ネタまとめ   作:髪様

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突撃、となりの?

ズドンと鈍い音がし、直方体に切り取られた石材が地面へと落下する。少し遅れて石材を吊り上げていた縄と滑車、滑車台である木材が地面へと降ってくる。

 

 「やはり強度が足りませんね、城壁に斜路(スロープ)を一度設置したほうがいいでしょう」

 

 要塞を制圧して三日が経った。すでに残党の殲滅は完了している。あれから結局ほぼ全ての孤児が傘下に収まった。今現在は周囲の整地と壊れていた城壁の修復の途中である。この要塞を建造した際に使われたと思われる石切り場が近くにあったので、そこで同じサイズに石を切り取ってコロで運んできたのだ。が、そこから先が問題であった。

 城壁の上へと石を運び上げる手段がそこまで多くないのである。複合三連滑車で作った簡易クレーンで石材を吊り上げようとしたのだが、ものの見事にぶち壊れた。

 

 とりあえず、石材は一旦並べて放置するようにお願いする。そのまま城壁補修部隊は空堀作成部隊へと合流してもらう。円匙(シャベル)、股鍬、平鍬、それぞれを手に地面を掘り返していく。あまり荒く使えばすぐにダメになるので、力尽くの使用はあまりしないようにしているが、どれほど聞いてくれることやら。

 直下のうち20名には一度郊外の拠点に戻ってもらい、植えてあった作物の移設をお願いする。大きめの荷車に土ごと掘り返し、そのまま運んでもらっているのだが、主に調味料となる香草や唐辛子なのでそこまで大規模なものではない。あと2往復程度で終わるだろう。

 

 新参の10名程度には道の整備をお願いしている。元々の敷石舗装部分に河原より大量に集めた砂利を加えたり、藪が広がらないように少し広めに刈り取ったりなどである。これも地味に時間がかかる。未だ10分の1も終了していない。他の部隊から回そうにも、どこの部隊も人手が足りない状況である。

 要塞内部の清掃も進めているのだが、これもほとんど終わっていない。腐った机などの備品を運び出したり、子鬼《ゴブリン》や豚鬼(オーク)達が食事したあとの動物の死骸を片付けたり。指令所の掃除は一番最初に終わらせてあるのだが、兵舎やその他の建物は手付かずのままである。武器庫の発掘も全く行えていない。

 

 「……足りませんね、人間が」

 「姉様、折り入ってご相談があるのですが」

 

 リオンである、人員を回して欲しいとの嘆願であろうか?正直回せる人間がいないのだが、といって使い辛い孤児をこれ以上増やすわけにも行かない。増やすとしたら、もう少し知恵のある集団のほうがいい。

 

 「聞こえていたのでしょう、人は回せませんよ。どこも手一杯です」

 「あ、いえ、確かに人がいるのですが……、優秀な人間を手に入れることができるといえばどうでしょうか?姉様にもご足労させてしまいますが、少なくとも相当のモノが手に入るかと」

 「そんな都合のいい。ですが、猫の手も借りたいときです。聞くだけ聞きましょう」

 

 彼の提案は博打に近いものだった。つい最近魔王軍が帝国軍の篭城する都市を落としたらしい。長く持ったと見るべきか、魔王軍と帝国軍の戦争なので、一応の中立宣言を発している王国には一切関係ない。しかし、魔王軍が都市で手に入れた奴隷と捕虜を王国の道を秘密裏に使い移送するらしい。捕虜の移送は厳重だが、女子供ばかりの奴隷の移送は馬車20台に対して5騎ほどの騎兵しかいないのだとか。

 

 「それでも魔人兵ですよ、危険度が高すぎるとは思いませんか。御者も魔人兵だと考えれば25名はいます。少々無謀が過ぎるでしょう」

 「姉様、以前より欲しがっていた騎馬が丸々手に入るチャンスなのですよ?王国内部で襲撃されるとは考えていない連中です。不意を打てば!」

 「……リオン、いけませんよ。目先の欲で墓穴を掘るのだけはよしなさい。貴方は私の為というのでしょうが、今回は分が悪すぎる。話は以上です、私も作業に戻るので貴方も戻りなさい」

 

 確かに孤児ではない都市部の奴隷であれば女子供であろうとある程度は使えるだろう。喉から手が出るほど騎馬や人手は欲しいが、こればかりは無理だ。所詮は(にわか)仕込みの訓練である。正規兵、精兵揃いとされる魔王軍の兵には勝てない。下手に手を打って、賊として扱われれば王国からも討伐兵が出る危険がある。博打にすぎることなど許可できないのだ。

 

 

△▼

 

 

 「五人衆と新参、直下の計24名がいない?」

 

 二日後のことである、移設部隊の作業が終わり道路整備に回すように命じた時のことであった。ミレイナとミルティーの報告により判明した事実、移設部隊の一部と道路整備部隊の一部、そして各部隊指揮を任せていた五人衆の不在である。

 

 「魔道士二人も連れって行ったのでしょうね、トリンに30名を連れてあとを追わせなさい。間に合うようなら連れて帰るように。他の部隊も外縁部作業は一旦中止、要塞内部の作業に切り替えなさい」

 「長姉様、分かりました。私たちは直下の5名を引き連れて城壁の警戒にあたります」

 

 頭の痛い話である。大人顔負けの重労働ばかりなので、サボるぐらいならまだ可愛げがある、大目に見てやれるのだが、流石にこれはいただけない。彼らだけでなく、ここにいる人間全てを危険に回す可能性もあるのだ。なにせ、やろうとしている事がそのまま賊行為。正当性があるかないかは別として、彼らに手出しをさせる条件をすべて満たすことができるのだから。

 

 「……いえ、やはりもう10名私が連れて行きます。うまく説得できなかった私にも積は有りましょう」

 

 こういった時こそ馬があればと思うが、こんな事だからいけないのだろう。正直彼らに頼りすぎていた。自らがトップであろうとするのならば、形だけでも迷うところを彼らに見せてはいけないのだ。その失敗のツケが今回のことを引き起こした。何事もなければと思うのは、甘えであろう。帝国軍との戦争で勝ちを拾い続けてきた魔王軍の兵士だ。不意を突こうが、こちらのほうが多かろうが死人は出る。

 

 リオンが言っていた魔王軍の使用する道は、ここから約25キロほど離れた位置にある。ちょうど俺たちの住んでいた王国の都市の真逆に位する場所を通っているのだ。早朝とともに出発したならば、昼間近の今は到着していても可笑しくない。しかし、彼はどうやってこの情報を手に入れたのであろう。帝国軍の残党と都市で出会ったりしたのか?彼が騙されているか、利用されていなければ良いのだが……。

 予定では明日の早朝だったか、今頃は奇襲地点の下見をしているであろう。今の段階ならほぼ確実に止められる。少しばかり急いで向かおう。

 

 

 本来ならこのような事はしないのだが、今回は時間との勝負、急ぐ必要があるので軽量化のため最低限の護身武器以外はアイテムボックスで俺が輸送することとなる。しかし、このアイテムボックスも面倒くさい。持ち上げることができる物しか収納できないのだ。そんな縛りが無ければ城壁の補修も直ぐに終わっただろうに。

 全速の7割の速さでその道へとつながる旧道を走り抜ける。この旧道の終わり、というよりも入口なのだが、軍用道なので公道と異なり偽装が施されている。知っているものが調べればすぐに分かるとはいえ、一般人には絶対に分かるものではない。だが、襲撃されたとなれば付近は丹念に捜査されるであろう、そうなれば終わりだ。退路の偽装が得意な、リオン達がそのような失敗を犯すような場所で襲撃するとは思えないが、もし街道沿いを大軍の力を持ってして、しらみつぶしにされてしまえば、それらは意味のない話になる。

 

 こちらの道は今はまだ必要性がなかったので、未だ藪に包まれている。幸い残党狩りの際に少し切り開いているので人三人が横に並んで歩けるほどの間隔(スペース)はあるので、縦2列になりそのまま走り抜ける。25キロならば道が悪いことも考え、歩いて7時間。走れば七掛、大体5時間程度が妥当である。

 夕暮れ時に間に合うかどうかが決め手だ。暗くなれば次の日に備えて息を潜めた彼らを探すのは困難になる。そうなれば必然的に魔王軍との戦闘は免れないだろう。魔王軍がいつ通るか分からない道で、奇襲のために隠れた味方を探すのは馬鹿のすることである。普通に勘違いされて討ち取られる。日が暮れるまでに到着し、彼らを見つけ出して少しでもその場を離れるまでが今回のすべきこと。

 もう少し早く気づけていれば、ここまで必死になることもなく追いつくことも出来たであろう。外を任せっきりにしたのが、大変悔やまれる。

 

 「一時水分補給、歩きながら息を整えなさい。体調の悪いものはすぐさま引き返すこと。その際は申し出なさい、護身武器では心許無いでしょうから剣と槍を渡します」

 

 足場の悪い道を走るのは存分以上に体力を失う、軽いクールダウンも必要となってくる。まぁ、これで激しい運動が終わりなわけではないのだが……

 

 「トリン、貴方は奇襲場所を聞いていたりしませんか?」

 「残念ながら、……長姉のお役にたてず申し訳ない」

 「いえ、元の原因は私ですから、こちらこそ付き合わせて申し訳ないです」

 

 何人かが脇道にそれていく、おそらく尿意でも催していたのだろう。全員が一息ついたのを歩きながら見つめる。置いていくわけにもいかないので、番号を疲れを出さない程度に叫ばせる。確認ができれば再び走り出す。あとどれくらいの距離があるのか詳しくはわからないのだが、今のところは順調であろう。今世になってからは大体であるが、どれほどの距離を進んだか把握できるようになったのだ。

 

 

 はてさて、どうなることやら……

 

 

 

△魔領直通王国街道▼

 

 

 「でもよ、良かったのか?これ戻ったら確実に殺されるぞ、姉上に」

 「戻る前に殺されると思うよ?多分」

 「不吉なこと言うなよ、ならなんで独断専行なんてしようとするんだ」

 「いや、そう言う意味じゃないさ。姉様のことだ、今頃全速力でこちらに向かっているよ。罠の仕掛けもできたことだし、敵が正規兵であることを含めてもほぼ確実に勝てる。しかしまぁ、姉様の私たちの評価が中途半端なのは分かっていたけど、今更輜重兵や一般騎兵程度に負けるはずがないのにね?」

 

 トロル鬼は本来正規兵で2部隊は必要である。それを8人で苦戦することなく倒せるのはどう考えても普通の域ではない。ミーヌ、本名ミリアーヌは知らないが、豚鬼(オーク)ですら二人掛りで倒すものである。もちろん騎士や精鋭兵となれば話は別だが。

 そして重要な点が、魔王軍における輜重兵とその護衛は前線向きではないと判断された、少々強さに劣る部隊なのだ。つまり、その危険度は魔人兵といえど一般正規兵と同じ程度までグンと下がる。これがもし、通常か通常以上ならばリオンも決してこのようなことを行わなかっただろう。

 

 「巻き込まれて怒られるこちらの身にもなって欲しいのですが……、はぁ~、どうやら先に捕虜の移送部隊が通るようですね。当初よりそこまで数は多くなさそうですが」

 

 これも襲いますか?とメイテンの視線が尋ねてくる。捕虜はいらないのだが、騎馬はこちらのほうが数が多い。元々野生の馬を探して調教し使おうと思案していたので、訓練された軍馬は非常に有難い。

 

 「流石にあね様といえど大人の男は従えられないでしょう?扱いに困るのでは?」

 「ロッキーヌの言う通りだし、これは見逃すよ。弓の数も足りていないし、馬がない状況で相手を逃がさすバレないように倒すのは、この人数では厳しい」

 

 呟きながら各自が隠れる場所を指差していく。今回の奇襲では騎馬を狙うことは極力避けたい。しかし、そうすれば第一射目の狙撃時点で粗方片付けてしまわねば、逃げられる可能性が高くなる。道を塞ぐのは道の形と道幅からして無理があるので、一撃で殺すか落馬させたあとに寄ってたかって串刺しにするぐらいである。

 

 「ここからは声は出さないように、少し離れた場所で隠れてやり過ごすよ」

 

 漁を行うための網に似たモノにコケと木枝、草をつけたもの、つまりギリースーツそのものであるが、体に巻きつけていく。匍匐前進で少しずつ街道から離れ、寝転がる。当初の予定通りそのまま各自が干し肉と水分を摂取し、休憩を取る。

 空を見上げればまだ陽は高い、コクリコクリと眠気に誘われながら蹄の近づいてくる音を感じる。どうやら第一陣が近くを通るようである。少し急ぎ足なのであろうか、駆けるといかないまでもここに辿り着くまでの時間が短いと思う。

 

 「いけいけ!ちっぃ!帝国の残党めどうやって嗅ぎつけた!」

 

 少し厄介な事になってきたのかもしれない。魔人兵の叫びにも似た悪態がここまで聞こえる。救出作戦を企てたのだろう帝国軍の一団が移送部隊を襲撃したのである。

 不味いことになったと感じたリオンはゆっくりと体を動かし、少し離れた位置にいる五人衆の片割れに近づく。

 

 「どうするゲール、ここで帝国が彼らを撃破すれば後の移送部隊がこの道を通る可能性が低くなるぞ」

 「魔人兵が逃げ切ってしまわないように倒すしかないぞ、帝国兵に加勢しよう」

 「そうだな、メイテン合図を頼めるか?このまま決行する、帝国兵に恩を売れるかもしれない」

 

 メイテンはすぐさま小さな火炎弾を打ち上げる、その合図に従い一斉に立ち上がり、街道へと近づく。もちろん魔人兵もその火炎弾に気づき、一度驚き見上げるが新手だと辺りをつけると馬の速度を上げようとする。

 

 「遅い!」

 

 その馬を止めた隙を付きゲールの投げた短槍が騎兵を貫く、首を横から貫いた槍で絶命した騎兵は落馬、足を止めた馬に騎兵が落とした槍斧を担いだカールが飛び乗り反転。再び近づいてくる騎兵へと相対し突撃する。

 もちろん魔人兵も槍斧を構えゲールを叩き切ろうとするが、彼に気を取られた魔人兵の近くの大木から飛び降りたレントにより一撃で切り落とされる。

 近くをかけていた魔人兵は驚き一度は逃走を開始しようとするが、乗っているのが子供だと気づきすぐさま踵を返し斬りかかる。

 

 「おのれっ!」

 

 レントは魔人兵の槍斧を一度は弾くが、落馬しそうになる。それを見て好機と感じた魔人兵はもう一度槍斧を振り上げるが、がら空きになった胴にメイテン火炎弾が直撃し落馬、そのまま連れてきていた孤児によって滅多刺しにされる。

 

 「馬車が来るぞ!後方には砂塵!帝国兵だ!」

 

 未だ、味方到着せぬままに戦いは第二段階へと突入していった。

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