ネタまとめ   作:髪様

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激戦区真っ只中?

 陽が傾き始めた、まだ日没まで時間はあるが心に焦りを感じる。嫌な予感とまではいかなくとも、何事もないままでは終わらないだろうという直感。良か悪か今は判断はつかないが、確実に彼らはやらかしてくれたのだと思う。

 気持ちばかりが先に行き、一向に目的地付近へ近づいている気がしない。あまり飛ばしても、体力の方が先に切れてしまう。

 

 

 どれほど走っただろう、脱落者はいないようだが再び休息は必要だろう。もう一度水分を取るように息を切らせながら告げる。一応歩みを進めてはいるが、足はパンパンだしこのまま倒れ込みたい気持ちでいっぱいだ。勝手に出てきた奴のために何故ここまで必死にならないといけないのだ、もう帰ろうと自分の中の嫌なところが顔を出す。

 

 「トリン!あと、どれくらいか分かりますか!」

 

 そんな自分に少し苛立って、思わず怒鳴ってしまう。こんなことをしても、ただ疲れを増長させるだけなのに。トリンもそんな俺の状況に気づいているらしく、少し表情をしかめている。

 

 「あと1キロもないです、長姉あいつらが心配なのは判りますが、少し足を止めて休みましょう。もう全員が戦える状況でないですよ。半刻も休めば気持ちも落ち着きます。そしたらまた進みましょう」

 

 確かに彼の言う通りなのだが、心の弱い俺はここで地面に腰を下ろせば立ち上がりたくなくなる。なんとなく、彼の諭すような言い方が癪に障るのは、俺が落ち着きのない子供扱いされているように感じるからだ。すでにこの考えすらガキの思考なのに。

 

 「あなたたちは休みなさい、私は止まれば動けなくなる。ゆっくりと進んでいるので一時したら追いついてきてください」

 

 これでは落ち着いているように告げても、彼の提案は受け入れられないと言っているようなものだ。クソッと心の中で悪態をつきながら、前に進む。彼らが地面に腰を下ろしているのが背中越しに感じ取れるような気がした。

 

 そのまま一時間ほど歩き続ける。息は既に落ち着いたのだが、体の疲労感は抜けきらない。ハーフマラソンほどの距離だが、実際の過酷さはトライアスロン寄りである。柔らかいベットに大の字で倒れ込みたい、ゆっくりとお茶でもすすりながらボーッとしたい、だらけるようにゴロゴロしたい。こちらに来て一度も出来ていないことだ。今になって昔、前世の生活が恵まれていたのか分かる。

 もう、そろそろ着くだろうと、アイテムボックスより細剣を取り出し腰に下げる。背中には薄い鋼を木の板に鋲で打ち付けた盾を背負う。

 もう一度水を一口二口と流し込めば、口よりこぼれた水がアゴを伝い服を湿らせ、火照ったままの体を僅かながら冷やしてくれる。大きく息を吸い込めば、後方から追いついてきた彼らの足音が聞こえる。

 

 「遅いですよ、ふぅ……すみません、トリン。今はもう落ち着きました、心配させましたね。では武器と盾を配ります。この件が終われば一度全員休みを入れましょう、最近は働きすぎました」

 

 一人一人に剣と盾、短槍を手渡していく。もう程なくして街道に出るだろう。一時の間森の中を街道沿いに進まねばならないことになりそうだが。

 さて、そろそろ使うべきだろうか?俺の持つ近接魔導の成す業は、体の強化や肉体に接している物体の強化である。騎士や護衛が持っていると出世間違いなしのスキルだ。近接が体内循環系の魔導、近距離なら放出系で体より話して使用することができる魔導で、中距離ならばメイテンの使った魔法らしいモノ、火炎弾や空間把握等が加わる。遠距離はそれに遠話や転移、空間爆撃が追加されるのだろうが、遠距離魔導を使えるものなど、この世界のごく限られた人種だけであろう。それこそ祖クラスの魔王か神託勇者ぐらいのものだ。

 そうと決まれば、体に魔力を通していく。一瞬にして体内の乳酸が分解されたかのように体が軽くなる。しかし、これを解除した時の反動が怖いのだが……。

 

 トリンのスキル、鷹の目を使用してもらう。魔力強化された目での遠視である。しかし、生憎と目に見える範囲に何か気になるものはないらしい。一度部隊を分けたほうがいいのか、少し迷うところである。できれば伝達手段が限られているので、あまり離れて行動はしたくない。

 

 「かと言って、それほど多くの手が打てる状況でもなく……、本隊と支隊に分けます」

 

 31名は俺が直接指揮し、残りのを各4名ずつトリンと直下のエステルという少女に任せる。年長組ほどではないが、彼女も幾分有能である。それを言い出せば、うちの当初のメンバーは全員才能豊かなのだが。

 ここまでくれば仕方ない、結局道の真ん中を歩き彼らが自ら出てくるのを待とうと考える。

 

 「知恵が欲しい、力が欲しい、これくらいなんともないと思える位の勇気が欲しい」

 

 

△▼

 

 

 馬車もこちらに辿りついたものは全て確保した。騎兵の馬も無傷である。帝国軍の残党がさらに近づく。彼らはこちらに気づくと馬速を上げる。

 

 トスッ

 

「射ってきた!散開!」

 

 問答無用か。今まで順調に行き過ぎたために、少々考えが甘くなりすぎていた。一部を除いて、装備がバラバラな集団が武装して馬車隊を襲えば普通は味方と思わない。完全に敵と認識された、こうなれば話は全く通用しないだろう。一射目を皮切りに騎射が一斉に開始される。馬車を盾にし矢をやり過ごす。

 

 「近づかれたら危険だ!ロウェン、離脱するぞ!」

 

 彼に声をかけたのは一度前に飛び出し、他の人間が射程外へ離れるまでの時間稼ぎをする為である。ロウェンもリオンも矢程度で死ぬようなタマではないと自負している。そもそも、目に見えるものならば切り捨てられるのだから、何も問題はない。こちらの意図をすかさず理解してくれるのがリオンにとっての彼だ。

 幸い彼ら帝国兵もそこまで数は多くない。と言っても先程まで存在した魔人兵の移送部隊より多いのだが。襲撃していた残党が歩兵でなく騎兵であるからして、そこらの雑兵ではない。帝国特有の騎馬突撃を身につけた者たちの生き残りであろう。

 

 馬を傷つけて失うわけにもいかないので、他の騎乗していない者にそのまま受け渡す。すぐさま飛び出せば、一斉に射線がこちらを向くとほぼ同時にこちらへと飛んでくる矢を一度で何本も切り落とす。リオンのとなりでロウェンは短槍をクルクルと振り回し、追撃している。

 その隙を突き一頭の騎馬に二人で跨り、馬車より離れる。それに気づいて帝国兵はそちらに弓を向けるが、その間にリオンはすぐ側まで近寄ってきていた帝国兵の先頭へと猛疾走。接近に気づいたのか、弓から切り替え、剣を抜こうとしたところをロウェンが相手の脇へ上向きに突き刺す。その帝国兵はそのままの勢いで突き落とされて首を折り絶命。それを見た他の帝国兵が至近距離で矢を放とうとするが、その弓の胴部分をリオンが切り落とし、弦の弾力によって弾かれた弓の残りの破片が帝国兵の顔にぶち当たる。顔が仰け反った瞬間に剣を鎧の隙間へと突き刺し、回転させる。絶叫しながら落馬し倒れた帝国兵の頭を兜ごと蹴りつける。脳震盪で反応が鈍ったところで、すぐさま振り返り、騎馬突撃で槍を突いてきた帝国兵の腕を大きく剣の刀身で払うと同時に腕をつかみ引き落とす。

 

 「ダメだ、リオン!まだ後続がやってくるぞ!」

 

 落ちた敵の止めをさしながら、遠くを見ればさらに30騎ほどが土埃を上げる程の速度で街道を駆けてくる。チラリと横目遠目でみれば子供の体格を生かし、一つの鐙の上で、一人が手綱を握りもう一人が応戦するという器用なことをしている味方。今の数だからあちらも何とかなっているようだが、これ以上増えればヤバイ事になる。

 

 「ちっ!私が一人で突っ込む!ロウェンはそこにある帝国兵の騎馬で追いついている奴らを倒しておいてくれ!」

 

 そしてこの場にいる3頭のウチの体格の一番良い馬に飛び乗る。いざ、流石に死を覚悟し突撃しようとした時であった。

 

 

△▼

 

 

 「まさか、ここまで厄介な事になっているとは……、トリン!馬は気にしなくてもいいです!足を射抜いて転がしなさい!」

 

 彼は俺に対する返事の代わりにすぐさま矢をつがえ、放つ。数分違わず矢は馬の細脚を打ち抜き、先頭を駆ける馬は崩れ落ちる。それに巻き込まれ数人が落馬。騎兵突撃を極めた集団の生き残りだけあって、全員が転けることはなく転けた馬の上を飛び越える者もいる。

 

 「厄介な!」

 

 あの数の騎兵に近づかれた死ぬ、有り体に言えば轢かれる。森の中に身を隠せば彼らも下馬しなければならないだろうが、各個撃破される可能性が高い。帝国兵の騎兵練度は非常に高いという噂である。咄嗟に引き起こされた事故に対する対応を見ていても、それは嘘ではないことが分かる。

 一斉に槍を投げさせてもいいのだが、コツを掴めないまま投げても人間を貫くことなどできないと思われる。敵を怯ませられる可能性とやらもあるかもしれないが、希望的観測に過ぎない。むしろ、一瞬の隙しか生まれないだろう。なにより再び全員に槍を受け渡す時間の方が惜しい。

 

 結局のところ散開、森に逃げ込んで追撃するしか手がない。短槍ではファランクス等の陣を組もうが被害がでかすぎる。むしろ子供の体格ではそのまま跳ね飛ばれるだろう。

 合図と共に全員が一斉に左右に散らばり、街道に沿って存在する森の中へ飛び込む。手が入れられていない森は背の高い草木が多く、身を隠すことだけは簡単だ。

 そのまま、雑草に紛れて一度集まれば、帝国兵が下馬していくのが分かる。近づかれれば人がいる場所は草が少し倒れているのでバレるだろう。取り敢えず、追撃がしやすいように横一列にならびしゃがんだまま待機する。

 

 と、近くまで近づいてきた帝国兵が慌てて踵を返し走り出す。こちらも少し立ち上がって様子を見れば、森に入らず馬の見張りで待機していた騎兵をロウェンと二人の騎馬、孤児たちが襲撃していた。

 ここぞとばかりに飛び出し、数人がかりで帝国兵を滅多刺しにする。騎乗したままの騎兵は足を止めてしまった故にその強さを出せぬまま、攻守が逆転する。

 

 巻き返しの不可能を悟ったのか、一部の帝国兵は逃げ出すが、尽く火炎弾と矢の餌食になっていく。

 二分ほど戦えば、生きている敵はいなくなる。

 

 「……哀れな」

 

 死んだ帝国兵を見れば、頬がこけ目元にクマができ、どう見ても飢えているのがわかった。ほぼ食事をしていなかったのであろう。馬は痩せている様子もないので、襲撃のために餌を与え続けていたのだろう。自らが飢えても馬は飢えさせず、それでいてあの戦闘力を見せた帝国兵に尊敬を覚える。

 

 「しかし、なぜ戦闘になったのですか?」

 「恐らくですが、賊と間違えたのでしょう」

 「あね様、ウチの考えですが、飢えでまともな思考を奪われていたのでは?帝国兵といえば規律正しい軍です。一部の例外はいるでしょうが、彼らの装備を見れば精鋭の類だとは想像が付きます。賊と間違えるようなことは、あ、いえ、冷静な考えがなくなっていれば全員が(ぞく)に見えても仕方ないですね……」

 

 ロッキーヌの言うとおりである可能性が高い。大体、直接戦闘で三竦みになりそうな時、どこの軍隊でも問答を行い、敵味方をハッキリするのだ。一言も発せず戦闘になることはまずと言ってない。

 

 「この話は置いておきましょう。まずは牢馬車の中を確認せねば。リオン、日程からして彼らは帝国兵で捕虜になった者たちでしたよね」

 

 頭が痛くなる、捕虜になっている帝国兵からしてみれば、俺たちはたった今味方を壊滅させた悪党である。開け放てば間違いなく戦闘になるだろう。だからといって、そのままここに檻ごと捨て置くこともできない。否応がなしにこの中にいる連中は外の出来事を声や音で、ある程度は理解せざるおえない。誰が襲撃者で、誰が負けたのかは牢馬車の檻の部分は布で塞がれているので、詳しく察することはできないだろうが。

 はぁ~、ともう馴染みになってきた溜息を吐きながら、馬車の一台に近づいていく。布部分を切り裂き、中が見えるようにするのだが、誰も顔を見せない。しかし不用意に覗き込めば目を潰されるといった可能性も無きにしも非ず。案外これは囮で中にるのは魔獣といったこともあるかもしれない。そんな物を持ち帰るわけにはいかないのだが。

 

 「仕方ないですね、弓前に。短槍は盾を構え円陣」

 

 用意ができると、リオンに錠を切り取ってもらう。ストンと切り落とされた錠は地面に落下し、続いてロウェンが槍で扉を引っ掛けてゆっくりと開ける。

 飛び出してくるモノはない、この時点で魔獣の線は消えた。先ほど物音がしたので何も乗っていないということはまずないだろう。

 

 「話は聞こえてますね、出てきなさい。抵抗しなければ悪いようにはしません」

 

 目と鼻の先で武器を構えるように命令したのだ、頭のいい人間でなくてもこの状態ならば躊躇しないといったことはほぼない。自棄になって抵抗するのならば話は別であるが、少なくとも冷静さは残っているようである。

 ゆっくりと馬車の床板が軋む。さて、鬼が出るか蛇が出るか。

 

 「……おい、リオン。お前のせいだぞこれは、責任は取れるのか」

 

 出てきた人間を見て、こちらがマジギレしそうになって溢れた言葉がこれであるのだが、横目で見れば、それを聞いて顔の青くなったロウェンとリオン、カール、ゲール、レントの五人衆。彼らが出てきた人間を見て顔色を変えたのか、俺の呟きで顔色を変えたのか気になるところではあるが。恐らく多分、前者だよな?

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