近衛騎士たちだけを働かせた二日間、未だに孤児と少女騎士団との間には何とも言えない空気が流れていた。どちらにしてもどう接していいのか分からないのだろう。
聖剣姫の近衛騎士団は才能はあるが、常識はない。元々王宮内での姫の警護だけを担当していたのだ。騎士団少女たちは王宮内での警護のためだけに、全てを犠牲にして戦闘能力だけを突出した集団である、よって戦闘能力は今の段階で過分にある。命を張ることだけに生きてきた彼女たちが全員生きているのは、聖剣姫が見知った者に死んでほしくないとの理由から、共和国の首都が陥落し王城に踏み込まれる時点ですぐさま降伏を命じたからであった。
命令に対しても文句の一つもなくこなすので、こちらとしても問題にあげにくいのだが、彼女たちは生活能力が皆無である。食事の用意もできないし、普通の騎士階級なら知っていて然るべき礼儀や能力が一切合切削げ落ちている。それは野営の能力や家事洗濯のことである。
この集団生活に今現在必要な能力の2TOPと言っても全く過言ではない。早急に慣れてもらう必要があるだろう。だが、そこから不満が生まれないかどうかは非常に不安だ。
様々のことに初日からこき使っている自覚があるので、こちらとしても考えるものがある。彼らの住居を与えているのはこちらだとしてもだ。
正直これらは俺ひとりで考えても仕方なく、本人たちを含めた話し合いで解決する事案である。
「そこで、あなた達に集まってもらいました」
「「「……」」」
未だなんのことか理解している様子がないだ。当然、俺の考えを話して集めたわけではないので当たり前である。集まった瞬間に突如『そこで』なんて知ってる前提の切り出しをされても困るだけであろう。それを分かっていて何故、このような事をするのかというと、単に俺がやってみたかっただけである、他意はこれっぽちもない。やっぱりというか、ツッコミは誰からもなかった。
「イルーナとその騎士たち、今回参入した孤児たち、そして我々の仕事を明確にしようというのです。一度にそれもあまりに短期間に統合を繰り返しました。全てを私一人で決めるのはメンド、いえ、適材適所という言葉があります。戦闘でも生活でも住み分けをすべきか、それらを話し合っていこうと思います」
俺の性格をよく知っている年長組の
「ですが、その前に貴方方に尋ねなければならない事があります、私に従うかどうかです。正直に言いましょう。従わないのならば出ていって貰いたい。無用な争いはしたくありませんので。ただ勘違いしないでもらいたいのですが、私とて人間。多くの間違いがありましょう、それらに関してはただ従うのではなく質問し意見して頂きたい。こちらとて全知全能ではないことは重々承知しているので。だが、意味もなく反抗されてはこちらとて対処せざるをえない、それを理解してほしい」
神でもなく、厄事に対し全てをなぎ払うような、理不尽な力を持っているわけでもないのだ。頭脳は多くあったほうがいい。それこそ多くの人間によって難事であるほど取り組むべきだろう。俺ひとりで、指先一つで解決できるなんて考えなど持ったこともない。結局俺がする事といえば、皆で出した案を纏め、俺の決定として告げるだけである。あくまで主体は彼らであるが、議決は俺がするのだ。
「近衛、正騎士隊部隊長であるウルミナ・フェイローンと申します、発言許可を頂きたい」
「許可します」
「我らの主は殿下であります、しかし、既に殿下は貴女に従属をなされました。我々は我々の助命のために不遇を強いることになった殿下のために命をかける所存であります。だからこそ聞きたい。殿下の今後を如何様にするものか」
忠義に厚く、愚直である。彼女を見た感想であり、彼女以外の騎士たちすべてがそうなのだろう。命をかける為に創られた存在が、命をかける
「はて、殿下とは誰のことでしょう?イルーナ、貴方はどう思いますか?」
俺に話を振られた、永遠幼女(予定)はこちらを大きな目で見て驚いたあとに慌てふためく。突如としての話題についていけなかったのだろうか。それでも関係なく、何か勘違いをされる前に話を進めるのだが。
「イルーナ、貴女は私たちの家族と言いました。ですが、貴女がそれを否定し姫としてあると言うのならば、話は終いです。酷なことを言うようですが、貴女の部下を連れて即刻立ち去ってもらいたい。私の考えとして厄介事は抱え込みたくはないので」
言い方はキツイが、コレはハッキリとさせておくべきことだ。一度は聞いたが、流れでうやむやに決まってしまった、というより俺が決めてしまったので、ここでキッチリと責任をとっておこうと考えたのである。ここで彼女が否定するのならば今後は全て彼女自身の責任となるのだ。
「妾はここにいてもいいのですか?」
「もう一度言いましょう、私はあなたを家族と言いました。家族を追い出すような輩は逆に追い出しましょう。既に貴女は私の守るべき慈しむべき存在なのですから。それに、きっと、大きくなれば貴方も私や家族を守ってくれるでしょう?私がイルーナ、貴女家族であるのならば追い出す理由はどこにもないのですよ」
大粒の涙を浮かべ、声もなく泣き出す少女。周囲の視線がとても生温いものになった気がしないでもない。非道くくさい言葉を吐いた自覚はあるのだが、ウルミナと名乗った少女は、「おおぉぉ」というような少女とは思えないほど漢前な漢泣きを始めている。これは非常に恥ずかしい、取り繕って話すようなものではないと考えるので、避けようもないのだが……、むしろ避けれるならば教えて欲しい。
「ミリアーヌ様、我ら近衛騎士は貴女に、主の家族である貴女だからこそ忠誠を誓いましょう」
色々と勘違いしてもらっては困る。人が死ぬのも、こちらを害するものを殺すのも慣れてはいるが、身近な人に死なれるのは悲しいし、ハッピーエンド好きの俺としては彼女たちが味方となった今では彼女たちが死ねば、自分で言うようなことでもないが酷く心が痛むと思う。
感傷に浸る
運命が悲運を運んでくるのだとしても、途中で奪って投げ捨ててやろうではないか。それぐらいの心構えを持たなくては楽しく生きることなど出来ないだろう。
「必要ありません、貴女たちも家族としてここにあるのならば、そこに忠誠は無くともよいモノです。忠誠などなくとも、皆のために働き、皆のために戦い、皆のために命を張るでしょう?そこに一方通行なものを態々挟むのは少々無駄である当時に無粋とは思いませんか?」
何事もない平和に満ちた世界では、馬鹿の言う戯言かもしれないが、この世界この時この場所ではこの言葉の重みはしっかりと存在し、これを馬鹿にする者などいるはずもない。自分に酔っているという自覚はあるのだが、酔わないままに過ごすには既に足りないものが世界には多すぎた。あまりにもつまらない、生きるだけの人生。足りないからこそ形のない言葉だけでもそこに足してあげるのだ。同じ形のないものでも、嫌な運命より、良い言葉である。そこから言葉だけでなく、そこに肉付けしていき、形あるものに変えてしまえば、その存在の否定など誰にも出来はしないだろう。
「これは孤児である我々にも貴方方にも言えることです、それらを踏まえてもう一度言い方は変わりますが尋ねます。私たちは貴方たちを守りましょう、だからそれの手助けをしてはもらえませんか?」
なんかやり遂げた感がいっぱいであるが、話はここで終わらない。実際問題解決したことはイルーナの件のみであり、ようやく話し合いの大基盤が出来上がっただけであるからだ。今後の
まずは戦闘における部隊の再編である、これを元にして仕事の割り当ても考えようと思っているからだ。正直兵科をまとめて管理するだけが脳ではないとは考えている。魔道士なら魔道士、銃士なら銃士で固めるのではなく、一部隊の構成員を近距離、中距離、遠距離を平均的に配置しそれを平行運用するのも一つの手であろう。問題は今現在の一部隊の規模がそこまで大きくないので、複数部隊を同様に配置して運用することが前提ではあるが。だが、これは部隊が器用貧乏にならないとも言えないので、もしこれを採用するとなっても、必要に応じて同じ再び兵科をまとめて運用する訓練も行うことが前提となってしまう。つまりはどちらを
調停士集団としてあるのか、傭兵のような存在としてあるかによって前者と後者に分かれる事となる。魔に属するものとの戦闘か、人間同士の戦闘がメインかによって変わるが、結局のところ両者ともに人対人の戦いは必ず行うことになるだろう。
そこの話し合いもあるのだ、考えてみればこれだけの規模の集団のtopとは如何に面倒くさいものかがわかると思う。ある程度の好き勝手出来る分、自由度が大きい分、何から手をつけていいかわからないのだ。
「調停士の集団としてあるのならば、最初の費用はこれだけの人数です。自ずと莫大なものになります。しかし、国境を税なく通過できるのは後々に響いてくるでしょう。傭兵では魔物狩りをメインとして行うにするにしても、まず組合間登録の調停士と異なり信用やらが丸々存在しません。ですが、、登録のもとでなく小金稼ぎができるのは今の我々にとって非常に魅力的でしょう」
大規模集団の下級鬼種族を狩ればそこそこの金額になる。といっても討伐報酬が調停士より少々下がるのだが。魔と人との力差を平等に保つが為に名付けられたのが調停士。とはいえ、どう考えても建前であり、人のためだけに存在するのが彼らだ。傭兵は金さえ受け取れば、魔人にだって付くことがある。
実は魔人も魔と同じ分類に分けられてはいるが、一部を除いて人間と変わらない。むしろ人よりの存在である。
実は魔王にも種類がいる。魔人たちの王としての魔王、これを
厄介なのは覇者の方であり、これを討伐するために聖剣姫は造られた。ちなみに帝国の戦争のお相手は統治者の方である。本来なら敵対する必要すらないのだが、つい最近神託によって魔を滅ぼすものがこの世界に到達すると予言されていたのだ。以前似たような予言がなされ、統治者と覇者を勘違いした勇者(笑)によって魔人の国は大混乱したのである。どれほど混乱したかは魔王が討たれ、領土の4分の1が帝国と共和国に奪われたと聞けば理解できるだろう。つまり、元々魔人の国は帝国と滅んだ共和国に恨みがあったのだ。とはいえ開戦しようにも疲弊した国と摩耗した魔人の国の貴族、民は戦争を嫌った。だが、聖剣姫が生まれたとなれば話は別で、やられる前にやってしまえとばかりに進軍を開始したのである。
まさか、侵攻されると思っていなかった共和国は一瞬にして滅び、帝国も初手を奪われ名将の類を開戦すぐに討ち取られたせいで、グダグダな戦争を続けている。
「私としては初期投資の費用がかかるとしても、最終的に有利だと思われる調停士として話を進めていきたいと考えています、反対意見はありますか?……ないならば、部隊編成の話に移りましょう」
一応、中核となる大部隊を一つ、中部隊を三つ、小部隊を六つ作ろうと考えている。魔道士や弓はそこそこ平均的に配置するが、銃士隊はまとめて運用しなければ役に立たないと思われるからだ。結局大部隊の構成を銃士隊と盾騎士、槍部隊で固め、騎兵だけの中部隊一つにその他の混成部隊っといった具合になるだろう。年長組や騎士隊長にそれぞれの部隊指揮をお願いしようと考えている。俺はその部隊長を統率する役目であるが、隣に誰か欲しい。これも年長組から選ぶか、在野にいる知恵者を探しに行くか色々と案はある。
なぜだろう、考えれば考えるほどにやること増えてる気がしてきた。これって気のせいかな?