「アンタとの約束を果たせば、あいつは良くなるんだな?」
目を体を包帯で覆った、女性。世界をつなぐ幻想の一柱。名も無き無慈悲な存在。最も彼女に近い存在を人は神と呼ぶ。しかし彼女の出来ることといえば、人を知恵あるモノをただそこに呼び寄せ、少しばかりの力だけを与え様々な世界に落とすことだけ。限定的な場所場合では死者の蘇生すら行う彼女だが、結局やる事は他人任せの救済である。人が人を守るために生んだ存在、感情すら縛られた彼女も聖剣姫とはまた異なった人類の奴隷である。
『ああ、約束しよう。しかし、そこに力を使うからにはお前に与える力は限りなく小さくなる』
彼女と契約した少年は、他世界での救援と地球での居場所を代償にたった一つの願いを叶えた。少年らしい純粋な願い、『初恋の相手の目を見えるようにしてあげて欲しい』。
彼女との契約を果たせば元の世界に帰ることなどまず出来ない。よしんば帰れたとしても、あの幻想が弱った世界では膨大な時間がかかるだろう。少年もそれは理解している、できれば恋人になって一緒に遊んで、色んな事をして最後には結婚して、一緒に暮らしたかった。彼が持っているのは、ただ自分よりも好きな人には幸せになって欲しいと言う今時珍しいほどに純粋な愛だった。
「それでもさ、なんとかなると思うんだうな、何故かは分からないけど」
首を傾けながら苦笑いをし頬をかく少年。少年の己を犠牲にした願いは只の奇蹟として扱われ、これからの努力も苦労も何一つ彼女知ることなく生きていく。彼女はまだ幼さを残しながらも美しい。結局、彼女は少年と違う人と恋をし、結ばれることとなる。彼女への彼の想いが結ばれることなど決してないのだ。
『その門を潜りたまえ、勇者よ。いや、在り来りすぎるな、屈服せぬ者よ。お前の願いは世界の願いを叶える代価として果たそう!……貴公に世界の加護あらんことを』
他人任せなのだろうか、勇者を異世界に送るというのは?いや、そうではないのだ。あの世界では他人を救うなんて考えがあまりにも少なすぎる。誰もが既に自分のことで精一杯。停滞すろことを誰かが望んだ世界では、簡単に人が死ぬのが当たり前なのだから。世界を小さな波紋を呼ぶことさえできない世界には、新たな風が必要となるのだ。
だから間違っていない、彼女は毎回そう自分に言い聞かせていた。
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「終わらない終わらない終わらない」
誰か助けてくださいと言いたい。会議自体は大きな波紋を呼ぶこともなく、そこそこの意見と反対が出ながらも順調に終えることができた。なかなかにいい傾向だったので、組織が腐らないようにこのまま続けていきたいと望んでいる。だが、あれから
城壁の修復は完了し、見張り台の増築も終わった。今は晴れた日に木製である見張り台に漆を塗り込んだりして、腐り止めなどの些細な補強を施している最中だ。紫外線にこそ弱いが、強度は上がる。劣化した部分は時折重ね塗りしていけばなんとかなるだろう。さらに最近では養鶏、鶏を大量に城壁内の一部に離して飼育も開始した。鶏を狙ったイタチなどの肉食小動物が侵入してくるが、それらは捕まえて城壁に晒し、鷹、鷲を捕まえるのに役立てており、また捕らえた鷲や鷹は広めの檻を用意しイタチ狩り等に使えるように調教している。ついでに羽根を少しずつ毟って矢羽根の材料に変えていく。芋づる式?に鷲や鷹は増え、捕食者のいない檻の中でも繁殖期だったのか雌雄両方がいたのだろう、子を産み地道に増えている。
馬の使えるものは鹿や猪を狩りに行かせることも多い。あまり狩りすぎて居なくなっても困るので、乱獲はしないように言いつけているのだが問題はなさそうだ。実際には、相当数が森の中にいるらしく、ようやく出来上がってきた畑を守るために設置した罠にはほぼ毎日猪が捕まっている。彼らには貴重なタンパク源に今はなってもらっているが、いつかは養豚モドキも開始できるのではないだろうか。
ついでに兵舎の壁の修復や屋根の張替え、馬小屋はほとんど作り変える羽目になっていた。さらに言えば寝具やデスク、テーブル、柵、様々な生活に必要なものを分担して製作しているのだ。必要なものに気づけば気づくほど人が割かれ作業速度が遅れるので、仕事が減るはずもない。
息抜きに城壁に登ってみれば、城壁の周りの畑をさらに囲むように杉丸太を引き起こし城柵を組み立てている。出来上がった部分では補強も兼ねて足場を組み付け、内側から弓矢を射掛けることができるようにしてある。火矢、砲撃、中規模魔導には無力かもしれないが、近場をうろつく魔獣や害獣、下級鬼には絶大な効果を発揮する。まず乗り越えることはできずに、安全な位置で狩れる。この城柵も城壁もどきにまで発展させる予定である。
深めの5~6mほどの溝を掘り、粘土を焼いて作った煉瓦を埋め込み地下からの侵入を防ぐためのモノを設置。城柵の表面を覆うように煉瓦を積み上げれば結構の強度になるだろう。最初から煉瓦で作ればいいのかもしれないが、今現在は生産が追いついていない。建物の補修のために必要な数で完全に消費してしまうのだ。
耐熱煉瓦の製作にも力を入れている。切り出した石材と煉瓦を幾つもダメにして、少しずつであるが煉瓦窯の内部温度を引き上げていくことによって、高温にも耐えうる煉瓦が焼けるようにしているのだがこれにも時間を取られている。耐熱煉瓦を使った窯ができれば、何度も作り直すハメにならなくて済むので、どこからどの温度から耐熱煉瓦と呼ぶのかは知らないが、ある程度の強度を持ったものが早急に出来上がる様に願っている。
……はて、俺はなぜ築城に近いことをしているのだろうか?
深くは考えない方がいい気がしてきた、寝床として普通に住む分には要塞を城塞に変える必要などないのだが、要塞内に一つの町が出来上がる勢いである。職人も商人も住んでいないが、鍛冶師の弟子が育つのを待って招いてもいいかも知れない。基本的な武器は消耗品なので、外注に出すよりも安くなるお抱えは必要になるだろう。
「いやいやいや、だから思考が横道にそれてますって、だから仕事増えるんです」
本気で意味がわからない、冒険RPG的なことしようとしていたら気づけばなんかSLGだったみたいな感じである。魔物狩って一攫千金どこいった、なんで自給自足で自活できるための拠点づくりに変化しているのだろうか?ここは大規模ギルドの長的な存在になるべきなのでは?なに軍団長というか町長的な存在になってんの俺。
結局のところ、基盤作りは大切だよね?と自分の中で納得させる形で話が落ち着くのだが。実は既に同じような自問自答を数十回以上繰り返していた。おそらく、全てが一息つくまで、調停士集団として軌道に乗るまではこの悩みは止まらないこと請け合い?である。
書記官もしくは、軍師的な存在が心底欲しくなる今日この頃であった。
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「孤児が消えている?ウィルテンバードの孤児院建設の認可が出た矢先にですか?」
聖教会シュトラン、治癒神を主とする宗教一派である。孤児院や治療院を運営する清純派と呼ばれる宗教団体であり、数少ない悪い噂があまりない教派であった。その他にも治癒術スキルや医療スキル、薬術スキル持ちが多数所属することでも有名なのもこの教会だ。
その正教会シュトランの王国支部、都市ウィルテンスフィアにある教会の一室。そこで一人の修道女と教会騎士、司教の計三人が話し合っていた。
「シスターアルテマ、どうやら10歳~15歳程の年齢が失踪し始め、半年ほど経つと今度は幼児、5歳~9歳程の年齢の者たちが消え始めたようです」
「それは……、孤児を狙った人身売買なのでは?」
「そうかも知れませぬ。ですが、孤児の数が減った今回の件において孤児院建設を見送る意見が上がりました」
多くの孤児が集団で存在し表通りで靴磨きや案内、花売りをすることで治安悪化につながると問題視されていたから所以の今回の孤児院建設であった。どういった理由で孤児が減ったにせよ、居なくなった者のために巨額の投資をするほど教会も余裕があるわけでもない。
しかしやはりそれに、子供の事を思うが為に納得できない者もいる訳である。都市ウィルテンスフィアにおける教会のその筆頭とも言える女性がシスターアルテマであった。
「人身売買であるなら、阻止しなければなりません。騎士を派遣し関与するものの捕縛を行うべきです」
「シスターの言い分はご尤もです。ですが、教会騎士たちも暇ではありません。帝国の難民による治安悪化もあります。今は戦場が近いウィルテンバードは尚のこと、ウィルテンスフィアの騎士も派遣するほどの余裕はないのです」
「ですが、原因解明には尽力すべきです、私と修道女二名、騎士を二人ほど付けてウィルテンバードに向かわせては頂けないでしょうか?」
「……仕方ありませんね、おそらく許可は出されるでしょう。ですが、身の安全は保証できませんよ。もし此度のことで貴女方が事件に巻き込まれて、行方不明になったとしても我々としては関与できません。いえ、関与するほどの余力はもうないのです」
聖教会シュトランだけでなく、他教会の騎士たちも落ち延びた帝国兵の対処に追われている。一部の帝国兵が盗賊となって村や町を襲っている現状は早急に解決すべきなのだ。領兵も総出で駆り出されている今、清純派される教会であっても孤児のために騎士団を動かすことは不可能であった。
「存じております、こちらこそ無理を言って申し訳ありません」
「いえ、シスターアルテマのお気持ちお察しします、教会騎士としても力になれず申し訳ない」
話が終わり、部屋を出る司教と教会騎士。それと入れ替わりに二人の修道女が入室する。金髪を頭頂部で二つ結び、ツインテールにしたタレ目の少女で彼女たちは
修道女アルテマは治癒術、薬術スキル持ちであり、彼女たち二人も治癒術、医療スキルを持つ、若手としては将来有望なグループであることも有名な理由となっている。
「「シスターアルテマ、失礼します」」
「ええ、どうぞ、シスターメル、シスターイル」
双子は幼い頃より教会に預けられ、同じような環境で育てられたためほとんど似たような性格になっていた。思考も似通っているためか、言葉もだいたい同じタイミングで似た内容が話される。本人たちが言うには細かいところ、小さな黒子の位置などが違うらしいが、目に見える位置にないので正直二人の見分けが付くのは修道女アルテマのみである。といっても時折彼女もどちらがどちらか判らなくなるらしいが。そして今回、彼女が連れて行こうと考えている修道女は彼女たちであった。
「今回の件貴女たちにも手伝って貰いたいのです。許可は今日中に出る予定なので、早くて明後日には出立できるでしょう。準備をお願いできますか?」
「「わかりました、今回魔導杖はいりますか?」」
「お願いします、ああ、それと護身用の短剣も用意できますか?教会騎士の方に言えば私達が使うための、巡礼用のモノがあると思いますので」
「「はい、シスターアルテマ」」
彼女たちが退室すると同時に溜息を吐く。今回騎士二人を付けてくれるとはいったが、二人でどれほどの役に立つのか。いや、練度実力ともに申し分ないものを彼らは持っているのだ。だが、帝国兵の残党は徒党を組んでいる。落ちぶれた弱っているだろうとは言え、屈強出会ったことには間違いない。数によっては足止めもできずに彼女たちは身ぐるみを剥がれ殺され、もしくは犯されるだろう。
そのような旅に双子を連れて行くのはあまり乗り気ではない、ましてや今回の案件では人さらいと相対する可能性も多いにある。決定的な証拠を掴めば領兵を派遣してもらえるだろうが、調べる途中で彼女たちが逆に始末されるか、売り飛ばされることもないでもないのだ。
双子はまだ13歳ほどである、
「大事に至らなければいいのですが……」
本人もあまり乗り気ではないが、かと言ってここで止まれる様な楽な性格はしていない。彼女の子供を想う心は真実であり、これが良くも悪くも融通が効かない性格となっているのだ。周りからも、もう少し肩の力を抜きなさいと常々言われているのだが、本人からしてどうしたらいいのか分かっていないのである。
旅支度、どのような荷物を持っていけばいいのか、どのような心構えが必要かなど、巡礼に出たことがある修道女に尋ねるために彼女も退室する。
その足取りはいつもハキハキ歩く彼女としては、如何に元気がないかを物語るモノであった。