てして疲れるものだ。

 

 

 

▲▽

 

 

 

「当選おめでとう」

 

奴は初めにそんな事を言いやがった。

 

もちろん俺が返した言葉は一言「はっ?」だけである。とりあえずオタクならば本来喜ぶべきなんであろう。しかし、喜ぶ前にまず意味が分からなかった。一時停止、少しばかり間をおいてやっとこさ再起動。

 

「これはまさかの転生、もしくは憑依、トリップ?」

 

「私からキミにプレゼントするのは憑依だ。もちろんチートだろう、そして憑依先は伊吹萃香だ。

 男の君には大変だろうが、ぜひとも頑張ってくれたまえ」

 

「で、何処に行くの?やっぱり最近たまにあるワンピースで無双とか?

 東方はオリジナルが居るだろうし、ここは王道に異世界とか?」

 

普通はそう考える、でも目の前にいる奴が言った事は本気で予想外だった。

 

「は?何言ってんだ?そのまんま現実だよ、現実」

 

現実?現実って何?幻想郷がある東方世界の外の世界ってことか?

それとも幻想郷の出来る前のずっと過去にでも送るのだろうか?

 

「お前が居た世界に決まってんだろ?

 お前が当選したのは見ての通り憑依だけ、その他は見ろ、全部タワシだ」

 

奴は先程までは持っていなかったハズなのに、いつの間にか手にしていたダーツで何かを指し示す。そちらに目を向けてみると同じく先程まではなかった、回転式のダーツの的があった。

的に当たっていたダーツは伊吹萃香に憑依と書かれた場所とタワシと書かれた場所に12か所だった。その他に的に書いてあった物は四菱パゼロとお米半年分と洗濯機&食器洗い機。

 

しかし、残念ながら?当たっていないようだ。

 

「何この意味分からなさは?

 何故に憑依が萃香オンリー?

 むしろ、憑依だけでその他が全く関係ないことに疑問を覚えた」

 

「決まっているじゃないか、俺が萃香が好きだからだ」

 

だから何って感じだよな、いや、俺も好きだよ萃香、愛してるっていっても過言じゃないぐらいに。

あのはっきりとした性格もそうだし、角っ子ってだけですでに完璧だ。合法ロリ万歳。でも自分がロリになるのは別なんですけど……。

 

「でも何故に現実?」

 

「うむ、話すも涙語るも涙という訳で話すと長くなるのだが、手を突っ込むクジを用意して、その中に何処に行く決めた紙入れて決めようと思ったんだ」

 

奴は大袈裟に泣くようなモーションを取り、正方形を手のひらで空中に描く、おそらくあれが箱?なのだろう、わかりづらい

その後、片一方の手で何かをつかみもう片一方で何かをあさるようなしぐさを行う。

 

これっくらいのおべんとっばっこに

 

 

……とりあえず奴がボディーランゲージをする意味が全くこれぽっちも分からない。

 

「で、それで?妨害でも受けたのか、ほら同職者とかに?」

 

「いや、思うだけ思ってそのまま、普通に忘れてた」

 

少々の間待ってみる、というか頭の理解が追いつかなかった。

 

 

 

ざ・わーるど 時をとまれぇ

 

 

「まったく、長くないな……いや、涙する場所もねぇよ」

 

「ううう、なんて悲しい話なんだ。という訳で頑張れ」

 

「無理があんだろ、むしろこの場合、悲しいのはあんたの頭だ」

 

何を言ってやがるのでしょうか、こいつは。そんな適当な事で俺の今後を決めやがるのでしょうかって感じだ。

 

「いや、今から決めればいいじゃん」

 

「めんどくさい。でも、ほら安心しろ。お前の怪力を30万tタンカーぐらいなら持ち上げられるようにするから。

 もちろん、密と疎を操る程度の能力も使えるぞ、やったな。

 伊吹飄も見た目の容量の100倍ぐらいにしとくから」

 

いや、そんなモノが使えても現実世界には何の意味もありませんから。

30万t持ち上げてどうしろと?

安心する要素が全くない事に彼に気付いてほしいと切実に思う。

萃香の瓢箪って見た目道理の容量しかないらしいけど、酒の量増えても別に嬉しくないんだけど。むしろ、町中歩くだけでコスプレで痛い少女扱いされますから。

あれか、傭兵にでもなって中東にでも行けと?

 

「じゃあ逝って来い」

 

奴がそういった瞬間床がパカんっと開いた。

思わず俺は下を向くが、なぜか下に向かって落ちることはなかった。

「あれ?」とか思っていると、金タライが奏でる金属音が頭全体で鳴り響いて俺は意識を失った。

 

 

 

▲▽

 

 

 

「次に会った時にぶっころす」

 

気が付くと森の中で仰向けに寝転がっていた、まだ暗くないのでおそらく昼間であろう。

目が覚めて初めに思ったのが俺をこんな目に合わせてくれた奴への殺意。これで幻想郷の森とかだったら、今後の身の振り方や、本物の萃香に憑依したかどうかなど、もっと考えなければならない事があったであろう。一人だけならまだしも萃香が2人もいたらヤバい事になるのが目に見えている。

本人だけなら面白がって勝負を仕掛けてくるだけだろうが、その他の奴らが居たら最悪、異変扱いでフルボッコにされるかもしれなかったからだ。といってもその悩みも奴の言を信ずるならば無用なモノ。

 

「なんだこれ」

 

腹筋を使いそのまま起き上がるとピラリといちまいの紙が舞った。覗き込むとどうやら何か書き込まれているようだ。

ふと、それを読む前に体を確かめる事にしたが、体は鏡を見るまでもなく縮んでいることが分かった。

腕や髪には伊吹萃香の身につけるあの3種の分銅、三角錐やら、球体やら立方体やらのあれが付いていた。

もちろん頭にも手のひらで確認したが、あの独特な角も付いている。

顔はまだ見ることができなかったが、この様子だと不細工という事はないだろう。

 

「どれどれ」

 

ある程度の確認が終わったところで、先程落とした紙を拾い上げる。

A4サイズのそれにはパソコンで打った明朝体でなにか書かれていた。

サイズはおそらく12だ、きっと。

 

 

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拝啓 憑依者君

 

キミは今森の中に居ることだろう。

安心してくれたまえ、後で確認すれば分かるだろうが、

しっかりとキミは日本人が10人いたら10人は振り向く美幼女だ。

もちろん萃香のスペックと先程言ってあったおまけも付けてあるから。

気付いたかもしれないが、キミの隣りにある袋に入っているモノはタワシだ。

約束はしっかりと守ったからな。

 

 

追記 キミが居るの白神山地のちょうど真ん中辺りだから。

 

 

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「日本終わった」

 

いや、美人なら分かるんだが、美幼女で振り返るなよ。

つうか、タワシいらねぇ—、タワシだけ12個あっても何に使うんだよ。

怪力で遭遇した熊にでも投げつけるとか?

30万tタンカー持ち上げられる怪力で投げたら、タワシでも砲弾のごとく対象の脳髄が飛び散りそうだけどね、でも使い道って全くないよな怪力。

 

「さて、どうしたものかねぇ」

 

巨大化でもするか?巨大生物突如、白神山地に現るってか?

いや、リアルゴジラみたいに自衛隊から空爆されそう。対戦車ロケットの雨とか対地ミサイルの雨が降り注ぐ気がする。効かない事は分かるんだが、気分のいいものではなさそうだ。萃香VSメカ萃香って将来なったりしてな。……ミサイル効かないよな?

 

「やっぱりちび萃香で人海戦術でしょ」

 

しかし、どうやるのだろうか?とか思っていると、ふと頭の中に浮かぶ『密と疎を操る程度の能力』の使い方。

な、なんて便利なんだ。流石はご都合主義。

と言う訳で小さな自分を作るようなイメージをする。

気が付くと目の前にはホントに今現在の俺自身であるリアル萃香を小さくしたであろう、

20センチ大のちび萃香達、計20体。確かに手に取ってみると美幼女なのは分かるが、ちょっと気持ち悪かったのでデフォルメしたモノを頭の中に浮かべる。

 

「お、できたな、うぷっ」

 

目の前には今度はヌイグルミみたいになったチビ萃香。これなら大丈夫だろう。その前に今度は違う意味で気持ち悪くなった。複数の視線が頭の中に浮かび、ちび萃香の目線と今ここに立っている私の目線が、これまた頭の中でごちゃ混ぜになっているのだ。頭の中をかき交ぜられる事同然で、大きな吐き気を催す。

 

「こ、これは慣れるしかないかな」

 

あまりの気持ち悪さに立ったまま少々嘔吐するが、この体になって何も食べていないので出てくるのは胃液のみ。しかし、元々高スペックな体なので視線酔い?にもすぐ慣れた。この時ばっかりは鬼万歳である。

予想外な事に少々驚きながらも、集中する目に自分はドカリと胡坐をかいて目を閉じる。

 

「行け、私たちよ!」

 

と言っても結局は分裂した自分自身な訳だから疲れもするのだけどね、と一人ごちる。分裂した萃香のデフォルメぬいぐるみは、その小さな外見に似合わず、森をかけ出す。早さにして時速40キロ程。

悪路である事も考えれば人間ではありえないぐらいとんでもない早さであろう。

もちろん100メートルなんて短距離ではなく、丸1日中走り続けてもおそらく疲れることはないのが頭のどこかで理解している。

 

「世界最大のブナの原生林は伊達じゃなかったよ」

 

白神山地の広さはおよそ169.71平方キロメートル。

正方形として考えても一辺でおよそ13.0274キロメートル。

20体ものちび萃香を30分ほど四方八方に走らせたのだから、民家らしきものはすぐさま見つかった。しかし、30分もの間変わる事のなかった森の中の景色に驚いたのである。

前世?と言っていいのかは分からないが以前は一度も来た事がなかった、世界最大のブナの原生林、白神山地の雄大さを思い知らされたのだ。

 

「しかし、途中獣が怯えていたよね」

 

考えてみれば当たり前のことなのである。

高速で走るみた事のない生き物がちょっとした障害物など無視して、爆走していたのだから、警戒しない野生動物が居ない訳がない。呟きながらそんな当たり前の事にも彼?彼女?は気付かない。精神的に少々参っているのであろうか?

 

(ふむ、とりあえず民家があるとこまでいくか……)

 

分散させたちび萃香をできるだけ都会に近そうな民家付近を残して霧散させる。ちなみに場所は駒ケ岳を越え、その先にある北秋○市方面の民家であった。その後、本体も霧散させて民家に残したちび萃香の地点で統合。傍から見ればぬいぐるみのあった場所に突如人が現れたように見えただろう。

 

(しかし、まぁ物理法則完璧に無視だな)

 

ふと辺りを見回すと、水神社と書かれている神社の鳥居が目に入った。

国宝がある水神社の分社だと思われる。

ここで彼女?の頭をよぎった事が一つ、普通、伊吹萃香なら酒呑童子伝説の伊吹山で滋賀県じゃないのか?という小さな、けれども現状では大きな疑問である。彼女?には奴が自分を白神山地になぜ送ったのか、意味が分からなかった。

 

(もしかして嫌がらせか?)

 

このまま呆けて目立つ訳にもあまりいかないので、神主なんている訳なさそうな神社に入っていく。そして予想道理神主どころか巫女さんもいなかった。

本社である水神社であったら別だったろうが、やはりそこは分社である。

 

「鬼が堂々と神社に居座っているのだから相当不思議だよ。さて、どうしたものか」

 

今現在彼女は何も身分を証明するモノがない、むしろあったら驚きだ。

そのまま鬱になって来た彼女は腰にぶら下がったモノをにふと視線を落とす。本来なら手に持っているハズの伊吹飄である。

横に振ってみるとぽちゃんぽちゃんと音がするので、どうやら中身はしっかり入っているようだ。

 

「やってられん。飲むかね」

 

やけ酒をしようとすれば早かった、漂々と賽銭箱の方までやって来てドカリとその上に座り込む。

もちろん、以前の彼だったころでは決してそんな罰当たりな事はしなかった。が、今の彼は神とは敵とはいえないかもしれないが、少なくとも中が良い存在ではないのでこの程度は許容範囲であるらしい。

見た目1リットル程の瓢箪だが、その100倍。中は異次元だが軽量化などかかっていないので重さも、もちろん100キロ程になる。その瓢箪を軽々と傾けラッパ飲みしていく。

 

「ぷはぁっ。なんなんだよ。私に何をしろってんだ。

 世界救うわけでもなし、征服する訳でもなし。ゆく当てもなく、頼る当てもなく、どうしようもないじゃん」

 

流石は鬼の酒。すきっ腹だった事もあるかもしれないが、鬼である萃香(仮)でもモノの5分で酔わせる。と言っても5分間も連続して飲み続けているのだから、早いか遅いか分からないのであるが。

しかし、100リットル程の容量があれども、瓢箪から口を離さず飲み続ければ1時間も経たずに無くなるのは通り、まさしくザルのごとく飲み続けた。

 

「無くなった」

 

未だ酔い冷めぬ彼女は手水舎へ、トコトコ歩いて行く。しかし、この瓢箪でかい。そのため水をそのまま瓢箪へ流し込むスペースは無かった、更に水盤のなかに溜まっている水を入れたくはなかったので、結果流れ込む水を柄杓ですくって中へ流し込むことにした。

とりあえず、やけに地道な作業であった、まず流れ込む水もちょろちょろと少しずつだったし、柄杓自体の容量の大きさも大してない。

よって結果的に100リットル瓢箪を満タンにするには飲むだけと同じ、1時間ほどの時間を裕に要してしまった。

 

「酔いが冷めた」

 

その時間は彼女の酔いを醒ますには十分だったらしい。しかし、酒を飲もうにも伊吹飄は一晩程置かねば水が酒になる事はない。

何をするのかも思いつかなかったので、酒ができるまでとりあえず寝ることにした。つまり単なる問題の先送りである。この体に食事が居るのかすらもまだ分かっていない、考えるべき事は過剰にあった。

 

 

 

▲▽

 

 

 

次に目を覚ました時には依然として空は明るかった。

彼女の体はなおも賽銭箱の上にあり、横になっていた。

実際のところは日を跨いで朝になり、夜になり、……更にもう一度巡ってきたいる訳だが、寝ている彼女が知る訳もない。彼女が日を跨いだ事に気付いたのも、瓢箪のふたを開け一口だけ口にし、酒になっている事に気付いたからである。

だが、気が付くと早い。

 

「腹も減らないし、飲むか」

 

横向きになり片肘立てて顔を支え、片膝立てて鳥居の方を向いて酒をあおる。居間でポテチでも食べながら昼の韓流ドラマでも見ている、中年のおばさんの恰好を連想させる。つまり、完璧にだらけ切っていた。

その後この態勢に飽きたのか、賽銭箱の上からようやく起き上がり、今度は参道のど真ん中に胡坐で座り、参道の端にちりばめられた玉石をいくつか集め、積み始める。酔った人間の行動はよく分からないと言うが、今現在の彼女はまだよっていない。

何をしたらいいか分からず、とりあえず暇をつぶしているのである。

 

「うがぁー!ムカつくっ!」

 

何段か積み上げて飽きたのか、奇声をあげる。自分で石を積み始めたのに、勝手に怒り出す、他人が近くに居れば傍迷惑な行為であったろう。

彼女は積み上げた石を一つ地面に置くと拳を叩きつける。玉石は破砕音をあげ砕け散り、参道にしかれていた板石が浮き上がる。近くの木に止まっていた鳥は一斉に羽音を立てて飛び立つ。

 

「あ、もしかしてやっちゃた?」

 

自分の怪力を忘れていた模様である。その為慌てて辺りを見回し、鳥居の方に向かい階段から下をきょろきょろと見下ろす。そして誰もいない事を確認して今居た場所に座り直す。

 

「焦った。一般人とかがやってきたら大変だからね。飲み直すかな?」

 

そして再び瓢箪を手に取り口に付けようと近づける。

 

「キミ、何をしているのかな?」

 

「ひっ!」

 

その時である、突如声をかけられた事に彼女?は驚き軽い悲鳴をあげる。

そして気まずそうに、ギギギとでも音がしそうなほどに、おっかなびっくり後ろを振り向く。そこには某紺色な服を着た国家権力なおっさんが立っていた。

 

(これなら普通に近隣住民に見つかった方が良かった)

 

そんな事を思っても、すでに遅い。

石を砕く爆音を聞いた住民が近くの駐在所に連絡、この場所まで自転車に乗ってやって来たというわけである。しかも、その場所には地面に座り込んだ、角付けた痛い少女、……警官が声をかけない訳がない。

 

「そうだ、この辺で何かが砕けるすごい音がしたみたいなんだけど、

 お嬢ちゃん、何か知らないかな?」

 

職業根性なのか、おそらく60程入ったであろう年齢のおっさんは、一見コスプレに見える彼女にも安心させるような声で質問をする。

そして、彼女は質問に答えない訳にはいけない理由がある。今ここで逃げれば怪しさ爆発だし、捕まった時の心証も悪くなる。もともと小市民であった彼には警官を伸して逃げると言う選択肢はなかった。

更に本能的に鬼は嘘を付けないようになっているのか、本当の事を言うように強制的に思わされるためなのか、嘘をつくことも気分的にはしたくない。その為、自分がやった事をそのまま暴露する。

 

「はぁ、ちょっとおじさんに付いてきて貰えるかな?

 お嬢ちゃんがやった事はね、一応器物破損って犯罪なんだよ」

 

「は、ははは、ごめんなさい。だから、ちょっと勘弁してもらえないかな?」

 

乾いた笑い声を出すが、本来なら色々と笑えない状況である為、補導?される事だけは本気《マジ》で勘弁してほしかった。

しかし、そんな想い叶わず警官のおっさんは、此方の手を掴んで連れて行こうと、近寄って来る。

 

「ん?これは酒の臭いか?」

 

余罪が明らかになったところであった。本気でこれ以上はやばいと思った彼女は逃げようとする。

ここまでくれば素直に捕まっても、逃げて捕まっても同じだろうし、今現在は石を砕いただけなので指名手配まではされないだろう。そう思っての逃走である。

 

しかし、熟練手が早い。

この警官近くの商店で万引きをし追われていた人間を偶然見つけ捕まえた事もあるし、迷子の猫、犬の捜索も結構な数をクリアしている。

悪ガキの二人乗りを見つかった時の咄嗟の逃走もあった。そして景観のおっさんは限界を超えた?思わぬ速さで手をつかむ。

 

(やべっ!)

 

掴まれた事に驚いて一気に振り向き、背負い投げの要領で警官のおっさんを投げる。しかし、咄嗟に加速する思考の中でこのまま叩きつければ確実に死ぬと考え、途中で軽く転ぶ程度に速度を緩める。それでも結構痛そうな音がして警官は倒れた。

だが打たれ強かったおっさん、腰に手を当てながらもすぐさ起き上がる。

 

「おい、おい、嬢ちゃん知ってるか?これは公務執行妨害って新たな犯罪になるんだぞ」

 

「いや、これはワザとじゃなくてね?あ、あははは、見逃してくんないかな?

 そうすればあんたも痛い思いしなくて済むんだから」

 

警官のおっさん本気で目の前の痛い少女がなにを言っているのか分からなかった。

今のは窮鼠猫をかむと言った感じで不意を打たれたが、普段の彼が目の前の少女に負ける事が思いつかなかったからである。どうせ、少女の苦し紛れの言葉だろうと思った。

そのため、おっさん少女を捕まえて自分の家でもある駐在所に、引っ張って行こうと身構える。

 

「まさか嬢ちゃん、本気で勝てると思っていないよな?」

 

「いや勝てるでしょ、人間。むしろそれは此方のセリフだよ。

 鬼伝統ののカケありの勝負するかい?」

 

もちろん、彼女は以前武術の経験があった訳ではない。

しかし、それを補って余りある身体能力と、動体視力があり、ぶっちゃけた話、世界中のどの武術家が挑んでもその身体スペックだけで負けるだろう。

民話や物語に出てくる鬼退治は天才と呼ばれる武術家が己が技能だけでなく、運すらも使わねば勝てないのである。正々堂々と戦わなくなった、正面からかかって来る奴が居なくなった、それ故に幻想郷の鬼は妖怪の山から地底深くにある旧都に移り住んだのだ。だが、この強気の発言はもちろん殆どハッタリである。

 

「いい度胸だ。カケの内容は簡単にいこう。嬢ちゃんが勝ったら今回は見逃してやる。

 だが、俺が勝ったらもちろんしょっぴくからな」

 

しかし、彼女の普通なら馬鹿げた言葉も馬鹿にせず、目の前のコスプレ少女(警官のおっさんはそう思っている)と、拳を構え向かい合う。萃香(仮)も瓢箪を少し離れた所に置いて同じように構える。

 

「覚悟は良いかい、人間。

 我ら鬼は武器も構えない人間に倒されるようなモンじゃないよ」

 

30分後、足腰立てないぐらいボコボコにやられ、それを哀れに思った彼女の肩に乗っけられ運ばれる警官のおっさんと、片腕で骨組みを掴まれ運ばれる自転車の姿があった。その非常に不思議な光景を近隣住人である主婦のおばさんや、おばあさん方は唖然と目を見開いて眺めていたそうな。

 

そしてこの後も彼のなりきり鬼人生(笑)は続くのだ。

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